ユニバーサルミュージックの最新「Dolby Atmos」スタジオが凄すぎた…
先日、ユニバーサルミュージックから「最新のDolby Atmosを使った音楽制作を体験してみませんか?」とのお誘いをいただき、以前からDolby Atmosミックスに興味があったので、原宿にある本社ビルを訪問し、実際にDolby Atmosのサウンドを体験させていただきました。
今回は、Dolby Atmosスタジオについてと実際に体験して感じたことをご紹介します。
Dolby Atmosスタジオの設立
Universal Music Groupは、海外展開を視野に入れた最先端の楽曲作りを国内でも支援できるようにと、立体音響(Dolby Atmos)の楽曲制作に対応した世界基準の音楽スタジオを、原宿の本社内に新設しました。
今回新設されたのは、米国にある世界有数の音楽スタジオ「Capitol Studios(キャピトルスタジオ)」と同じ再生環境を構築した国内唯一のレコーディングスタジオです。通常は、スタジオごとに機材環境が異なり、同じ音源データでも低音の響き具合など聴こえる音が異なります。この新設スタジオ内は15本のスピーカーのメーカーや音響調整をキャピトルスタジオに合わせて構築されており、同じ周波数特性(音質)を実現しています。
その他にも、収録した立体音響の膨大なデータを、原宿とロサンゼルス間でほぼリアルタイムに送り合える通信技術(リモートコラボレーションツール)も導入しています。
これにより、アーティストと日米の音楽プロデューサーや制作スタッフが互いのスタジオで「同じ音」を聴き、ビデオ会議で話し合いながら楽曲の制作作業を同時に行うことができます。
実際にDolby Atmos音源を聴いてみた
スタジオに入ると、今回のDolby Atmosスタジオ設立の経緯とシステムについて説明していただき、その後、実際にDolby Atmosを使った楽曲を何曲か視聴させていただきました。
海外のEDM楽曲から、日本の定番曲をDolby Atmos化した音源、オーケストラ等、色んなタイプの音源を視聴させて頂きました。ステレオと立体音響を切り替えながらのリスニングだったので、違いがとても分かりやすかったです。
印象としては、これまでのステレオ音源と比べると各楽器の音の解像度が高く、一つ一つのトラックがかなりはっきりと認識できる印象でした。途中で飛び道具的に、頭の周りをグルグル回るような音や、耳のすぐ横で鳴っているような臨場感のある音もあり、楽しませて頂きました。
Dolby Atmosミックスはまだ試行錯誤の段階
スタッフの方の説明によると、Dolby Atmosミックスは自由度が高いこともあり、まだまだ試行錯誤の段階にあるということです。これまでのステレオ環境だと、キックを中央に、ギターをサイドに振って…というようなミックスセオリーがありますが、立体音響は最新の技術ということもあり、エンジニアやアーティストによって色んな音の配置や音質が試されているようです。
たしかに、実際に聴いてみると、最初は立体音響による斬新さと驚きが勝つのですが、あまり音を散らしすぎると意識がそっちに向いてしまって、音楽自体に集中できない…ということもあるように思いました。
ステレオよりも自由度が上がった分、どのトラックにフォーカスを当てるのかといったことや、セクションごとのサウンドの緩急がより重要になるように感じました。
映画館の「Dolby Atmos」がより身近に
映画館で体験したことがある方も多いと思いますが、四方八方から音が鳴り響く立体音響技術が今、音楽や家電、自動車業界で注目を集めています。映画館のような大掛かりな設備を用意しなくても、臨場感のある音が聴ける家電製品等の開発が進んでいます。
ドルビーアトモスは前後左右に加えて頭上からも音が降り注ぐため、音響の立体感が圧倒的に増し、作品への没入感もより高まります。従来の、左右2つのスピーカーから音を出すステレオ再生や、前後左右から音を響かせるサラウンド再生とは違った、新しい記録再生方式です。
音楽配信サービス大手はDolby Atmosの音源配信に力を入れ、それに応えるように、家電や音響メーカーがオーディオスピーカーやヘッドホン、イヤホン、テレビの前に置くサウンドバーなどの対応機種を続々と発売しています。20個程度のスピーカーを設置した立体音響を楽しめる自動車も登場しており、日本でも販売開始されるなど注目を集めています。
米国はチャート上位楽曲の8割以上を立体音響で制作
Dolby Atmosに対応した楽曲作りの流れが、加速しています。2023年度のヒットチャート上位100曲 (Billboard 2023年間チャートHOT100) のうち、アメリカではDolby Atmosの楽曲は8割を超え85%まで伸びています。日本はまだ35%ですが、2年前より13ポイントも上昇しています。 立体音響での楽曲作りは、音の組み立ての選択肢が大幅に増えます。新たな制作スタジオの導入で、アーティストの創作意欲をかき立て、対応作品数を増やし、視聴者に「新たな音楽体験」を届けます。
リモートコラボレーションでの制作
この新スタジオでは、将来的には米国でオケ (ボーカル以外の楽器) を演奏しながら、それに合わせてボーカリストが歌い収録し、その収録音源を両国で同時に聞きながら、ビデオ会議でコミュニケーションをとり、編集することが可能になっています。
実際に他のスタジオにいるエンジニアの方とやりとりしながら、ミックスをする様子も体験させて頂きました。従来のビデオ会議ツールでのやり取りでは「声」以外の音声がほとんどカットされてしまい、綺麗に聞き取るのが難しいといった状況でしたが、今回のリモートコラボレーションツールを使うと、低域から高域まで、まったく同じ音質でのやり取りが可能になっていました。
これによって、お互いに同じ音を聴きながらミックスバランスの修正をお願いする。といったことも出来るようになり、場所に縛られることが無くなることで、制作の幅が大きく広がるといった印象を受けました。
まとめ
ユニバーサルミュージックの新Dolby Atmosスタジオは、海外のCapitol Studiosと同じ音響環境を再現し、日米間のリアルタイムなデータ共有を可能にするなど、最先端の設備を備えています。実際にDolby Atmosの音源を聴くと、音の解像度や臨場感が格段に向上しており、これまでのステレオ環境よりも音楽鑑賞を楽しむことができました。
Dolby Atmosミックスはまだ発展途上の技術ですが、自由度の高さが新たな音楽表現の可能性を広げていることは間違いありません。映画館だけでなく、自宅や自動車など、身近な場所でもDolby Atmosの立体音響が楽しめる未来もそう遠くないのかもしれません。
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