ギターチューニングの基礎知識
ギターは楽器全般の中でもチューニングの安定度が低く、演奏の合間に頻繁にチューニングが必要です。
なので、ギターに関する音程の知識と正しいチューニングのやり方を知ることは、ギタリストにとっては必須のスキルと言えます。
高い演奏スキルを持っているギタリストでも、チューニングに対する意識が低い為に残念な演奏になってしまっている方も少なくありません。
そこで今回は、覚えておくべきチューニングとツールに関する知識についてご紹介します。
ギターの調律について
ギターは基本的にはプレイヤーが自分で調律をして演奏する楽器です。例外としてプロフェッショナルの場合はライブに動向するスタッフやギターテックと呼ばれる楽器メンテナンスのプロにチューニングをまかせることもありますが、一般的には自分でやるのが普通です。
他の楽器、例えばピアノの場合はプレイヤーではなく「調律師」と呼ばれるチューニングのプロがいて、作りもしっかりしている為、演奏の度にチューニングが不安定になるといった心配も少ないです。
しかし、ギターはその構造的にも、木製の細いネックにピアノ線にニッケルを巻いた「ニッケル弦」が強い張力で張られている為、不安定なのは仕方がないことです。
なので、頻繁にチューニングを行わないとすぐに音程がずれてしまい、サウンドが安定しないだけではなく、プレイヤーの音感にも悪影響を与えます。
ギターの一般的なチューニング
アコースティックギターやエレキギターの種類を問わず、現在は6弦側からE-A-D-G-B-Eのレギュラーチューニングが一般的です。
これはギターのスケール幅、弦の太さ、楽曲制作において最適な音域レンジを考慮して、ギターの長い歴史の中でより良い楽器を作るために幾度となく改良され、1800年代中頃に確立されたチューニング方法です。
このEADGBEのレギュラーチューニングは、現代音楽のコードやメロディーを演奏するのに最もマッチした調律になっています。
特殊なチューニングも
特定のジャンルや特殊な奏法を用いるギタリストはレギュラーチューニング以外の変則的なチューニングを用いることもあります。
ボーカリストの音域や、演奏時の弦のテンション感を低くして弾きやすくする為に全弦半音~1音下げを取り入れたり、ハードロックやメタルのような全体的な音の重心を下げたい時には、6弦だけを下げるドロップチューニングを用いることもあります。
その他にもスライドバーを使った特殊な奏法に対応する為に、開放弦で特定のコードを簡単に鳴らせるようにするオープンチューニングもみかけます。
チューナーが出来るまで
現在の精密に音を感知してディスプレイに音程を表示してくれる「デジタルチューナー」が普及したのは、ギターの歴史からみると、ごく最近のことです。
1970年代頃までは耳を使ったチューニングが一般的で、音叉やピッチパイプを使って、その音を頼りにギターの各弦を合わせるという方法です。
その次に、各音楽メーカーから「チューニングメーター」が発売され、ギターケーブルからの音声出力を受け取るためのジャックがあり、電気信号を解析して音程を表示してくれるツールが誕生しました。
ジャック入力以外にも、アコースティックギターの音を拾う為のマイク入力も備えており、ギタリスト達のチューニング精度は一気に向上しました。
より正確なチューニングを求められるプロギタリストにはストロボ式チューナーやブラウン管式のチューナーもありましたが、価格が高いことと、アナログ処理の為チューニングする弦に合わせてコントロールで切り替える必要がありました。
デジタル式チューナーの誕生
次に現在でも主流となっている「デジタル式チューナー」が普及します。
より精密な調律と、弦に合わせて切り替える必要もなく、より小型化することで利便性が格段に向上し、今では多くのギタリストのマストツールとして使われています。
暗いライブステージでも視野性を高めたラックマウント式チューナーや、足元で簡単に操作ができるペダル式チューナーの人気が高いです。
クリップ式チューナー
デジタル式チューナーの派生形として、電気信号を入力する以外のネック振動を拾って音程を表示するタイプの「クリップ式チューナー」が登場します。
ヘッドに挟むことで内蔵のセンサーが振動を感知して、音の高さを精密に判断するという優れもので、しかもケーブルを挿し込む必要がないので、アコギとエレキの両方に対応し、超小型化にも成功しました。
しかし、ヘッドにチューナーが挟まっているというビジュアル面の問題と、スタジオやライブハウスのような大きな音が常に鳴っている環境では、周りの音の振動も拾ってしまうことで正しく機能しないこともあるので注意が必要です。
ハーモニクスチューニングの落とし穴
チューナーの登場のおかげで、今ではそれぞれの弦をチューナーに合わせて正確に調律することが可能ですが、音叉を使っていた頃は5弦のA音を音叉で拾って、5弦を基準にして他の弦を合わせていく方法が主流でした。
5弦の開放と6弦5フレット、4弦の開放と5弦5フレット、2弦の開放と3弦4フレットといった具合で、音を合せていくのですが、左手が塞がるというのと、押弦した状態だと微妙に音程が上がった状態になっていることが、不具合として起こります。
そこで、もう一つのハーモニクスを使ってチューニングする方法もあります。6弦5フレットのハーモニクスと5弦7フレットのハーモニクスを合わせるというやり方で、音を出しながらペグを回しながら調節できるので、こちらの方法を使っている方も多いかと思います。
楽器屋の店員さんがざっくりチューナーで合わせたあとに、耳を使ったハーモニクスチューニングでより正確な響きが得られるように整える場面を見たことがあるかと思います。
しかし、実はこのハーモニクスを使ったチューニングでは正しくチューニングを行うことができません。
純正律と平均律
音叉、チューナーのどちらでスタートした場合でも、最終的にハーモニクスで合わせると2弦が少し高くなってしまうはずです。
なぜ正しくチューニングができないのかというと、ギターは「平均律」と呼ばれる1オクターヴの音程を均等な周波数比で分割した音律が使われていますが、ハーモニクス音は楽器の制約を受けない「純正律」の音程になります。
平均律は楽器の特性に合わせて、綺麗なコードトーンが得られるように作られていますが、純正律はより数学的な濁りのまったくない音程になります。
米YouTubeに分かりやすい動画があるので、平均律と純正律について気になる方はご覧ください。
少しややこしいですが、ギターは1オクターブを12個に分けた音階を使うことで、音と音との関係性は均等になっています。なので平均律を使ってチューニングすることで、統一感のある音の響きを得ることができます。
つまり言い換えると、ギターという楽器は正確なチューニングは不可能であり、もし純正律の正確なチューニングを実現しようとすると、弦ごとにフレットの位置を微妙にずらす必要があるので、楽器として非常に演奏しずらいものになってしまいます。
オクターブチューニング
ギターのフレット間隔は等分平均律に合わせて決められていて、コンピューターで正確に制御されているか、専用の丸鋸で溝が彫られているので、市販のギターのフレットポジションがずれているということはまずありえません。
ナットから12フレットまでの長さを2倍した場所にブリッジが設置されていますが、実際にはこのポジションだとハイフレットに向かうほど音程がわずかに高くなっていきます。
これはギターには「弦高」があるので、弦を押さえた分だけチョーキングされたように音程がわずかに上がります。この問題を解消するために「オクターブチューニング」が必要で、ブリッジサドルの位置を調節することで、押弦したときのわずかな音程のずれをなるべく均等になるように合わせます。
実際にはナットよりハイポジションにいくほど弦高も高くなっていくような構造になっており、さらに各弦ごとに弦高を変更しているギタリストも多いので、平均的な12フレットの高さを基準にして補正する為「オクターブチューニング」と呼ばれています。
チューニングの周波数
チューニング時はラの音を440Hz(ヘルツ)を基準として行われるのが一般的です。
これはアンサンブルのような複数の楽器が混ざって演奏する時に、楽器間のチューニングを統一するために設けられたルールです。
20世紀に入って、国際会議で「ラ」の音を周波数440Hzにすると決定しましたが、実際は団体や場所の違いによって、オーケストラで用いられる「ラ」の音は440Hz以外にも442Hz、445Hz等さまざまな基準値があります。
普段セッションをしたり、バンド練習する場合には基本的には440Hzで全員がチューニングしていれば問題ないですが、ピアノのような簡単にチューニングが行えない楽器が入っている場合は、そういった楽器に合わせるようにしましょう。
ホールに設置されているようなピアノだと442Hzになっているのも多いので注意が必要です。
まとめ
色々と書きましたが、基本的にはデジタルチューナーを使って各弦を合わせていれば、特に問題はありません。
とはいえ、ギターのチューニングはちょっとしたことで狂いやすいので、頻繁にチューニングする必要があります。ピアノのように一度合わせればOKというわけではなく、演奏しているうちに徐々に音程がズレてくるので、数曲弾いたらチューニングする癖をつけておきましょう。
弦交換のタイミングでオクターブチューニングも行うようにすればより正確な音程感をキープできるので、忘れずに行いましょう。
以上、「ギターチューニングの基礎知識」でした。