ハース効果を利用してミックスをワイドに広げる
モノラル音源や単一の音を左右に広げる為に「ハース効果」を利用する方法があります。
非常にシンプルな方法で空間を広く使うことができ、多くのジャンルで使用されている非常に便利なテクニックなので、今回は具体的なハース効果についてとそのやり方をご紹介します。
ハース効果とは?
ハース効果とは簡単にいうと「2つの音を1つの音として認識する」人間の持つ錯覚現象です。
実際には2つの音が鳴っていても、40ms以内のほんの少しの音のズレの場合、人は一つの音だと認識し、初めに耳に届いた音の方角から鳴っているように感じます。
例えばあなたがライブハウスの最前列で目の前にボーカリストがいて、その左右のスピーカーからマイクで増大された歌声が出ている状況だとします。
ボーカリストの生の歌声がまず聴こえてきて、ほんの少しだけ遅れて左右のスピーカーから歌声が届きます。
しかし実際にはボーカリストの歌声とスピーカーの音は同じ一つの音として聴こえて、その音の定位はもっとも速く耳に届いたボーカリストの口から鳴っている音と認識します。
この原理をミックス内で利用することで、単一の楽器でもワイドな音像を作り上げることが可能となります。
ハース効果の作り方
実際にDTM内でハース効果を作る方法ですが、一般的には2種類の方法があります。
1. トラック複製
一つは、広くしたいサウンドを複製し、片方のPANを左に大きく振り、もう片方を右に大きく振ります。
それからどちらかのトラックを40ms以内になるように少しだけズラします。
5~35msぐらいが最適で、耳で確認しながら最適なバランスになるように調節しましょう。
ドラムキットのようなパーカッション系の楽器の場合は短めに、ギターやピアノのような伴奏楽器の場合は長めにズラすと効果的です。
2. ディレイ
もう一つはディレイエフェクトを使用する方法です。
まず広げたいトラックにディレイを挿します。
ドライ(原音)を左に大きく振り、40ms以内に設定したウェット(ディレイ音)を右に大きく振ることでハース効果が生まれます。
ディレイの設定はMixを100%にし、フィードバックは一回だけ返ってくるように設定してください。
ハース効果によるデメリット
ハース効果を使用するときに気を付けなければならないことが位相問題です。
同じ波形を短く重ねることで、位相干渉してしまう可能性があるので、ハース効果を使用したトラックは一度モノラルで確認することをオススメします。
2つのトラックをモノラルにして明らかにボリュームが下がったり、大きくなっている場合は解消する必要があります。
位相のぶつかりを解消する方法としては、EQを使って波形を変えるか、微妙にピッチをズラすことでも同じ波形では無くなり、位相問題は解消します。
ハース効果がよく使われる楽器
一般的なプロダクションでよくハース効果が使われる楽器を紹介します。
ギターやピアノの伴奏楽器
ギターやピアノのような伴奏楽器を左右に広げることはミックスにおいて、かなり効果的です。
ほとんどの場合センターにキックドラムやボーカル等の重要な楽器が配置されることが多いので、伴奏楽器を左右に広げることで、スペースを確保できます。
ボーカル
先ほども言ったように、一般的にボーカルはセンターに配置しますが、大サビ等で壮大さを演出したい場合に少しだけ左右に広げると効果的です。
しかしボーカルは最も重要なポジションなので、かならず位相問題の確認を行ってください。
PAD系
あまり耳には直接届かないような、バックグラウンドで鳴っているPADやアンビエントの装飾系にハース効果は力を発揮します。
左右に大きく包み込むように広げることで、意識的に聴こえることはないですが、無意識のうちにリスナーはワイドな空間を体験しています。
もともと奥に引っ込んだ音なので、位相の問題もそれほど気にする必要はないです。
まとめ
ハース効果をうまく利用することで簡単に音像を大きく広げることが可能です。
ハース効果の作り方をまとめると
- 広げたいトラックを複製する。
- 複製したトラックを5~35msズラす。
- 2つを左右に大きくPANする。
- モノラルで位相問題の確認。
以上、ハース効果を利用してミックスをワイドに広げる方法でした。