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ミックス品質向上の為に学んでおきたい音響心理学

音響心理学

ミックス品質向上の為に学んでおきたい音響心理学

私たちは普段色々な音に包まれて生活していますが、それらの音を意識的に認知することはあまり無く、音が聴こえてくる仕組みを考えることは少ないです。

実際に脳は、音が聴こえる仕組みを理解するのに役立つ、いくつかの驚くべきメカニズムを持っており、それらを利用して様々なテクノロジーや音楽が発展してきました。

今回は特にミキシングに役立つ音響心理学の知識をいくつかご紹介したいと思います。

耳は欠陥品?

耳

科学者が人間の聴覚を研究することで、オーディオテクノロジーと他の科学の様々な分野で大きな進歩をもたらしてきました。音響心理学は非常に科学的であり、すべてを理解する為には生物学、心理学、コンピューターサイエンスなどの多くの分野を統合的に見る必要があります。

まず、はじめに人間の聴覚は感覚器官の中でもかなりポンコツに近いレベルの感覚器官だと認識しておくことが重要です。

音響心理学では、耳は言語を読み取る能力と、危険を察知するためだけの器官だと説明されているように、耳の構造は正確に音を分析するために作られている訳ではないので、実際には欠陥だらけだと研究者は言っています。


実験として、耳に自信がある人達に目隠しの状態で様々なリスニングテストを行うと、回数を重ねるごとに結果は50%に近づいていくという研究結果があります。

つまり実際にはよく分かっていないが、当てずっぽうで回答を続けた結果、五分五分の回答率になるというわけです。

人間の聴覚の仕組み

耳

続いて、デタラメに認知しやすい耳の構造について説明します。

耳は基本的に人体のマイクとして機能し、耳から入ってくる音波を分析し、その情報を脳に送ります。人間の耳の主要部分の概要と、音の知覚においてそれらが果たす役割は次のとおりです。

  • 耳介(または耳介):これは実際に音波をキャッチする部分です。耳介は入ってくる音波を外耳道に誘導する役割があります。
  • 鼓膜:外耳道の奥にある薄い膜は、エネルギーをある形態から別の形態に変換するトランスデューサーとして機能します。入ってくる音波は気圧の変化として認知され、耳小骨と呼ばれる鼓膜に付着した小さな骨に伝わります。
  • 蝸牛:カタツムリの形をした膜は液体で満たされ、耳小骨から直接増幅された振動を受け取ります。小さな毛の複雑なネットワークは、周波数(音程)に基づいてさまざまな振動反応を起こします。そこから聴覚神経に沿って脳に伝わる一連の電気パルスが生成されます。


このようにトランスデューサー、アンプ、スペクトラムアナライザーなど、音楽クリエイトに使用するテクノロジーと同じように人の耳は機能しています。

しかしDAWやハードウェアと同様に人間の耳にも限界があります。たとえば、音の高さが高すぎたり、低すぎたり、極端に大きな音にはリミッターがかかったりと、これらの音の限界を理解することに関するものも多くあります。

音の高さによって聴こえ方はバラバラ

耳は音の周波数が20Hz~20kHzの間にある場合にのみ音を認識することができ、これらの周波数のそれぞれに対する感度は、音の高さによってバラバラです。

このことは等ラウンドネス曲線の通り、実際には低音域よりも中高音域の方がはるかに敏感であることがわかります。

等ラウドネス曲線

グラフを見て分かるように、2~4kHzの人の耳が感知しやすい音圧レベルを80Hz以下の低音で再現するには3~5倍のエネルギーが必要になり、音量が大きくなるにつれ、この差は縮まります。

2~4kHzは黒板を引っかく音や猿が「キキーッ!」と危険を知らせるときに発する音域だと言われており、人間が最も認知しやすい音域です。また、音量が大きいクラブやライブハウスのような会場では、普段よりも低音がズンズン響いて感じるのも、音圧レベルが高いほど周波数による音量差が少なくなる為です。


このことはオーディオミキシングやサウンドシステムの調整においては非常に重要な要素であり、スピーカーやヘッドフォンの設計など、様々な分野で活用されています。

バランスよく周波数帯域を意識してミックスすること自体は悪くないですが、このラウドネス曲線を意識していないと、実際に耳で聴いた時と自分の想定していた音とのギャップが大きくなります。

また、音質をそこまで変化させずにMP3やAACのようなファイルサイズの小さいデータを作成するのにも役立ち、これは非可逆圧縮と呼ばれるプロセスで元のデータの認知されにくい周波数帯域の多くが削除されている為です。

マスキング効果

マスキング効果

マスキング効果とは、音が重なり合うことでそれぞれが相殺しあったり、大きい音が他の音を邪魔して聞こえなくなる現象のことです。

実際には音が速すぎる、周波数が近すぎる、または大きなノイズが柔らかいものをかき消すなど色々な事象が含まれますが、ミキシングやファイル圧縮の際に考慮すべき要因の一つです。

EQ(イコライザー)を使って不要な音をカットしよう

例えばベースとギターの低音がマスキングを起こし、両方の音像をぼやけさせてしまったり、ギターが大き過ぎてボーカルが引っ込んで聴こえるというのもマスキングの一種です。


また、マスキングにより聴こえない部分を圧縮することで、サウンドはほぼそのままで、ファイルのサイズは元の10分の1くらいにまで小さくすることが可能です。

音のずれを利用したハース効果

ハース効果

ハース効果とは簡単にいうと2つの音を1つの音として認識する人間の持つ錯覚現象です。

実際には2つの音が鳴っていても、40ms(100分の4秒)以内のほんの少しの音のズレの場合、人は一つの音だと認識し、初めに耳に届いた音の方角から鳴っているように感じます。

モノラル
ハース効果


ハース効果を使った方は左右で二つの音が鳴っているのですが、ほとんどの人は「左右に広がった一つの音」として認識するはずです。

音楽をやっている人やエンジニアなら右側から始まる2つの音として認識できるかもしれませんが、それはハース効果を知っているからであって、普通の人だと40ms以下のディレイを認識するのは非常に難しいです。

こういった錯覚を使った効果はミキシングテクニックとしてよく使われるので、覚えておくと役に立ちます。

ピッチのずれを利用した音の広がり

デチューン

複数の音のそれぞれの音程を微妙にずらすことで、音にうねりを発生させることで広がりを持たせることができます。

大きくずれた音程は簡単に知覚できますが、ほんの数セントずれているだけでは、音は一つしか鳴っていないように錯覚します。

これはダブリング効果やシンセサイザーのデチューン等で見られる現象で、左右に広げた波形を微妙にずらすことで壮大なサウンドを入手できます。

音程が揃ったノコギリ波
音程をズラしたノコギリ波

ステレオ音像を大きく広げる為のミキシングテクニック


大きい音の前後の音は小さくなる

ドラムトラックようなトランジェント成分が多い音や楽器のオールインのような突然音量が上がる音の前後の音は小さく聴こえるという現象が起きます。

これはマスキングによる効果と、突発的な大きな音によって耳にリミッターがかかることが原因です。

例えば、パチンコ屋さんやライブ会場のような大きな音が鳴っている空間に入った瞬間は耳を塞ぎたくなるくらい不快ですが、しばらくすると騒音を忘れるくらいに耳が慣れます。


この耳が音に慣れる現象は音量自体もそうですが、特定の周波数を聴き続けることでも起こります。

よくあるのは、ミキシング中は気付かなかったけど、後で聞き返すと耳に刺さるようなギターの高音が出ていた。ということもあるあるです。

正しいミキシングの為にも定期的に耳を休めるか、最終的な音量バランスの確認は別日に行うといった対策が必要になります。

カクテルパーティー効果

カクテルパーティー効果

これは一般的にもよく耳にする現象ですが、人はパーティ会場のようなざわついている場所であっても、名前を呼ばれるとその音を聴き分けることができるという効果のことです。

つまり、複数の音が混ざった状態でも、聴きたい音に集中できる能力を持っているということなので、ミキシングにおいては重要な要素になります。

ミックスでよくマイナス面に働くことが多く、あるトラックの調整を始めるとそのトラックだけが異様に大きく聴こえてしまい、ボリュームを下げていい感じになったと思って、完成した後にミックスを聴くと「全然聴こえない…」と感じる場合ことがあります。

逆に一般的なリスナーのほとんどはボーカルに集中して音楽を聴いています。なので、リズムを強調したい場合や、特定の楽器を強調したいと思った時には、自分が思っているよりもブーストしないとリスナーの意識は楽器に向かないということでもあります。


まとめ

ミックス品質向上の為に学んでおきたい音響心理学についてお話しました。

音響心理学は、コンピュータサイエンスとオーディオエンジニアリングの世界に多くのメリットもたらし、他にも心理学や神経科学などの様々な分野にも影響を与えます。

音楽で言えば、リズム、テンポ、音階、音の質感が私たちに特定の感情を感じさせることがあり、ある人の感情が、他の人にも伝達されることもよくあります。

音が人の気分や脳の活動に影響を与える可能性があるというこの概念は、音楽制作やミキシングにおいても様々な効果を与えてくれるので、色々と試してみてはいかがでしょうか。

以上、「ミックス品質向上の為に学んでおきたい音響心理学」でした。


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