【必読】タイプビートを使う前に!学んでおくべき権利関係について
最近国内でも個人プロデューサーが作った「タイプビート」を使用して音源リリースするラッパーの方達が増えてきました。
通常、プロデューサーに直接連絡をして受け取ったり、BeatStarsやAirbitのようなビートストアを経由してビートを入手するかと思いますが、この際の楽曲の権利関係について理解されていない方がほとんどだと思います。(プロデューサー側が把握していない場合も)
アーティストとプロデューサーの両方が楽曲権利についての正しい知識を持っていないと、思わぬトラブルに発展してしまう可能性もあるので注意しましょう。
そこで今回はタイプビートを利用する前に学んでおくべき権利関係についてお話します。
ビートライセンスについて
まずビートリースを簡単に説明すると、プロデューサーがビートを作成して、ビートストアにアップロードします。アーティスト側はそれらの楽曲を購入することで自分の楽曲に使用することができます。
※さらに詳しい内容については新時代到来?ビートリーシングについての記事をご覧ください。
購入することでアーティスト側はプロデューサーよりライセンス契約を提供されたこととなり、ラップを乗せてYouTubeや各種ストリーミングサービスで配信したりする権利を獲得したことになります。
このライセンス契約がプロデューサーがビートの使用を許可したことを示す法的な証拠となるので非常に重要です。
メールなどで直接受け取ったり、ネットショップから購入したビートトラックはライセンス内容の承認が交わされていないので、トラブルの原因に繋がることがあります。
基本的には信用のあるビートストアを経由して購入することをおすすめします。
ライセンスの種類
ここからは多くのビートストアで利用されているライセンスの種類について解説します。
大きく分けて非独占ライセンスと独占ライセンスに分かれます。
その中でも非独占的なライセンスに関してはグレード別に分かれていることが多く、価格が大きくなるにつれてビートを使用できる範囲が広がります。
非独占ライセンスについて
ビートリースにおいて最も一般的な非独占的なライセンスを選ぶことは、文字通りビートをリースしている状態となります。
契約により1~3年と期間が決められており、引き続きビートを利用する場合には契約を更新する必要があります。
価格は約2,000~30,000円の間で取引されており、ライセンスを購入し、いわゆる商用利用(各種ストリーミングサービスから曲をリリース、YouTubeでミュージックビデオを作成、ライブ公演など)で使用することができるようになり、そこから発生するロイヤリティを受け取ることもできます。
目当てのプロデューサーのビートストアから直接入手できるタイプのライセンスなので、問い合わせる必要も無く、簡単にライセンスを購入できます。
ライセンス契約は、購入者の名前、住所、タイムスタンプ(発効日)、ユーザー権利、およびプロデューサーの情報を含めて自動で生成されます。
アーティスト側はビートを利用してオリジナル楽曲を作成し、配布することができますが、著作権の所有権はプロデューサー側にあり、プロデューサーは販売したビートを他のラッパーに売ることもできます。
非独占的ライセンスの制限
多くのプロデューサーは様々な非独占的なライセンスのプランをいくつか作成しており、すべてのプランには独自のユーザー権利が付属しています。
価格帯ごとにランク分けされており、課金額が多くなるほど上限が上がります。
プランA(3,000円) | プランB(8,000円) | アンリミテッド(20,000円) | |
ストリーミング配信 | 5,000 | 10,000 | 無制限 |
フリーダウンロード | 可能 | 可能 | 可能 |
ライブ使用 | 100人まで | 300人まで | 無制限 |
MV作成可能本数 | 1 | 1 | 1 |
ビデオストリーミング | 2,000 | 5,000 | 無制限 |
ラジオ局 | 1 | 2 | 無制限 |
さらに追加のオプションとして高品質のオーディオファイルやステムデータなどが付属している場合もあります。
独占ライセンスについて
プロデューサーによってはExclusive(独占権利)を販売している方もいます。
基本的には購入者の権利に制限がなくなり、ストリーム、再生、販売、ダウンロードの最大数はなく、契約の有効期限もありません。
プロデューサーは独占権を販売すると、それ以降そのビートを販売することはできません。
しかし、プロデューサー側が過去に非独占ライセンスを既に販売していた場合、そのライセンスが影響を受けることはありません。
つまり、独占権を購入したときにそのビートが誰にも売れていなければ完全なる「独占」状態となりますが、以前に誰かに非独占ライセンスで既に販売している場合は、他にも誰かが同じビートで楽曲をリリースしているかもしれません。
タイプビートのやり取りで、ここが問題でトラブルになることも少なくないと思います。
独占権を高値で購入したアーティスト側としては
- 独占権を買うまでに販売されたビートはどうなるの?
- ネット上にあるビートの権利はすべてアーティスト側に移るの?
ということが疑問点としてあがるのではないでしょうか?
結論からいうと、過去にやり取りのあったビートの権利が独占権の取引によって影響を受けることはありません。
しかし、過去に非独占ライセンスを購入した人が制限に達した場合は、ライセンスの更新ができず削除しなくてはいけなくなるので、長期的にみれば独占できることもあります。
※逆を言うと購入時に安いからといって制限のあるプランを選択すると、将来的に楽曲を削除しなくてはいけなくなる可能性もあるということです。
誤解されやすい独占権
アーティスト側としては少し不服なように思えますが、独占権と所有権をごちゃ混ぜにしてしまっているのが原因かと思います。
独占権を販売した場合
ビートの独占権を販売した場合、作者であるプロデューサーは音源の原作者のままです。
ややこしいですが、原盤及び著作権の所有権、出版権などの権利も変わらずにそのままです。
(仮に)所有権を販売した場合
プロデューサー側は作者、著作権などを含む権利とビートを販売することになります。
アーティスト側が実質的なビートの所有権を得ることができます。
音楽業界には様々な取引構造があるので、すべてを理解するのは難しいですが、ビートリース業界において楽曲の所有権のやり取りが行われることは無いということです。
「アーティストは、プロデューサーが原盤及び原曲の著作権の所有権を保持し、他のアーティストに個別のライセンスを付与する権利を有することを認めます。」
上記の記載通り、原盤権や著作所有権はプロデューサー側にあります。
一般的に考えても、ビートストア内でやり取りされる価格帯で、クリエイターが原盤権や著作権を手放すことは考えにくいです。
フリーダウンロード可能な場合も
プロデューサーによってはフリーダウンロードを許可している場合があります。
フリーの場合、基本的には商用利用不可となっているので、YouTubeにアップしたりストリーミング配信したい場合は必ず有料プランを選択しましょう。
条件なしで直接ダウンロードできることもあれば、SNSフォローやYouTubeチャンネル登録が条件で合ったりもするので、詳細はフリーダウンロード用のライセンス条約を確認しましょう。
ライセンスにはクレジット表記のお願いであったり(タイトルの後ろに「Produced by 〇〇」と明記)楽曲冒頭にプロデューサータグが付いたりと、いくつか条件がある場合もあるのでチェックしましょう。
アーティスト側が受け取れるロイヤリティ
アーティスト側はビートを使って商用利用する場合にロイヤリティを受け取ることができます。
ビートストア元の米国では、販売に対して支払われるメカニカルロイヤリティとラジオやライブ公演に対してのパフォーマンスロイヤリティの二つがあります。
ライセンス条項の最後に一文に「本契約は、日本の法律に基づいて解釈されるものとします。」とあるので、日本だとJAZRACの演奏権・録音権にあたると思うのですが、あまり法律関係についてハッキリとしたことは言えないので、気になる方は調べてみてください。
簡単にいうと、ライブや、ストリーミング配信で得ることができるロイヤリティはアーティスト側が受け取れるということです。
これは非独占、独占に関係なく受け取ることができるので安心してください。
※ただし、一部のプロデューサーは数パーセントのロイヤリティを受け取れるように設定している場合もあるので必ず確認してください。
アーティストにとって最適なプランは?
非独占ライセンスと独占ライセンスの違いについてお話しましたが、結局のところアーティストにとって「どのプランで契約するのがベストなの?」ということについて疑問に思うかもしれません。
基本的にはアーティスト側に制限がかからない独占的契約が有利であることには間違いないのですが、アーティストの規模によって最適なプランは大きく変わります。
- ファンは何人いますか?
- ストリーミングの平均再生数は?
- アーティストとしての活動予算
ファンベースが構築されていない駆け出しのアーティストの場合は、価格の低い非独占的なビートを使って、まずはラッパーとしての認知を広めることに注力するのが最適です。
プランの制限を超えそうになったら、段階的にグレードを上げていき、無制限のライセンスまたは独占ライセンスを獲得するのがベターです。
ビートライセンスに関するQ&A
以下にビートリースを利用するにあたり、よくありそうな疑問についてお答えします。
すでに独占されたビートを使いたいので、独占権購入者からライセンスを販売してもらうことは可能か?
できません。ビートを第三者に転売、またはライセンス付与することは契約規約違反になります。
非独占ライセンスを買ったが、後に誰かが独占権を購入した場合どうなりますか?
ライセンスは契約期間中にストリームや再生の最大数に達するまでは特に何も起こりませんが、契約の更新が出来なくなるので、削除しなければいけない可能性があります。
フリービートはYouTubeに投稿したりストリーミング配信できますか?
プロデューサーによってはフリーダウンロードも可能にしている方もいます。
フリー版の場合は商用利用不可として配布していることがほとんどです。
クレジット表記などが条件となっていることがほとんどなので、フリーダウンロードに関するライセンス条項があるので、必ずそちらに目を通すようにしましょう。
プロデューサーから直接ビートを受け取るのはあり?
おすすめはしません。
ビートの使用にあたって、ライセンス関する条約を交わさずに取引した場合、あとで不利益な条件を突きつけられても保証されません。
トラブルになった際にも非常にめんどうなことになるので、ビートストアを利用するのが安心です。
フリーで配布したビートが商用利用されている
ほとんどの場合が「商用利用不可だと気付かずにYouTubeにアップしてしまった。」みたいなパターンなので、アーティスト側に不正利用だということを連絡すれば、削除してくれるでしょう。
応答してくれない場合でも、個人がコンテンツの削除申請を出すには費用と労力がかかるので、再生が伸びておらず、無名なアマチュアの場合はそのままにしておくのが最善だと思います。
まとめ
実際はビートストアから購入するときに長ったらしい契約書に目を通す人も少なく、しかも英文なのでライセンス内容をしっかりと把握している人の方が少ないのが現状だとは思います。
しかし、いざというときにトラブルにならないよう、アーティストとプロデューサーの双方がライセンスの内容を把握していることが重要です。
最近だと海外でも楽曲の権利に関するニュースが多く浮上していたり、DIYミュージックが主流になり、個人間での楽曲のやりとりも多くなってきているので、重要なトピックだと思い共有させて頂きました。
以上「【必読】タイプビートを使う前に!学んでおくべき権利関係について」