Spotifyとアーティストの対立「十分な報酬が支払われていない」
先日、音楽ストリーミングサービス「Spotify」のCEOであるDaniel Ekがストリーミングサービスの報酬に対する批判について語りました。
アーティスト側の多くの批判は「ストリーミング再生数に対するロイヤリティ(報酬)が低すぎる」といった内容です。
Spotify CEOのインタビュー内の発言
Daniel Ekは音楽系メディアである「Music Ally」のインタビューについての回答を要約すると。
「批判しているのはSpotifyの収益に満足していないごく一部の人達の発言だ。データによると、Spotifyの収益で生活できているアーティストはますます増えていっている。」
「この話には誤解があります。過去に成功していたアーティストのやり方、年に3~4回リリースするような方法では十分な収益を得ることはできない。」
「ストリーミングで成功したいのであれば、変化する音楽の状況に適応し、消費者とのエンゲージメントを高めなければならない」
これらの発言で現在一部のアーティストから批判を受けており、対立を生んでいます。
アーティスト側の反応
「億万長者のダニエル・エク氏は、音楽=製品であり、定期的に解約する必要があると語った。」
「あなた(リスナー)はSpotifyに利益をもたらし、楽しんでいますが、それはアーティスト/クリエイターの主要な収入源をつぶしているものの一部です。この損失に耐えるのに「十分に豊か」なアーティストの数は、約.0001%です。 Daniel Ekの解決策は、私たちが10セント硬貨に録音をすることですか?」
「彼が何について話しているのか全くわかりません。彼は人生で音楽を作成したことがなく、働くミュージシャンに何ができて何ができないかを伝える権利はありません。」
「億万長者のダニエル・エクは、音楽やあらゆる種類の芸術を作ったことはありません。商品とアートには違いがあることを理解しようとしていません。そのため、文化的成長の可能性を失います。」
多くのアーティストがダニエル・エクに対して、「音楽を作ったことのない億万長者」「アートと商品の区別ができていない」といった批判をしています。
現在のストリーミングによる収益は?
そもそもSpotifyのようなストリーミング配信サービスに音楽をリリースして、リスナーに再生された場合のロイヤリティはどれぐらいのものなのでしょうか?
現在「Daniel Ek」の純資産は、2020年7月の時点で41億ドルと報告されています。
サウンドチャートによるレポートでは、Spotifyを介してストリームごとに支払われる平均金額は約0.00318ドルで、それを念頭に置いてDaniel EkがSpotifyを介して純資産を作った場合、彼の音楽には合計で約1.3兆のストリームが含まれることになります。
プラットフォームで現在最もストリーミングされているリリースであるEd Sheeranの「Shape Of You」よりも1兆以上多いストリームを意味します。
つまり、世界のトップーアーティストの何倍ものストリーミング報酬をダニエル・エクが受け取っている計算です。
Broadbandchoicesという海外サイトの調査によると、日本の年間の最低賃金を稼ぐだけでも、約3,482,746回の再生回数が必要となります
なぜ急に問題視されたのか?
現在世界中の多くのアーティストが新型コロナの影響を受けており、それがライブ業界に影響を与えていること。
コロナ以前、アーティストがを得ている収入の多くは、ツアーやライブパフォーマンス、グッズ販売からのものでした。
そのため、多くのアーティストが突然収入源の大半を失うこととなり、ストリーミングによる収益に頼らざるを得ない状況に陥っていることが深く関係していると思われます。
このことを十分理解しているダニエル・エクも
「私は音楽ファンとして、アーティストが再びライブショーに戻ることができることを願っています。それはとても意味のあることでしょう。」
救援措置として音源への収益源(ストリーミング報酬)を上げるという選択も考えないと、多くのアーティストが復帰できずに消えていく可能性も考えられます。
リリースを増やし、ファンとの交流も増やす
ストリーミング時代に突入して、音楽の楽しみ方も大きく変わった現在。
時代の変化に適応できていないアーティストが多くいることも事実だと思います。
「過去に成功していたアーティストのやり方、年に3~4回リリースするような方法では十分な収益を得ることはできない。ファンとの継続的なエンゲージメントを生み出すこと。作品を入れること、アルバムのストーリーを伝えること、そしてファンとの継続的な対話を維持することです」
つまり、コンテンツ過多な現在の仕組みに対して、ミュージシャンはコンテンツ量が少なすぎるのではないかと。
そしてSNSを通じてもっとファンと交流をはかり、アーティストとファンの繋がりを強固なものにする必要がある。とダニエル・エクは言っています。
この言葉に対し一部のミュージシャンは
「ちょっと待てよ。アルバムを作ってから2年間ツアーをまわってから、3年後にまたレコーディングに戻ってくるサイクルをミュージシャンが「怠けてる」とでも言うのか?」
「ミュージシャンが生活するのにも困ったり、5000万回再生されても、ロンドンに家を借りることすらできないのは何かが間違っているのだと思うよ」
と反論していますが、すこし「ん?」と思ってしまう部分も正直あります。
このアーティストとしての「活動内容の基盤」がいつまでも変わらないのが、ダニエル・エクと一部の批判しているアーティスト達との大きなギャップになってしまっている気がします。
ストリーミングにすぐに対応したアーティスト、コロナにすぐに対応したアーティスト等、時代の変化に常に敏感にアンテナを張ることはどの業種においても重要です。
一例ですが、YouTubeや各種ストリーミングにほぼ毎日、新曲を投稿している個人プロデューサーもいます。
1年と3カ月で275本リリースしており、1曲当たりの再生回数は平均して10~100万回再生ですが、トータル再生で1億3千万回を超えているアーティストも存在します。
最近ではコメント欄でしっかりレスポンスを返し、ファンと積極的に交流を計るアーティストも多いです。
上記は個人で音楽プロダクションのすべてと世界リリースが簡単にできてしまう時代だからこそ、可能になった活動内容だといえます。
時代の流れに合わせて、アーティスト側も変化する必要がでてきました。
アーティスとの自立が求められる時代
最近日本のニュースでも多くみる、クリエイターの事務所離れ。
セルフマネージメントが可能になったいま、事務所に所属するメリットが薄れ、多くのアーティストやクリエイターたちが独立していますが、もしかすると次はアーティストのディストリビューター(代理販売)離れが起こってもおかしくありません。
ようするにSpotifyに搾取されるのが嫌なら、自身のアーティストページを作って、そこから販売するようにすれば売り上げの100%を受け取れます。
また、多くの大物アーティストが報酬の少なさを原因にボイコットを起こして、新たに還元率の高いストリーミングサイト、もしくは全く新しい音楽配信サイトを作ってしまう可能性もあるわけです。
すでにアーティスト個人がもっと業界と向き合い、ビジネスライクに立ち回らないといけない時代に突入していると言えます。
しかし、音楽とビジネスをくっつけることがタブー化してしまっている風潮がジレンマとなってアーティストの首を絞めてしまっているのです。
ビジネス的な視点で音楽を扱うと「音楽は商品じゃない!」と多くのアーティストは言いますが、生活が困窮すると「ストリーミング配信の報酬が少ない」と主張するのにも少し矛盾を感じてしまいます。
企業とアーティストのパワーバランスが崩れている今、アーティストは自分の身は自分で守る努力も必要なのかもしれません。
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