70~80年代ミュージックの作り方 : 当時のサウンドを再現する為の7つのテクニック
ストリーミング音楽サービスの普及により、簡単に70~80年代の音楽にも触れることができるようになり、過去のカルチャーに対する関心が高まっています。
当時の歌謡的な雰囲気と、キャッチーなメロディー、感情的な歌詞などの要素が、世代を超えて楽しまれており、その時代の曲を聴いたことのない世代からは「新鮮さ」を感じることで再評価されています。
そこで今回は、70~80年代ミュージック当時のサウンドを表現する為のいくつかのテクニックをご紹介します。現代のサンプル音源やシンセサイザーが持つソリッドで冷たい印象のサウンドを、温かみのあるアナログサウンドに変換するのにも役立ちます。
1. 当時のビンテージ音源を使う
当時よく使用されていたシンセサイザーやドラムマシンを使用するだけで一気にそれっぽい雰囲気がでるので、当時の音源をシミュレートしたソフト音源を使用することは、80年代を再現するのに最も効果的です。
最近だとビンテージな実機をシミュレートしたソフトウェアシンセも多くリリースされていることもあり、比較的入手が簡単になっています。例えば、ポリフォニックシンセの最高傑作と呼ばれた「Prophet 5」や、今もなおメインストリームで使用されているRolandの「TR-808」をエミュレートした音源も入手可能です。
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2. アナログ機材の使用
ミキシングコンソール、アウトボードプリアンプ、エフェクトユニットなどのアナログ機材を導入することで暖かみのあるウォームなサウンドを手に入れることができます。
レコーディングやミキシングの際にアナログ機材を通すことで、サウンドに特有のサチュレーション感やカラーをつけることができ、音を柔らかくする効果があります。
例えば、ミキシングコンソールであれば「SSL 4000」や「API」シリーズが人気ですが、個人のクリエイターが実機を導入するのはあまり現実的ではないので、DAW上でモデリングされたアナログスタイルのチャンネルストリッププラグインを使用するのが一般的です。
3. テープシミュレーション
DAWのプラグインエフェクトを使用して、アナログテープのシミュレーションを行うことができます。テーププラグインを使用することで、テープの飽和、ノイズ、トランジェントの滑らかさを模倣します。
特にテープ特有の経年による磁性層の劣化、ノイズ、テープ自体の伸縮によるサウンド変化が起きやすく、今ではLo-Fiテクニックとしてこれらのテープ録音による副産物を再現したエフェクトも多くリリースされています。
テープサチュレーションだと「Tape」というエフェクトが人気なので、興味ある方はチェックしてみてください。
4. チューブプリアンプの使用
真空管を使用した「チューブプリアンプ」はウォームなサウンドを実現するための優れたツールです。楽器やボーカルの録音時にチューブプリアンプを使用することで、トーンにアナログ特有の暖かみが加わります。
ギターアンプにもチューブアンプが採用されることが多く、ゲイン量を調整することで信号を増幅し、増幅する過程で適度な「歪み効果」が生まれます。
最初は低いゲイン設定から始め、音源がクリッピング(音割れ)しないように注意します。意図的にクリッピングさせたサウンドも魅力的ですが、必要に応じてゲインを調整し、適切なレベルに設定します。
5. ソフトクリッピングとサチュレーション
現在のデジタル楽器はノイズが無く非常に優れていますが、そのまま使用するとクリアで綺麗すぎるので、クリッピングさせたり、適度な歪みを加えることであえて「汚す」ことがあります。
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ソフトクリッピングエフェクトやサチュレーションプラグインを使って、トラックやミキサーに軽度な歪みを追加することで、ウォームなサウンドを実現できます。
ただし、過度な歪みは音質を損なう可能性があるので、かけすぎには注意しましょう。
6. トランジェント処理
トランジェント(音の立ち上がり部分)の正しい処理は、ビンテージ風なウォームサウンドを実現する際に重要です。トランジェントを過度に圧縮しないように調整し、音楽のダイナミクスを保つことが大切です。
70~80年代のサウンドは、ヘッドルームを十分に確保したダイナミックなサウンドが特徴的です。コンプレッサーを使った過度な圧縮を避けるようにしましょう。
一部のプラグインエフェクトやミキシングコンソールには、トランジェントシェイパーと呼ばれる専用のツールが含まれています。トランジェントシェイパーは、アタック部分の形状を調整することができ、特定の音源に適したサウンドを作成できます。
7. マイクの選択
楽器や歌声をレコーディングする際の、マイクの選定は重要です。
ウォームなサウンドにしたい場合は、リボンマイクやコンデンサーマイクの中でも暖かいキャラクターを持つものを選ぶようにしましょう。
以下のマイクは、ウォームで豊かなトーンを持ち、特にボーカルや楽器の録音に適しています。
- リボンマイクロフォン
リボンマイクはウォームなサウンドで知られており、高域が滑らかで自然なトーンを提供します。リボンマイクは特にボーカル、ギターの収音に適しています。代表的なリボンマイクのモデルにはRoyer R-121があります。 - コンデンサーマイクロフォン(大型ダイヤフラム)
大型ダイヤフラムを持つコンデンサーマイクは、ウォームで広がりのあるサウンドを提供します。これらのマイクはボーカル、アコースティックギター、ピアノなどの録音に適しています。代表的なモデルにはAKG C414があります。 - ダイナミックマイクロフォン
一部のダイナミックマイクロフォンもウォームなキャラクターを持っています。これらのマイクは、ボーカルや楽器録音において自然なトーンを提供し、高音域が過度にシャープになりすぎない特性があります。Shure SM7Bなどがあります。
8. トラック数を減らす
最近のDAW(音楽制作ソフト)は数百のトラック数でも再生することができますが、70~80年代当時はそこまでハイスペックな機材ではない為、シーケンサー、リズム、シンセサイザーなどの最低限のトラックで成り立っています。
なるべく音数を減らして、エフェクト類のトラック数も少なくすることで、自然と当時のシンプルさを再現することが可能です。
9. リバーステクニック
サンプリングが流行して、その中でも便利な機能の1つとして音声を反転させる「リバース」効果が挙げられます。80年代後半から90年代初頭 リバースシンバルやリバーブ信号を反転させるテクニックが非常に人気があり、多くのエンジニアやアーティストが使用していました。
リバースは今でもよく使用されるテクニックですが、反転させたオーディオサンプルを積極的に取り入れることで、当時の音源の特徴を再現することができます。
最近だとほとんどのDAWに「Reverse」ボタンが付いているかと思うので、簡単にオーディオデータを反転させることが可能です。
10. 空間系エフェクトに歪みを加える
80年代のデジタルリバーブは、リバーブのテール音が減衰していく段階で独特のノイズが発生することがありました。
今だとリバーブのウェット信号に歪み系(特にビットクラッシャープラグイン)を使うことで再現することができるので、当時のリバーブサウンドを再現したい方は試してみてください。
オートメーションを使って必要なポイントにだけノイズがかかるようにすると、より再現度が高くなるのでおすすめです。
まとめ
70~80年代の音楽サウンドを再現するためのテクニックは、その時代の魅力的なサウンドを現代の音楽に取り入れる手段として活用できます。
ビンテージ音源の使用、アナログ機材の導入、テープシミュレーション、チューブプリアンプの活用、そしてウォームなキャラクターを持つマイクの選定は、ウォームで豊かなサウンドを作り出すのに役立ちます。
また、トランジェント処理やソフトクリッピング、リバーステクニック、リバーブへの歪みの追加など、細かいテクニックも活用することで、当時の音楽の特徴を忠実に再現することができます。
最も重要なのは、音楽制作の過程で自分自身のクリエイティビティを発揮し、そのテクニックを組み合わせて独自のサウンドを生み出すことです。
以上、「70~80年代ミュージックの作り方 : 当時のサウンドを再現する為の7つのテクニック」でした。