【空間を操る!】サウンドに奥行きと広がりを作る為の5つのテクニック
コンプレッサーや空間系エフェクトを使って、トラックに奥行きと広がりを付与することは、楽曲のクオリティを決定づける重要な要素となります。
空間を上手くコントロールするには、周波数特性や倍音、エフェクトの各パラメーターの使い方といった様々な要素が絡んでくるため、エンジニアとしての経験値とセンスが求められます。
今回は、サウンドに奥行きと広がりを作る為のいくつかのテクニックをご紹介します。
1. コンプレッサーとサチュレーションで「近い音」を作る
奥行きと広がりは、すべてのパートの相対性から生まれます。近くに聞こえる音が存在するからこそ、遠くに聞こえる音が生まれるのです。特に奥行きを演出するには、複数のトラックに同じような処理を施すと飽和しやすくなります。
トラックごとに前後の距離感を出さないと、音楽が立体的に感じられません。まず最初に近くで聞こえるパートを作り出す方法について見ていきましょう。
コンプレッサーで近づける
この用途でポピュラーなエフェクトとして挙げられるのは、コンプレッサーです。アタックの早い音色やサスティンが短いものは近くで鳴っているように聞こえる傾向があります。
そのため、近くに配置したい音はアタックがはっきりと見えやすく、サスティンが膨らまないように意識して処理する必要があります。最初の立ち上がりの音が速いと音が近くに感じられるという理論に基づいて、例えばスネアの場合、アタックを強調し、その後の胴鳴りの音を短くすることで、音が手前に張り付くような感覚になります。
コンプで近くならない場合は…
強くコンプレッションしても音が近くに感じられない場合は、そもそもコンプレッサーだけでは解決できないサウンドの可能性が高いため、アプローチを変える必要があります。
コンプレッサーで音を近づけることが難しい理由としては、様々な原因が考えられますが、特に「倍音成分が少ない音色」だとコンプレッサーだけでは効果が薄いことが多いです。
このような場合には、サチュレーションエフェクトを使用して、サウンドに倍音を付加することで、近くで鳴っているようなサウンドに仕上げることができます。サチュレーションを加えることで、不足している高域の周波数成分が増強され、音の密度が増して音が近くに感じられるのです。
2. モノラルリバーブで楽器の真後ろに残響音をつける
近くで聞こえる音と遠くで感じられる音をミックスすることで、奥行きが生まれます。遠くで聞こえる音を作る為の最も簡単な方法としては、トラックに対してリバーブをかけることです。
この遠近感を出すためのリバーブを使う際は、トラックごとに個別にリバーブエフェクトを挿すよりも、センド&リターンでまとめて送ったほうが統一感のある空間を表現することができるのでおすすめです。
クリアで立体感のあるミックスの為の5つのリバーブテクニック
この時にリバーブ成分を「モノラル」にすることが非常に効果的です。リバーブといえば、原音に対して扇状に残響音が広がる音像をイメージすることが多いと思いますが、リバーブをモノラルで出力すれば残響音が横に広がりません。
リバーブを使って奥行きを出したい場合は、モノラルにすることで楽器の背面に残高音が生まれるので、より奥行きをコントロールしやすくなります。これはシンプルな方法ですが、案外見落とされがちなテクニックかもしれません。
しかし、やりすぎると原音にリバーブ成分が干渉してしまい、極端に解像度が低く鳴ったり、濁り過ぎてしまうといったこともあるので注意しましょう。
3. 違う音色を重ねる
異なる音色を重ねることで、音の遠近感をコントロールすることは、音楽制作においてよく使用されている重要なテクニックの一つです。レイヤーを使用してサウンド強化する為の10のヒント【DTM】
異なる楽器や音色特性の違う音源を組み合わせることで、アタック(音の立ち上がり)やサスティーン(音の伸び)の特性が異なります。例えば、瞬間的な明るいアタックを持つパーカッシブなサウンドと、伸びのある柔らかいピアノを組み合わせると、奥行きが感じられます。
仮に、ピアノをもっと近くに聞かせたい場合は、ピアノの演奏タイミングに合わせてパーカッション系を薄く重ねます。そうすると、パーカッションのアタックがピアノのアタックのように聞こえ、ピアノがより近くに聞こえます。
他にもディレイを使って重ねる方法もあります。例えば8分で刻まれているハイハットに、うっすらとディレイをかけ、2発目から原音とディレイ成分が重なるようにしています。これは、通常のディレイとしての使い方ではなく、ハイハットに対して同じタイミングでディレイ成分が鳴るようにしています。
ディレイをしようすることで残響に対して音色変化が起きているため、原音とレイヤーの距離感が生まれるのです。
4. EQを使って後ろに配置する
音の遠近感を出す為の最も基本は、ボリュームフェーダーを使った音量調整です。ボリュームで前後感を演出できなければ、エフェクトを使っても美しい空間を作り出すことは難しいです。
ボリュームフェーダーだけでは十分にコントロールできない場合、ここでEQによるイコライジングを使用します。例えば、単純にローパスフィルターをかければ、高音成分がカットされて音が遠くで鳴っているように聞こえますが、奥の方で聞こえさせたいけれどもできるだけ上の方で鳴っているようにしたい場合、あまり有効な手段ではありません。
上下左右の空間のどこに楽器を配置したいかといったイメージは、アーティストやクリエイターによって様々なので、しっかりと妥協せずに表現していきたいところです。
EQで遠くに引っ込んだような音色を作りたい場合、狭いQ幅でカットして、音が遠くに感じられる周波数ポイントを見つけるのが最適です。素材によって目的の周波数帯域は異なるので、はじめは楽曲全体で聴きながら手探りで探してみましょう。
5. モジュレーション系で左右に広げる
モジュレーション系エフェクトを使用して音の変調や位相の変化を利用して、空間の奥行きや立体感を強調することができます。
ピッチシフトやコーラスは、空間に広がりを持たせるエフェクトとしてよく使われています。コーラスの持つ微妙なピッチ変化や音の揺らぎが、音に奥行きと広がりを与えます。
モノラル音源をステレオに広げる方法【DTM】の記事でもご紹介したように、ベースのようなモノラル音源を左右に広げる方法としても使用されています。他の方法に比べると設定によっては少し特殊なサウンドになりますが、ジャンルによっては使えるサウンドとして武器になります。
ベースにモジュレーションをかける場合は、低音成分にかけるとかなり違和感がでるので、必ず100Hz以下はカットして使用するようにしましょう。
まとめ
これらのテクニックを組み合わせることで、ステレオ空間の中の様々なポジションに楽器を配置することができるようになります。
コンプレッションやサチュレーションを用いて音を近くに引き寄せ、モノラルリバーブで奥行きを出し、異なる音色を重ねて距離感をコントロールし、EQで前後の配置を調整。モノラル音源には、モジュレーション系エフェクトを加えることで左右に広げることも可能です。
※今回ご紹介した方法以外にもハース効果といった、音響心理学を活用した方法もあるので、気になる方はチェックしてみてください。
以上、「【空間を操る!】サウンドに奥行きと広がりを作る為の5つのテクニック」でした。
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