
アコギの音をカスタマイズ!低コストで実践できる「音質調整」テクニック7選
アコースティックギター(アコギ)の持つ、あの心地よく洗練された「生音」。その音は、弾いた弦の振動が「ブリッジ」というパーツからギターのボディ(胴体)全体に伝わって共鳴し、中の空気も一緒に振動して、ボディの真ん中にある「サウンドホール」(丸い穴)から外に出ていくことで鳴っています。
実際のところ、アコースティックギターの音の良し悪しは、ギターそのものの設計や、職人さんの技術に大きく左右されます。ですが、いくつかの簡単な方法を試すことで、今持っているギターの音質をグッと向上させることは十分に可能です。
エレキギターのようにエフェクターで音を大きく歪ませたりすることはできませんが、「なんだか音がしっくりこない…」と新しいギターの購入を考える前に、まずは低コストで試せる「アコギの音質改善策」を7つご紹介します。
1. ピックを変える

アコースティックギターの音色は、弦を弾く「ピック」の素材や形状によって、驚くほど大きく変化します。
ピックは数百円で色々な種類が試せる、最も手軽な音質改善アイテムです。ピックを変えることでアコギの音色がどう変わるのか、主なポイントを見てみましょう。
- ピックの素材: ピックには様々な素材があり、定番の「セルロイド」、硬くてすり減りにくい「トーテックス」や「ウルテム」、柔らかい「ナイロン」、他にも木製や金属製のものまであります。例えば、セルロイドはバランスが良く、トーテックスは少しザラっとした乾いた音、ウルテムは硬質でクリアな音が出やすいです。
- ピックの厚さ: ピックの厚さは、音の強さやニュアンスに直結します。一般的に「Thin(薄い)」「Medium(中間)」「Heavy(厚い)」などで表記されます。薄いピックはストローク(かき鳴らす奏法)に向いており、シャラシャラとした繊細な音が出やすいです。逆に厚いピックは弦に力が伝わりやすく、一音一音が太く、力強い音になります。
- ピックの形状: ピックの形も音に影響します。代表的なのは「ティアドロップ(涙型)」と「おにぎり型(トライアングル)」です。「ティアドロップ」は先端が尖っているため、弦をピンポイントで狙いやすく、クリアでアタック感のある音が出せます。「おにぎり型」は持つ部分が広く安定し、角が丸みがかっているため、コードストロークなどで柔らかくまとまりのある音が出しやすいです。
- ピックの表面加工: ピックの表面がツルツルか、ザラザラ(滑り止め加工)かでも、握り心地や弦への当たり方が変わります。表面に溝やザラザラした加工があるとグリップ力(握りやすさ)が上がり、ピッキングが安定することで、音のアタックも明瞭になることがあります。
- ピックの弾き方(テクニック): ピックをどれくらいの深さで当てるか、どの角度で当てるかによっても音は変わります。浅く当てれば軽い音に、深く当てれば強い音になります。また、弦に対して平行に当てる(順アングル)と素直な音、少し斜めにして当てる(逆アングル)と「カリッ」とした硬めの音になります。
たくさんの種類があって迷ってしまいますが、まずは「おにぎり型」で厚さが「Medium(0.7mm~0.8mm前後)」のものを基準に、色々な素材や厚さを試してみるのがおすすめです。
きっと自分の演奏スタイルや好みに合った音色が見つかるはずです。
2. 弾く位置を変える

これは機材を一切使わない、最も簡単で今すぐにできる音色を変える方法です。それは、右手でピックを当てる場所(ピッキングする場所)を変えることです。
弦は、張られている位置によって硬さ(張り具合)が違います。ボディのお尻側にある「ブリッジ」に近づくほど弦の張りは強く硬くなり、真ん中の「サウンドホール」や、さらにネックに近づくほど弦の張りは柔らかくなります。
ブリッジ寄りで弾けば、硬い場所を弾くことになるので「キンキン」「カリカリ」とした明るくブライトなトーンになります。
逆にサウンドホールやネック寄りで弾けば、柔らかい場所を弾くことになり「ポロン」「コロン」とした丸みのある柔らかいトーンになります。
ギターの根本的な音色改善にはなりませんが、レコーディング中や曲の途中で「Aメロは優しく、サビは力強く弾きたい」といった場面で非常に効果的なテクニックです。
3. ナットとサドルの変更

アコースティックギターの音色は、小さな部品の変更によっても大きく影響を受けます。
その中でも特に重要なのが「ナット」と「サドル」です。
・ナット:ヘッド側(ギターの先端)で弦を支えている、溝が掘られたパーツ。
・サドル:ボディ側(ブリッジの上)に乗っている、白い棒状のパーツ。
これらは弦の振動を直接受け止め、ギター本体(ネックやボディ)に伝える「橋渡し」の役割をしています。この部品の素材を変えることで、弦の振動の伝わり方が変わり、音色も変化します。
多くのギターでは、コストダウンのためにプラスチック製のナットやサドルが使われています。これを「牛骨」や、人工象牙の「TUSQ(タスク)」といったより硬く密度の高い素材に変えることで、弦の振動がより効率よくボディに伝わるようになります。
一般的に、音の輪郭がハッキリし、倍音(音のキラキラした成分)が増え、サスティーン(音の伸び)が良くなる傾向があります。
※注意点※
ナットやサドルの交換は、パーツ代自体は1,000円前後からありますが、多くの場合、ギターに合わせて精密に削る作業が必要です。調整には専門的な知識や工具が必要なため、自信がない場合はリペアショップや楽器店に相談しましょう。
4. 弦の交換

もしかしたら、これが一番効果が分かりやすいかもしれません。
弦は「消耗品」です。弾いているうちに手の汗や脂、空気中の湿気などでサビたり劣化したりします。
古い弦は振動が鈍くなり、音がこもり、チューニングも合いにくくなります。もし「最近ギターの音が悪いな」と感じたら、まずは新しい弦に交換するだけで、買った時のような「シャリーン」とした綺麗な音が一気に蘇ります。
さらに、弦の「素材」や「ゲージ(太さ)」を変えることでも、音色をコントロールできます。
- 弦の素材:アコギ弦の主流は2種類です。
「フォスファーブロンズ」:赤みがかった色。キラキラしつつも温かみのある、バランスの取れた音。
「80/20ブロンズ(ハチニー)」:黄色っぽい色。高音域がハッキリした、明るくギラッとした音。 - 弦のゲージ(太さ):弦の太さもサウンドに影響します。
太い弦(Mediumゲージなど):弦の張りが強くなり、音量と低音が豊かな力強いサウンドが特徴。押さえるのに少し力が必要。
細い弦(Extra Lightゲージなど):弦の張りが弱く、押さえやすい。煌びやかで高音寄りの繊細なサウンドが特徴。 - コーティング弦:弦の表面に特殊な膜(コーティング)が施された弦。価格は少し高めですが、サビや劣化に強く、通常の弦より3~5倍も寿命が長いのが特徴です。弦交換の頻度を減らしたい人におすすめです。
初心者の方は、まず多くのギターで最初から張られていることが多い「フォスファーブロンズ」の「Light(ライト)」ゲージ(.012~.053が一般的)を試してみるのがおすすめです。
5. サドルの高さ調節

アコギの弾きやすさを決める重要な要素が「弦高(げんこう)」です。これは、指板(ネックの表面)から弦までの高さのことです。
この弦高を調節しているのが、主にブリッジの上にある「サドル」の高さです。
サドルを高くする(弦高を上げる)と、弦がボディを引っ張る力(テンション)が強くなり、弦がしっかりと振動するため、音量が出て明るいトーンになる傾向があります。ただし、弦高が高すぎると弦を押さえるのに力が必要になり、弾きにくくなります。
逆にサドルを低くする(弦高を下げる)と、弦が押さえやすくなり、演奏はとても楽になります。音色は、テンションが弱まることで、暖かく柔らかなトーンが生まれやすくなります。ただし、下げすぎると弦がフレットに当たって「ビビり」というノイズが出ることがあります。
サドルの高さを調節するには、一度弦を緩めてサドルを取り出し、底面を紙やすりなどで削って低くします。(高くする場合は、下に薄い板を敷くか、新しいサドルに交換します)
※注意点※
サドルの調整は、音色以上に「弾きやすさ」に直結する重要な調整です。特に一度削りすぎてしまうと元に戻すことはできません。ほんの0.数ミリで弾き心地が大きく変わるため、自信がない場合はリペアショップに相談しましょう。
6. トラスロッドの調整

ギターのネックの中には「トラスロッド」という金属製の棒が埋め込まれています。
これは本来、弦の張力や湿度の変化によってネックが反って(そって)しまった場合に、その「反り具合」を調整し、ネックを真っ直ぐに保つためのものです。
このトラスロッドを締めたり緩めたりすることでも、サウンドの印象が変わることがあります。
ロッドを締める方向(ネックが逆反りする方向)に回すと、ネックが弦の張力に逆らって硬くなり、音がややブライト(明るく)になり、サスティーン(音の伸び)も良くなる傾向にあります。
ただし、これは音色を積極的に変えるための機能ではありません。
※最重要・注意点※
トラスロッドの調整は、ギターのコンディションを整えるための非常にデリケートな作業です。調整を間違えると、ネックに修復不可能なダメージを与えてしまう危険性があります。
あくまでネックの反りを適正な状態(わずかに順反り)にするのが目的であり、音色変化はその副次的なものです。アコギ初心者の方は、トラスロッドには触らず、まずは楽器店でコンディションを見てもらうことを強く推奨します。
7. ブリッジピンを変える

アコギの弦は、ブリッジ部分で「ブリッジピン」という小さなピンで留められています。(画像3や5のブリッジ部分に刺さっている6本のピンです)このブリッジピンも、ナットやサドルと同じように、素材によって音色に影響を与えます。
標準ではプラスチック製のものが付いていることが多いですが、これを「TUSQ(タスク)」「牛骨」「木材(エボニーやローズウッドなど)」「真鍮(金属)」などに交換することで音色が変わります。例えば、TUSQや牛骨は音の輪郭をクリアにし、木材はより温かみのあるナチュラルな響きに、真鍮は非常に硬質でサスティーンの長い金属的な音になる傾向があります。
ブリッジピンは、ナットやサドルのような面倒な削り出し調整が不要な場合が多く、比較的簡単に交換できるパーツです。(サイズが合わない場合もあるので購入時は注意が必要です)1,000円以下から様々な素材のものが売られているので、手軽な音質変化のアクセサリーとして試してみる価値はあります。
まとめ
アコースティックギターの音質を低コストで改善するための7つの方法をご紹介しました。
- ピックを変える
- 弾く位置を変える
- ナットとサドルの変更
- 弦の交換
- サドルの高さ調節
- トラスロッドの調整
- ブリッジピンを変える
これらの方法を組み合わせて使うことで、より自分の好みの音色に近づけることができます。
まずは、一番簡単で効果が分かりやすい「1. ピックを変える」「4. 弦の交換」「2. 弾く位置を変える」あたりから試してみるのがおすすめです。「3. ナット・サドル」「5. サドルの高さ」「6. トラスロッド」の調整は、ギターの演奏性にも関わる専門的な部分です。特にトラスロッドは、自信がない場合は絶対に無理をせず、楽器店のリペアマンなどプロに相談するようにしましょう。
エレキギターのような大幅なトーン変更は難しいかもしれませんが、新しいギターを購入する前に、これらの方法で「今のギターのポテンシャル」を最大限に引き出してみてはいかがでしょうか。
以上、「アコギの音をカスタマイズ!低コストで実践できる「音質調整」テクニック7選」でした。