ドルビーアトモスのミックスに必要な6つの要素
1954年にステレオ音源が一般にも広まり、約70年もの間ステレオ方式のリスニング体験は、音楽や映像等、さまざまなコンテンツに使用されてきました。
ステレオによる視聴体験を超えることは常に業界でも課題となっていましたが、現在「Dolby Atmos」技術による没入型の3次元音楽体験が、いよいよ一般にも普及し始めています。
ドルビーアトモス(Dolby Atmos)とは?
ドルビーアトモスは、Dolby Laboratoriesが開発したサラウンドサウンド技術です。従来のサラウンドサウンドシステムにハイトチャンネルとオーバーヘッドチャンネルを追加することで、より没入感のあるリアルなオーディオ体験を実現するために設計されています。
最大64のスピーカーチャンネルを利用することで、左右以外の多方向からもサウンドを鳴らすことが可能で、対象を完全に音で包み込むことができます。
追加のステレオオーバーヘッドアレイと最大118もの「サウンドオブジェクト」を追加することで、従来の7.1サラウンドフォーマットをさらに強化するシステムです。
ドルビーアトモスのサウンドの特徴
ドルビーアトモスのサウンドはオブジェクトベースになっているので、ステレオのようにサウンドを特定のチャンネルに割り当てるのではなく、クリエイターが3次元空間の特定の場所にサウンドを配置することができます。つまり、音が空間を自由に移動することができ、よりリアルで没入感のある体験ができます。
Dolby Atmosミックスの注意点
Dolby Atmosプラグインを使用して実際に音楽をミキシングするには、知識の勉強と、ハードウェアとソフトウェアの導入に多くの費用がかかります。
その上、リスニング体験の一貫性について多くの議論があり、使用されているストリーミングサービスによってサウンドが異なる場合もあると言われています。
ステレオ形式とは違い、現状は誰もがドルビーアトモスに対応した再生デバイスを持っているわけではなく、ドルビーアトモス対応の音楽サービスに加入しているわけでもありません。
ドルビーアトモスミックスは、これからさらに普及することが予想されますが、実際にミックスを始める前に、上記の点は考慮する必要があります。
ドルビーアトモスミキシングに必要な機材とソフトウェア
それではここからは、ドルビーアトモスシステムを使ったミキシングを行う為に必要な、いくつかの機材とソフトウェアをご紹介します。
1. スピーカー
ドルビーアトモスサウンドを最大限に体験するには、最大22個のスピーカーを構成する必要がありますが、プロのオーディオエンジニアであっても、このようなシステムを組むことは困難です。
一方でDolbyは7.1.4の最小スピーカーレイアウトを推奨しています。この場合、必要なスピーカーは11 個にまで減り、追加でLFEチャンネル用に1個あればサラウンド体験を味わうことができます。
とはいえ、11個のスピーカーでも自宅の部屋や、小さなスタジオで作業している場合、予算を抑えたいエンジニアにとっては非常にハードルの高い設備となる可能性があります。
2. Dolby Atmos Renderer
たくさんのスピーカーを配置することが難しい環境でも、「Dolby Atmos Renderer」を使用して音楽をヘッドフォンにレンダリングし、これにより本質的に3次元ミックスのバイノーラルバージョンを作成することが可能です。
もちろん、7.1.4スピーカーシステムに比べるとサラウンド音楽の正確さ低下しますが、とはいえ、ほとんどの音楽リスナーはそのような環境で音楽を聴いているわけではなく、実際にはヘッドホンやイヤホンを使うことが多いはずです。
そのため、最近ではiPhone、Androidの両方でドルビーアトモスサウンドがサポートされていることもあり、イヤホン、ヘッドホン環境に合わせたAtmosミックスも考慮する必要があります。
3. ドルビーアトモス対応のDAW
一部のDAWはドルビーアトモスをサポートしていますが、場合によっては追加のハードウェアを購入する必要があります。
Dolby Rendererの使用方法には、以下の3つのオプションがあります。
- Dolby Atmos Production Suiteを導入する
Macで使用できるDolby Rendererです。ソフトウェアはAvidの公式サイトから購入できます。 - 対応したDAWを使う
現在、Ableton Live、Logic Pro、Pro Tools Ultimate、Davinch Resolve、NuendoがDolbyによって互換性のあるDAWとして認定されています。 - Dolby Atmos Mastering Suiteを導入する
MADIまたはDante I/Oを備えた別の専用PC、Macワークステーションで実行するように設計されたフラッグシップソリューションです。
使用しているコンピューターが互換性があり、DAWとDolby Renrererを処理する能力があれば、Production Suiteの導入がコスパの良い選択肢となります。
ソフトウェアには30日間の無料試用版があるので、コンピューターが処理できるかどうかを試すのに最適です。
4. パンニングプラグイン
Dolby Atmos Music Pannerは、 Dolby LabsからAAX、AU、VST3プラグインとして無料ダウンロードできます。
Music Pannerは、音楽ワークフロー専用に設計された初のDolby Atmosプラグインです。強力なビルトインシーケンサーを使って、臨場感あふれるドルビーアトモスミックスで、テンポ同期したパンニングルーティンを作成できます。
対応DAWは現在、Pro Tools、Logic Pro、Davinci Resolve、Ableton Live、Nuendoです。
5. モニタリングフォーマット
Dolby RendererやApple Renderer等、様々なフォーマットを使って、実際に音楽配信した時にどのように聴こえるのかを確認する必要があります。
ドルビーアトモスミックスでは、ステレオ環境以上にリスナーが音楽をどのような環境で聴くかを考慮することが重要となります。
Dolby Atmosのようなオブジェクトベースのフォーマットでは、ミックス中に、すべてのオブジェクトトラックで信号のパン情報がオーディオ信号とは別に保存されます。3次元空間で音楽を再生するときに、個々の信号を配置する位置をこのパン情報で確認しています。これが、オブジェクトベースのミックスフォーマットを、チャンネルベースの再生フォーマット(スピーカーやヘッドフォン)に変換するという、レンダラーの役目です。
さまざまな再生システムをシミュレートするために、Dolby Atmosプラグインの「Monitoring Format」を使用してその情報をレンダラーに提供します。
6. Dolby Atmos対応のストリーミングサービスを調べる
ドルビーアトモス用のミックスを作成したら、聴いてもらう為に配信サービスを利用する必要がありますが、現状すべてのサービスがドルビーアトモスに対応しているわけではありません。
有名所の「Spotify」は現在ドルビーアトモスをサポートしていません。今後より多くのストリーミングサービスが対応する可能性は高いですが、現在は配信できる場所は限られているので、事前にチェックしておきましょう。
※日本で利用者が多いサービスだと、Apple MusicとAmazon Musicが対応しています。
まとめ
まだ個人のクリエイターにとってはハードルの高いドルビーアトモスミックスですが、各方面でのドルビーアトモスの採用が進むにつれて、フォーマットのミキシングがもっと簡単になるはずです。
近いうちに広く採用されるのか、もっと遠い将来になるのかを判断するのは難しいですが、一部の海外の大企業やエンジニアたちはドルビーアトモスミックスに力を入れ始めています。
国内ではまだまだ認知されていないですが、今から学び、備えておくことで将来的に大きなアドバンテージを得られる可能性もあるかもしれません。
以上、「ドルビーアトモスのミックスに必要な6つの要素」でした。