【ジャンル別】音楽ミキシングに最適なリファレンストラック
駆け出しのミュージシャンでも、経験豊富なミキシングエンジニアであっても、音楽制作時にミックスの目的地を示す"リファレンストラック"を参照することは重要となります。
とはいえ、多くの音楽作品がリリースされており、サウンドのトレンドも移り変わりが速く、自分の作りたいジャンルやスタイルに似たリファレンストラックを見つけるに苦労することもあります。
そこで今回は、ミキシングとマスタリングプロセスを通じて、音楽制作を次のレベルに引き上げるために使用できる、各ジャンルごとの優れたリファレンストラックのガイドをまとめました。
リファレンストラックとは?
リファレンストラックとは、音楽制作やミキシング&マスタリングの工程で使用される、既存の曲の音質や音量バランスを参考にする為の音楽トラックのことです。単にリファレンスとも呼ばれます。
自分の楽曲と既存のプロの楽曲との音質を比較しながら作業を進めることで、音質や音量を見失うことなく、理想とするサウンドに近づけることができます。
どのようなサウンドや品質を目指すべきかを明確にし、あらかじめ最終的に理想とする音源を常に聴き比べながらミキシングプロセスを進めることで、品質を向上させる目的があります。
リファレンストラックを使う理由
曲が完成して数日後、たっぷりと時間をかけてミックス&マスタリングした曲を聞き返したときに、理想とするサウンドとかけ離れて聞こえた…という経験はありませんか?
人の耳は疲労によって聞こえ方が変化するものです。長時間音楽を聞いていると音の聞こえ方が変わるため、ミキシング中に常に客観的な判断力を保つことはできないとされています。
適度な休憩を取り耳を休めることは重要ですが、リファレンストラックを用いることで、特定の音響的特性や楽器要素の方向性をすばやく再確認できる方法として利用し、ミックスの最終的なゴール地点を見失うことなく作業を進めることができます。
リファレンストラックを採用する方法は、ミキシングからマスタリング段階まで、どのレベルのエンジニアにとっても非常に役に立ち、最終的な作品の品質に大きな違いをもたらします。
リファレンストラックの選び方
ジャンルごとに最適なリファレンストラックをご紹介する前に、理想のリファレンストラックを選ぶ際に考慮すべきいくつかのポイントについてお話します。
- 自分のジャンル、スタイルを考慮する
まず、自分の曲がどのジャンルに属するか考えてみましょう。次にどのようなバランスで楽器を配置するか、例えば、ボーカルにフォーカスした歌モノ系なのか、EDMのようなキック&ベースを強調するトラックなのか。制作するジャンルやスタイルに合った全体のバランスを明確にしましょう。 - 楽器ごとにリファレンスを用意してみる
トラック内の色んな要素や楽器に対して、複数のリファレンストラックを選ぶのもありです。最終的な1つのリファレンストラックと、例えばお気に入りのボーカル、好きなギタリストのギタートーン、HIPHOPのハットワーク、EDMトラックの力強いベースも好きかもしれません。楽器ごとに気に入ったリファレンスを用意しておくことで、より理想とするサウンドに近づくことができます。 - ミックスのバリエーションを作成する
最初に決めたリファレンスに忠実になる必要はありません。サブベースに埋もれない明るくパンチの効いたドラムを選択したり、途中でピアノを追加したくなることもあるかもしれません。ミキシングは創造的なプロセスであるべきなので、必要に応じてアプローチを変える余白も持っておきましょう。
ジャンル別の優れたのリファレンストラック
ここからは、ミキシングに最適なリファレンストラックをジャンル別にいくつかご紹介します。
「良い音」の定義と言われると人によって様々で難しいですが、レコーディング時や音源自体の音の良し悪し以外にも、ファッションと同じようにジャンルや時代に合わせたトレンドサウンドというのが音楽にも存在します。
もちろんトレンドは常に変化しますが、いくつかの要素
- すべての楽器が分離して綺麗に鳴っている
- 立体空間を広く使っている
- 超低音域の処理
- リズムトラックのトランジェントが残っている
- ダイナミクス幅の大きいサウンド
この辺りを基準にして選択しました。
特にヒップホップやトラップビートを基調にしたサウンドが、まだまだメインストリームとして強く残っているので、その辺りのミキシングテクニックは重要になります。
【POP 1】Katy Perry - Teenage Dream
ポップソングのほとんどは、明るくクリーンなボーカルがミックスの中心に配置されており、ダンス調やヒップホップ調であることがほとんどです。
Teenage Dreamは純粋なポップソングのリファレンスミックスとして最適です。明るいボーカル、4つ打ちのリズム、メロディー等、強力なポップヒットの要素が揃っており、サビの部分ではより広がりのあるステレオイメージが特徴です。
【POP 2】TAEYEON - What Do I Call You
最近はK-POPサウンドのクオリティがぐんぐん上がってきている印象です。世界中でK-POPをリファレンスとしたトラックが増えてきている印象です。
全体的にヒップホップビートを基調としたリズムトラックに、コーラスセクションのどっしりと支えられた重低音のベースが特徴的な楽曲なので、低音再生能力の高いリスニング機器で聴くと、うねるような迫力あるベースラインを聴くことができます。
【HIPHOP 1】Arizona Zervas - ROXANNE
海外のヒップホップ界隈は競争が激しいので、優れた音源が非常に多いです。
ヒップホップビートは音数の少ないシンプルなアレンジの中でも、洗礼された808ベースとキックのローエンド処理が重要ですが、この楽曲は巨大なサブベースとキックでどっしりと支えられています。
40Hz周辺の一般的な再生機器では綺麗に鳴らせないような低い音域がメインで鳴っている為、クラブのような大型のシステムで聴くと段違いの迫力です。
【HIPHOP 2】21 Savage x Metro Boomin - Runnin
ヒップホップの人気プロデューサー「Metro Boomin」の作品は、モダンなヒップホップサウンドのリファレンスとして最適です。
Metro Boominは、2010年代にプロデューサー業を始め、2017年の雑誌「Forbes」で世界で最も需要のあるヒットメーカーと評されました。これまでにも21 Savage、Big Sean、Drake、Future、Travis Scott等の多くのビッグアーティストと仕事をしており、実力と信頼もビートメイカーの中ではトップクラスです。
軽やかなハットワークとパンチのあるキック、うねるような808ベースが特徴です。
【EDM 1】Martin Garrix - Animals
EDMは、力強いベースラインとワイドなシンセサイザー、タイトでパンチの効いたドラムサウンドが特徴です。他のジャンルに比べて編曲やミキシングの難易度は高めのジャンルなので、リファレンスの重要度は高いといえます。
Martin GarrixはDJ MAGの「Top 100 DJs」ランキングにおいて、2016年、2017年、2018年と三年連続で1位をキープ。プロデューサーとしても認められており、この間にMartin Garrixのサウンドが一気に広まりました。
ドロップセクションのキャッチーなメロディーと、音数を減らしたシンプルな構成が特徴的です。
【EDM 2】Zedd, Griff - Inside Out
最近では、EDM界隈もヒップホップビートを取り入れた音源が多くなってきました。ドロップセクションのレンジの広いシンセサイザーとパンチのあるキックで思わず体が動き出すようなグルーブが特徴的です。
サイドチェインを利かせた輪郭のはっきりとしたキックと、ロールを多用したハットがグルーヴの基盤となって楽曲全体を支えています。
1:26~の4つ打ちからのトラップ調のハーフビートに移行する流れもよく採用されている印象です。最近だとAdo「唱」にも使われている構成です。
【K-POP1】BLACKPINK - ‘뚜두뚜두 (DDU-DU DDU-DU)
K-POPは、EDMやトラップなど、ダンスミュージックをベースにしている曲が多いので、EDMの作り方を基盤として、ドラムとベース、低音の音を綺麗にまとめることが大切です。
トラップ調の明るく歯切れの良いパンチの効いたサウンド、力強いメロディーライン、バックボーカルが特徴です。
【K-POP2】K/DA - MORE feat. Madison Beer, (G)I-DLE, Lexie Liu, Jaira Burns, Seraphine
人気ゲーム「League of Legends」のキャラクターをベースにした仮想のK-POPアイドルグループ「K/DA(ケーディーエー)」の楽曲。
トラップを基調とした、シンプルな楽器構成にもかかわらず、音圧のある迫力あるトラックに仕上がっており、メロディー+ラップ調のボーカルスタイルもよく採用されています。
【ROCK 1】The 1975 - Chocolate
ロックは世代によって楽曲の特徴が大きく変化しますが、ドラム、ルートベース、左右に振られたリズムギター、リードギターの構成が基本です。
よりクラシックとモダンが融合したロックサウンドが特徴のThe 1975の「Chocolate」は、イントロの左右に大きく振られたギターリフで都会的でノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。
エフェクトのかかったバランスの取れたボーカルサウンドも素晴らしいです。
【ROCK 2】Bring Me The Horizon - Can You Feel My Heart
この作品は、人気ロックバンド「Bring Me The Horizon」による10年前の音源ですが、その先進的なアグレッシヴなサウンドは、現在のモダンロックに大きな影響を与えました。
EDMのドラムサウンドをレイヤーした分厚いドラムサウンドと、どっしりと低音部分を支えるベース、ソリッドなエレキギターが特徴的です。
まとめ
音楽制作において、リファレンストラックの採用は重要な要素です。リファレンストラックは、音楽制作において理想的なサウンドに近づくための手助けとなり、ミキシングとマスタリングのプロセスを向上させます。
耳の疲労や主観的な判断に左右されない客観的な目標を提供し、最終的なゴールを見失わないようにする役割もあります。
ジャンルやスタイルを考慮し、自分の理想とするサウンドのリファレンストラックを活用しましょう。
以上、「【ジャンル別】音楽ミキシングに最適なリファレンストラック」でした。