オーディオ波形の「位相がずれている」とはどういう状態か?トラブルと解決方法について
音楽制作をしていると「位相」という言葉をよく見かけるかと思います。なんとなく音波に関することだとは分かっていても、位相についてはっきりと理解できていないという方も多いのではないでしょうか?
オーディオの世界では、同じ楽器、セッティングで録音しても、まったく同一の音波が生成されるわけではありません。耳だと同じテイクだと感じても、音量やトーンにわずかな違いが表れます。
ただし、サンプル音源やコピーした波形の場合は、重ねることで位相のトラブルが発生する可能性があります。このような位相に関する問題は、理解するのが難しい現象の1つです。
そこで今回は位相に関するトラブルや解消方法についてご紹介します。
位相とは?
位相は、簡単にいうと2つの音源ソース間の時間と振幅の差のことです。
すべての音波は、正と負の波の動きで構成されており、スピーカーコーンが音を出しているときにスローモーションで見ると、スピーカーコーンが前後に動き、空気圧の動きを生み出します。
この波を人間の耳は音として解釈します。音の波は、振幅、波長、周波数という3つの要素で構成されています。
- 振幅
特定の時点での波の大きさを指します。音量に関係します。 - 波長
上の画像の正弦波のような対称的な音波の場合、サイクルに沿った2つの等しい振幅の間の距離を測定します。 - 周波数
1秒あたりの音波のサイクルが繰り返される回数です。音の高低差に関係します。
位相の重要性について
オーディオミキシングは、アーティストやエンジニアの意図に合わせて、音色の違う複数の楽器を組み合わせるプロセスです。トラックごとの異なる周波数、振幅、倍音などを持つ無数の波形を調整する必要があります。
こういった作業中に確実に発生することは、複数の波形が色々なタイミングでお互いに一致したりずれたりすることです。
例えば、正と負がぶつかり合うことで発生する「位相キャンセル」は、同じ周波数の2つの正弦波が、1つまたは複数のピックアップソースに同時に到達しないことで、合計された信号の音が小さくなることです。
言葉よりも画像で見る方が簡単です。2つの信号パターン1と2があり、これらを合計するとパターン3が生成されます。信号Aは信号Bと正確に180度位相がずれているため、信号は打ち消しあってゼロになります。
アナログな実世界ではこれほど正確な正弦波は存在しないので、2つの音を重ねて音が完全に消えるということは考えにくいですが、デジタルのシンセサイザーや、まったく同じ音源サンプルをレイヤーする際には問題となることがあります。
具体的にはアタックが弱くなったり、音量自体が小さくなるといったトラブルが起こりえます。
実際に起こる位相問題
上記で説明した位相のずれによるトラブルは、単一の楽器の録音から複数の楽器を録音する場面まで、あらゆる状況で起こりうる問題です。
実際には、サンプルをレイヤーしたり、アコースティックドラムにEDMキックを重ねたり、同じトラックで異なるプラグインを使用したりと、さまざまな場面で影響を及ぼします。
その他にもレコーディングの現場では、2つの異なるマイクを使用して楽器を録音している時、音源からマイクまでの距離が異なることで、違ったタイミングで各マイクに入力されます。その結果、それぞれのマイクチャンネルの波形は似ていますが、入力タイミングが異なることで"ずれ"が発生します。
また、2つのマイクが互いに逆向きに配置されている場合、例えばスネアのヘッド側とスナッピー側にマイクを設置しているときに逆位相になって音が相殺される可能性があります。これは片方のマイクの位相を反転させることで解消されます。
位相トラブルを見つけて修正する
経験を積んで耳が良くなってくると、位相トラブルが発生したときに聞き分けられるようになります。もちろん、すべての位相の問題を人の耳だけで判断することは難しいので、追加のツールやテクニックを使用することになります。
1. モノラルにしてみる
ミックス全体や複数のトラックをまとめたバストラックをモノラルで聴くことで、特定の位相の問題に気付きやすくなります。モノラルにしたときにサウンドが小さくなったり、薄くなって聞こえる場合は、位相キャンセルの問題が発生している可能性があります。
また、モノラルでミックスしたときに、音がセンターから消えてサイドチャンネルに残っている場合、オーディオの位相がずれている可能性があります。
2. マイク設置時の「3:1ルール」
3:1ルールは、2つのマイクを使用する場合に適用されます。1本目のマイクを設置後、2本目のマイクは1本目よりも3倍離れた場所に配置する必要があります。
例えば、1本のマイクをギターのサウンドホールから10cmの距離に設置した場合、2本目のマイクは1本目から30cm離してセットアップする必要があります。
ほかにも色々な要素を考慮する必要はありますが、2つのマイクで録音するときに位相トラブルを最小限に抑えるために効果的です。
3. 波形をずらす
位相トラブルを解消する為の最も基本的で簡単な方法は、DAW上で波形をずらして正しい場所に移動することです。位相のトラブルが発生しているときには、タイムライン上で片方の波形を左右どちらかに移動するだけで簡単に解決できることも多いです。
またDAWには位相反転スイッチも搭載されているので、まずは反転させてみて解消するかどうかを試してみるのもありです。
4. フェーズ系のプラグインを使用する
さまざまなフェーズ系のプラグインを使用して位相の干渉を視覚化したり、問題を修正するプラグインソフトウェアも存在します。
代表的なツールとしては、Eventide Precision Time Align、Waves InPhaseなどがあります。
まとめ
位相トラブルはオーディオ制作でよく起こる問題であり、同じ音源を重ねたり、複数のマイクを使用したりする場合に発生する可能性があります。
位相のずれを放置すると、音が小さくなったり、音質が劣化したりすることがあるので、モノラルでミックスを聴いて位相問題を検出し、マイク設置時の3:1ルールを考慮することが重要です。
また、DAW上で波形を調整したり、フェーズ系のプラグインを使用したりして、位相のトラブルを修正できます。位相の問題に対処することは、オーディオミキシングにおいて重要なスキルであり、よりクリアでバランスの取れたサウンドを実現するために必要です。
以上、「オーディオ波形の「位相がずれている」とはどういう状態か?トラブルと解決方法について」
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