
【科学的根拠あり】ギターの「速弾き」で手首や肩を痛める本当の理由とは?
難しいギターソロや速弾きの練習を何時間も続けた後、手首のズキズキとした痛みや、肩の重さを感じたことはありませんか?「練習不足かな?」「フォームが悪いのかな?」と自分を責めてしまうギタリストも多いですが、実はこれ、あなたのせいだけではありません。
テルアビブ大学(イスラエル)の研究チームが発表した論文によると、「ギターの速弾き(シュレッディング)は、構造的に手首や肩にダメージを与えやすい」ということが科学的に証明されました。
この記事では、科学雑誌「PLoS One」に掲載された研究データをわかりやすく解説し、長くギターを楽しむために知っておくべき「痛みへの対策」についてご紹介します。
ギタリストは「アスリート」並みの負荷がかかっている

ギター演奏、特にロックやメタルのようなジャンルは、不自然な姿勢で指先を細かく動かし続けるため、身体的にはトップアスリート並みの過酷な運動を行っているのと同じです。
しかし、スポーツ選手のように専属トレーナーがいるわけでもなく、身体のケアについて学ぶ機会も少ないのが現状です。
「ミュージシャンはプロスポーツ選手と同等のスキル維持が必要だが、身体的ケアへの関心は低い。特にギタリストに焦点を当てた研究は少なく、筋骨格系の痛みのリスクを正しく理解する必要がある。」
PLoS One(研究論文より要約)
この研究では、ギタリストが「筋骨格系疾患(腱鞘炎や関節痛など)」を発症するリスクが非常に高いグループであると警鐘を鳴らしています。
研究で判明:痛みが出やすいのは「弦を押さえる手」ではない?
この研究では、18~35歳の熟練ギタリスト25名(キャリア5年以上、週20時間以上練習)を対象に実験を行いました。驚くべきことに、被験者の全員が過去1年以内に関節痛を経験しており、多い人では年間18回も痛みを感じていました。
さらに、ロックの楽曲を「立って弾く」「座って弾く」の両パターンで演奏し、関節への負担を測定した結果、以下の事実が判明しました。
- 最も痛みが出やすい場所:背中、手首、ピッキングする側の手(右手)
- 意外な事実:弦を押さえるフィンガリング側の手(左手)は、比較的痛みのリスクが低い
なぜピッキング側の手首や肩が痛むのか?
研究者のナバ・ラッツン氏によると、これは「テコの原理」と同じだそうです。
指先のような小さな関節よりも、手首や背中といった「大きな関節」の方が、筋肉が動く際の負荷(モーメント)が大きくなります。特に速弾きのような激しいピッキング動作は、手首や肩などの大きな関節に強い反動を与えるため、組織を損傷しやすくなるのです。
「座って練習」と「立って演奏」では痛みの原因が違う

座って弾くときと、立って弾くときでは、体に負担がかかるポイントが変わります。ご自身のプレイスタイルと照らし合わせてみてください。
| 姿勢 | 痛みの主な原因と相関関係 |
|---|---|
| 立って弾くとき | 右肩と手首のねじれが痛みに直結しやすい。 腰痛は、左手首の角度や体のひねりと関係している。 |
| 座って弾くとき | 猫背(胴体の傾き)が首の痛みの原因に。 右手首を曲げすぎることが痛みを引き起こす。 |
特に座って弾く場合、「手のスパン(指を開く幅)が短い人ほど、無理に手首を伸ばそうとして負担がかかる」というデータも出ています。手が小さい人が無理なストレッチフレーズを座って練習する際は、特に注意が必要です。
上手い人ほど痛めやすい?「技術不足」だけが原因ではない

「手が痛くなるのは、脱力ができていないからだ(下手だからだ)」そう教わったことがあるかもしれません。しかし、今回の研究結果は少し残酷な真実を突きつけています。
「演奏による痛みは、技術の良し悪しとは無関係」
どれだけピッキングフォームを改善しても、手首への負担リスクは完全には消えません。むしろ、ギター歴が長く、練習量が多いベテランほど、関節痛の報告が多い傾向にありました。
つまり、怪我の原因は「下手だから」ではなく、「反復動作による酷使」と「固定された不自然な姿勢」にあるのです。
一生ギターを弾き続けるための3つの対策

では、私たちはどうすれば良いのでしょうか?研究チームは、ギタリストが怪我のリスクを下げるために以下のアドバイスをしています。
- できるだけ「立って」練習する
座りっぱなしは腰や首への負担が集中します。本番同様に立って弾く時間を増やしましょう。 - 演奏前の「ウォーミングアップ」を徹底する
いきなりフルスピードで弾かず、スポーツ同様に手首や指のストレッチ、軽いクロマチック練習から始めましょう。 - 定期的な運動で基礎体力をつける
ギターを支えるのは背筋や腹筋です。体幹を鍛えることで、演奏時の姿勢が安定し、手首への負担を分散できます。
ギターは楽しいですが、体にとってはハードなスポーツです。「痛いな」と思ったら無理をせず、長く音楽ライフを楽しむために身体のケアも大切にしていきましょう。
参考文献 : PLoS One「ギタリストにおける体の姿勢と筋骨格系の痛みとの相関関係」