
バンド活動するなら知っておきたいライブハウス事情
筆者自身10年以上バンド活動をしてきて、現在は音楽フリーランスとして生計を立てています。
改めてバンド時代を振り返ってみると「バンドマンはライブハウスでライブをすることが成功への道筋」ぐらいのなんの根拠もないまま活動していました。
活動中は純粋に音楽だけをやっていれば良いと思っていましたが、今思うと自分がビジネスやライブ界隈のことについて「無知」過ぎたがゆえに、色々と失敗したなと思うこともあります。
そこで今回は、これからバンド活動を新たに始める方や現在バンドをされている方が、同じような失敗や不本意な搾取を受けない為にも、理解しておくべきライブハウス界隈のことについてお話します。
もくじ(クリックでジャンプ)
ライブハウス事情

まずはじめに、ライブハウスは「悪」みたいな書き方になっていますが、決してそういうことではなく、ライブハウス側もビジネスとしてやっているのだから収益を最大化するのは当然のことです。
搾取と感じてしまうのは自分を含め、ミュージシャンやバンドマンの多くの人達は「ビジネス」に関して疎すぎるのが原因です。
そりゃなにも考えずに集客見込みもないまま、ノルマ払ってライブして打ち上げで酒飲んでいるだけだとしたら食い物にされて当然です。
音楽人がビジネスを考えるのは良くないという風潮
まず前提として、アーティストがお金やビジネスという言葉を使うのに抵抗を感じる人は多いし、お笑い芸人やミュージシャンのような職種の人達はお金のことを考えちゃいけないみたいな空気感があります。
もちろん音楽の才能に秀でているのが音楽家で、音楽で感動を与える素晴らしいエンターテイメントを提供するために努力するのが最重要であり、音楽家がビジネスの理解しておくべきかどうかは、それぞれ人の価値観にもよると思います。
とはいえ、多くのトップアーティストはビジネスについて詳しいか、ビジネスに詳しい大人が周りに付いているのは確実で、音楽で生計を立てるのなら間違いなく必要な知識です。
無所属でアマチュアとして活動するのなら、最低限の音楽ビジネスの基礎を学んで、ライブハウスと対等に話ができるぐらいにはなっておかないと、せっかくアルバイトで稼いだ活動資金が一瞬で底を尽きることになりかねません。
ライブハウスのビジネスモデルについて
では「上手にライブハウスと付き合っていくにはどうすればいいの?」ということなのですが、結論からいうとライブハウスのビジネスモデルを理解した上で、ライブハウス以外の活動場所を見つけるか、活動条件に見合ったライブハウスを選択、交渉することです。
その為にもまずはどのようにしてライブハウスの経営が成り立っているのかを知る必要があります。
ホールレンタル料・チケットノルマ

ライブハウス収益の大部分を占めるのが「ホールレンタル料」です。
ホールレンタルが成立すると興行そのものに対してノーリスクで運営することができ、しかもイベント主催者の集客力によってそれ以上の売り上げが見込めます。
レンタルが無い場合はライブハウスが開催するイベントに出演者を募り「チケットノルマ」を課せて出演してもらいます。
大体都内だと¥2000~3500×15枚ぐらいが相場です。
イベントレンタルという名目でイベント主催者に60~70枚のチケットノルマをまとめて付けるプランもあったりします。実質的なホールレンタルです。

まず、バンドマンが金銭的なプレッシャーとなる代表格が「チケットノルマ」ではないでしょうか。
チケットノルマはホールレンタルして興行をするイベントの主催者やそこに「対バン」として集められたバンド達が払う、いわば「最低売り上げ保証」システムです。
ホールレンタルされなくてもバンドマンサイドが最低売り上げを担保してくれるので、これもリスクを少なくして運営が可能です。
一般的な空間レンタルビジネスに「最低売り上げ保証」が付いており、さらにたくさんお客さんが来場した場合には追加でチャージバックでマージンを取っていく仕組みになっています。
ライブハウスごとにノルマやチャージバックの提示額に差があるので、ここで交渉したり、選択の余地が生まれるということです。
飲食費

もう一つが「飲食費」です。
チケットと共に支払われるワンドリンクに疑問をもっている方もいるとは思いますが、これは「飲食店許可」と「特定遊興飲食店許可」をとるために必要なのです。
興行場として認可を得るにはハードルが高いので、ほとんどのライブハウスは「音楽を楽しめるバー」みたいなくくりで営業しています。なのでお客さん全員に飲食物を販売しなければ音楽を提供することができないのです。
当然集客が多いと飲食費が増えるので、やはり集客力のある興行主は喜ばれます。
さらにイベント終わりにはバンドマンによる打ち上げ代も大きな飲食費となります。
「乾杯するのでドリンクの注文お願いしまーす!」
「打ち上げ参加する人は2000円ですー!」
打ち上げに参加しなければいけない空気感が流れて、終電で返るつもりが朝まで・・・みたいなのはバンドマンなら全員が経験済みだと思います。
自腹で派手な宴会をやるために、メンバー集まってスタジオ練習したり、集客のために膨大な時間とエネルギーを費やしている訳じゃないはずです。一通り挨拶できたら終電までには帰宅してライブビデオを見返しましょう。
崩壊したビジネスモデル
このノルマ方式や半強制的な打ち上げに不信感を持っているバンドマンも多いとは思いますが、その「感覚的な不信感」が意外と正解だったりします。
「バンドマンにノルマを課せたり、チャージバックすることは別に普通じゃないの?」というようにビジネスの相場を理解していないと搾取され続けることになります。
本来売り上げのメインであるのは、お客様からのチケット代やドリンク代であるはずが、そこが苦しいので最低売り上げ保証としてバンドマンから収益を上げて経営を維持しているというのが現状です。
ここには様々な見方や考え方があるのであまり声を大にして言えませんが、本来のライブハウスの使命からは大きく外れているような気もします。
一般的なモデルとの比較
似たようなビジネスモデルに例えて考えると分かりやすいと思います。
音楽ライブを提供するライブハウスにおいて「ライブバンド」は顧客の満足度を高めるための商品で、その他多くの飲食サービス業でいうところの「キャスト」です。

店舗の集客が弱いからと「お客さん15人は呼んでね。呼べなかったら最低保障として自分たちで買い取って」という条件を一般的なサービス業のキャストに言ったとしたら、誰もそのお店で働こうとはしないでしょう。
どの業種でもお店側が広告費をかけて広告やビラで集客を行い、キャストにはお給料という形のギャランティーが支払われるのが当たり前ですが、バンドマンに限ってはすべての業務を請け負ったうえに、達成できなければこちらが支払うという条件を承諾しています。
そもそも雇用形態を結んでいるわけでもないので、文句はいえないのですが。。。
それでも出演するバンドマン
では、なぜそのような商売が成り立っているのかというと、その悪条件でも出演するバンドマンが多いからです。
不当な条件だと感じたら「出演しない」というのが一番の対策なのですが、そもそも悪い条件を突きつけられているという感覚が無いバンドマンがほとんどでしょう。
大金を払ってでもライブハウスに出演しなければいけない理由があるのかどうかは謎ですが、バンドマンとライブハウスは切っても切り離せない関係なのです。

- ステージに立って注目を浴びる気持ちよさ
- 横のつながりの大切さ
- 打ち上げで酒を酌み交わす楽しさ
確かに、ライブハウスに出演すれば他では体感できないような快楽を味わえるので、趣味でやる分には全然いいのですが、そうでない場合は何の為にライブをしているのかを改めて考えましょう。
リターンの見込みのない30分のステージに、多くの時間とコストを欠けているようではどれだけ活動しようが成功の見込みはゼロです。
そして1回ライブ出演すると、営業の電話がかかってきます。
1度断っても2度3度とかかってきて、「お世話になっているし・・・」と断り切れずに出演するというのが大半ではないでしょうか?
しっかり自分で考えて、まずは条件の合わないイベントはしっかり断ることです。
ライブハウスの乱立が原因?
てば、なぜがこんな状態になってしまったのか?
20年ほど前はライブハウスの数もそれほど多くなく敷居が高く、集客力、音源審査、ライブ審査を通過した実力のあるバンドじゃないとステージに立てないというのが常識でした。

そこからどんどんライブハウスが生まれ続けて、今では都内だけでも650以上のライブハウスが点在しています。ライブハウスの数が増えることで出演までの敷居が下がり、ほとんどのライブハウスがノルマさえ払えば誰でも出演できるぐらいにまでになりました。
その結果ライブイベントのクオリティはみるみるうちに下がっていき、来場者の満足度は下がり、自らライブハウスに足を運ぶ人はほとんどいなくなりました。
その結果、いつのまにかお客様の満足度よりもバンドマンの満足度をあげて、バンドマンから収益をあげるビジネスモデルへと変貌していったのです。
ライブハウスを選ぶ
「じゃライブハウスには出演しないほうがいいの?」
極論、集客見込みがないのなら出演しない方がいいと思います。
集客が無い状態のバンドがライブハウスに出演すること自体が双方にとって大きなリスクだということは理解しておいたほうがいいです。
とはいえ、駆け出しの頃から何回か出演して集客を頑張っていると、ノルマ無しやチャージバック100%還元をしてくれるライブハウスもあります。
ライブハウス側が「売り上げ最低保証」を無くしてくれるということは、そこには信頼があるということです。
集客が悪かった場合、赤字になるというリスクを背負ってくれているということなので、そこはライブハウスと一丸となってイベントを成功させる責任が問われます。

イベントをゼロから作り上げて、成功させる達成感というのは素晴らしいです。
筆者自身も集客がない頃から可愛がってもらい、お世話になったライブハウスの方達には今でも感謝しています。
ライブハウス側からしても、成長見込みのあるバンドを育てることはメリットも多く、なによりそれを使命としてライブハウス運営をしている経営者の方達がほとんどだと思っています。
そのようなバンドの成長を心から応援してくれるライブハウスを探すこともバンドマンにとっては重要な任務で、そして集客の無いころからお世話になったライブハウスには「いつかビッグになって恩返しをしてやる!」ぐらいの心意気は持つことも音楽活動において大切です。
まとめ
ライブハウスの運営の仕組みと現状についてお話しました。
バンドマンとしてライブハウスと関わっていくのなら、ライブハウス側から出演依頼のお声がかかるような状態になることと、そもそもライブハウス規模のライブでビジネスとして成り立たせるのはかなり厳しいということです。
集客や宣伝が目的なら今の時代SNSやYouTubeで十分ですし、全国を飛び回ってツアーをする時間の余裕と経済力があるのなら、最高のミュージックビデオを一個作ってウェブ広告に出した方が効果的です。
ライブハウスの人達もビジネスとはいえ音楽好きの人間です。何回ライブをしても対応が変わることなく、搾取されているような感覚になるということはバンド自体に魅力がない可能性も否定はできません。。。
以上、「バンド活動するなら知っておきたいライブハウス事情」でした。