ディレイとは?その仕組みとコントロールについて
Delay(ディレイ)はトラックに幅、奥行き、空間を表現するための強力なミキシングツールです。
ディレイは正しく使用しないと、音が重なりすぎて、濁りの原因にもなります。基本的なコントロール、タイミングの設定方法、さまざまな効果を得るためのヒントなど、ディレイについて知っておくべきことをご紹介します。
ディレイとは?
ディレイは入力ソースを記憶媒体(テープのリールやハードドライブなど)に一度記録し、設定した時間が経過した後に再び再生するオーディオ処理技術です。
ユーザーが設定したパラメータに応じて、繰り返される信号は1回または複数回繰り返したり、音の減衰(フィードバック)量のコントロールも可能です。
ディレイを正しく使用することで、ミックスに空いたスペースを埋めるための優れた方法として利用されています。原理的にはリバーブと同じように機能し、ディレイを使用して奥行きのある立体的な錯覚を作り出すことができます。
また、モノラル信号でステレオディレイを使用したり、ミックスの反対側にディレイをパンしたりして(ピンポンディレイ)ステレオ空間をより広くする使う為に使用できます。
飛び道具的な使い方も可能で、トラックにリズミカルな変化を加えるのに使用したり、付点8分音符に設定して、ディレイ音自体をフレーズの一部としてみる使い方もあります。
→ディレイの使い方【ミックスで使える5つのテクニック】
ディレイの歴史
もともとディレイエフェクトはアナログテープループを使用して作成されていました。1940年代に「PierreSchaeffer」によって開発された手法で、テープのセクションをエンドツーエンドで接続することによって作成されます。これをループさせることで音声ソースを連続して再生することができます。
当時はテープループとディレイを使用して独特のリズム、テクスチャ、音色を作成していました。1960年代と70年代までに、人気のあるアーティストは、サイケデリックス、プログレッシブ、アンビエントのジャンルをより深く、新しいサウンドを作成するために、アナログディレイユニットの実験を開始しました。
初期のテープディレイ製品としてEchoplexEP-2とBrianEnoによって普及したRolandRE-201 SpaceEchoがあります。また、ギターエフェクターブランドの「BOSS」は1984年に世界初のデジタルディレイペダルであるDD-2をリリースし、時間ベースのエフェクターの新時代を切り開きました。
後の普及するデジタルディレイは、リバーブ、タイムストレッチ、さらにはピッチシフトなど、従来のアナログディレイよりも洗練された複雑な設定を提供します。
ディレイとリバーブの違い
リバーブとディレイは同じ空間系のエフェクトとして有名で、この2つの違いについて疑問に思われる方も多いかと思います。
基本的な動作原理は同じで、どちらも時間ベースのエフェクトですが、両方とも様々な使い方でミックスに深みと空間を追加します。
リバーブはディレイ信号の一種の形式で、実際に聴こえているのは、ディレイ信号で表現される残響空間です。より複雑な音の跳ね返りの為、ディレイ音が不鮮明になっていますが、すべてのリバーブはディレイ信号から作成されています。
反対にディレイエフェクトは音響空間でどのように聴こえているかをシミュレートせずに、単純に音源ソースを繰り返すだけのエフェクトです。
ディレイのコントロール
ほとんどのディレイユニットは非常にシンプルなコントロールを備えています。
1つはディレイタイムで通常はミリ秒(ms)単位でコントロール可能です。ディレイタイムは元となる音声信号とディレイ信号の跳ね返り時間を制御します。ディレイタイムは手動で設定するか、楽曲のBPMを設定することで最適なディレイタイムを設定します。
手動で設定する場合、1分は60,000msなので、曲のBPMに基づいてビートの長さを決定するには、次の式を使用します。
60,000 / BPM =ms単位の1ビート
たとえば、120 BPMのトラックで作業している場合、1ビートは500ms(60,000 / 120 = 500)です。 シンクロ機能が搭載されている製品ならトラックのBPMと自動的に同期するため、ノートの長さ(1/8音符、1/4音符、1/2音符等)を選択するだけで設定可能です。
もう一つの重要なコントロールはフィードバックです。これはディレイ信号がどれくらいの長さフィードバックされるかの数値で、ディレイ信号が繰り返される回数をコントロールします。フィードバックが最小に設定されている場合、ディレイ信号は1回だけ繰り返されます。反対にフィードバックを最大に設定すると、ディレイ信号は無限に繰り返されます。
これら重要な2つのコントロールに加えて、さらにハイカットフィルターやローカットフィルター、モノラル、ステレオ、パンニング等のツールが含まれています。これらを使用して、不要なローエンドを削除したり、遅延のハイエンドをロールオフしたりして、ミックスを押し戻し、スペースを作成することができます。
最後にウェット/ドライコントロールを使って、元の信号とディレイ信号のバランスを調整します。
ディレイ効果の種類
ディレイ効果を利用することで、設定に基づいてさまざまな異なるエフェクト効果を作成することができます。
20ms~50msの僅かに遅らせたディレイ信号を重ねることで、ダブリング、フェイザー、フランジャー、コーラスといったエフェクト効果を作成することもできます。わずかに遅れた信号は人の耳は一つの音と認識する為、オリジナルと複製を分離できず強化されたサウンドとして認識します。
ダブリング
ダブリングはシンプルに2つの音を重ねて分厚くする効果や、バッキングギター等でよく使われるディレイによりわずかにずらした音を左右にパンニングすることで、2テイク録音したような音の広がりを持たせることができます。
フェイザー、フランジャー
フェイザーエフェクトは、リアルタイムの音とわずかに位相を変えた2つの波の干渉で、音色の連続的な変化を人工的に作り出すエフェクターです。これにより薄いギタートーンを強化したり、シュワシュワーとして独特なサウンドが作成されます。
ディレイを使ってフェイザー効果を生み出すには、ディレイタイムを1ms(最速値)に設定し、レートコントロールを調節して位相ずれによるモジュレーションの量を増やします。
より激しいジェットエンジンのような効果のものをフランジャーと呼びます。
コーラス
コーラスはフェイザーと同様に、わずかに遅れたディレイ信号(5〜30ms)を使用して、ダブルトラッキングの効果をシミュレートします。通常コーラスエフェクトはLFOを使用してピッチとタイミングをわずかに変化させることでより効果的になります。
コーラスエフェクトはキーボードを厚くしたり、クリーンギターをより綺麗に響かせるために使用され、80年代の定番エフェクターとして人気でした。
ディレイを上手く使用するためのヒント
ディレイを正しくBPMに同期させることで、ミックス内のスペースを奪い過ぎずに左右と奥行きの立体感あるトラックを取得する為の優れた方法です。
このテクニックはサウンドが詰まった激しいジャンルでより効果を発揮し、ミックスが濁りやすいリバーブの代わりに使えます。
先ほど述べたように、ディレイタイムが短すぎると音の分離を認識できずに一つの音に聴こえます。ディレイタイムが短すぎるとトラックのサウンドが大きくなり、ディレイタイムが長すぎると音が干渉してしまい、こもったようなサウンドになる可能性があります。
ボーカルディレイ
ボーカルトラックには4分音符のディレイが一般的によく使用され、空いたスペースを埋めるために効果的です。最も一般的なテクニックの1つは、Auxセンドトラックに4分音符のディレイを設定し、リターンがほとんど聞こえないように設定します。次に、エコーの数が各ボーカルフェーズの空白を埋めるようにフィードバックを調整することで、リードボーカルにより深みを加えることができます。
曲全体でみたときにセクションによってはボーカルのリズムが変化することがあり、ディレイ音がボーカルの邪魔になることがあります。これを回避するにはディレイプラグインの後にコンプレッサーを追加します。
コンプレッサーがボーカルトラックによってトリガーされるようにサイドチェーンを設定し、メインのボーカルが歌っているときコンプレッサーによりディレイ信号のレベルを下げるように設定します。こうすることでボーカルとそのディレイ信号がぶつかり合うことが無くなります。