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マスタリング用コンプレッサー:正しく圧縮する為の設定方法について

マスタリング用コンプレッサー:正しく圧縮する為の設定方法について

マスタリングコンプレッサーは、サウンドエンジニアにとって非常に重要度の高いツールの1つです。コンプレッサーは、トラック全体のダイナミックレンジを縮小し、トラックの中で最も大きな音と最も小さな音の差を小さくする役割を持ちます。

正しく圧縮することで、曲全体のエネルギーを維持しながら、曲の各パートを「接着」させることができます。マスタリング時のコンプレッションは、ミキシング時よりも繊細な操作が求められますが、特にマルチバンドコンプレッションやダイナミックコンプレッションの使い方を理解し始めたばかりの頃であれば、やや複雑なプロセスに感じることもあります。

そこで、この記事ではマスタリング・コンプレッサーの仕組みを詳しく解説し、プロのように洗練されたミックスを作成する為の方法についてご紹介します。

コンプレッサーの仕組み

マスタリング時のコンプレッションを理解するには、まずコンプレッサーの仕組みをしっかりと理解しておくことが重要です。先述したように、コンプレッサーとはオーディオ信号のダイナミックレンジを縮小するためのツールです。簡単に言うと、音圧の差を小さくする効果があります。具体的には、トラックのピーク部分を抑え(ゲインリダクション)、ゲインアップして低い部分を持ち上げることで、全体の音量バランスを整えます。

ゲインリダクションによって、コンプレッサーは不要なクリッピング(音割れ)や歪みを防ぎながら、よりスムーズで均一なダイナミックレンジを作り出すことができます。その他にも、音の立ち上がり(トランジェント)を調整する為にも使用されます。

また、コンプレッサーはそれぞれの製品の違いによって、異なる音色や特性を持っているので、音圧を高めるだけでなく、圧縮時のトーンの変化を活かして、サウンドメイクの為のツールとしても活用することができます。

コンプレッサーの各パラメーターの役割

コンプレッサーは、オーディオ信号のダイナミックレンジを操作し、音圧を上げたり、音色を変化させたりするエフェクトです。ここでは、コンプレッサーに共通する主要なパラメーターとその基本的な役割について解説します。

1. アタック

アタックは、コンプレッサーが信号に反応する速さを決定します。具体的には、信号がスレッショルドレベルを超えてから圧縮が始まるまでの時間を設定します。

  • 速いアタック: 音の立ち上がりを素早く圧縮し、ダイナミックレンジを滑らかにします。パンチのあるサウンドになりますが、設定によっては不自然に聞こえることもあります。
  • 遅いアタック: 音の立ち上がりは圧縮せず、その後の持続部分を圧縮します。自然なサウンドを保ちつつ、音圧を上げることができます。

アタックとリリースは相互に影響するため、両方を調整しながら最適な設定を見つけましょう。

2. リリース

リリースは、コンプレッサーが圧縮を解除する速さを決定します。信号がスレッショルドレベルを下回ってから圧縮が解除されるまでの時間を設定します。

  • 速いリリース: 圧縮を素早く解除することで、パンチのあるサウンドになり、音量も上がります。
  • 遅いリリース: 圧縮をゆっくりと解除することで、滑らかなサウンドになりますが、設定によっては音がこもって聞こえることもあります。

リリースもアタックと同様に、両方を調整しながら最適な設定を見つける必要があります。

3. ニー

ニーは、圧縮の開始を滑らかにするか、急激にするかを決定します。

  • ソフトニー: 圧縮が滑らかに始まり、自然なサウンドになります。
  • ハードニー: 圧縮が急激に始まり、効果がはっきりとしたサウンドになります。

ニーの設定は、全体的なミックスバランスや目指すサウンドによって異なります。

4. スレッショルド

スレッショルドは、圧縮が始まる音量レベルを設定します。このレベルを超えた信号が圧縮されます。

  • 高いスレッショルド: 圧縮される信号が少なくなり、全体的な圧縮量は少なくなります。
  • 低いスレッショルド: 圧縮される信号が多くなり、全体的な圧縮量は多くなります。

スレッショルドの設定は、圧縮の強さを決定する上で重要な要素です。

5. レシオ

レシオは、スレッショルドを超えた信号をどれくらい圧縮するかを設定します。

  • 低いレシオ: 圧縮は穏やかで、自然なサウンドになります。
  • 高いレシオ: 圧縮は強力で、効果がはっきりとしたサウンドになります。

通常は低いレシオから始めて、必要に応じて徐々に上げていくのがおすすめです。

6. メイクアップゲイン

メイクアップゲインは、圧縮によって下がった音量を補正するためのゲインコントロールです。圧縮後の音量を元の音量に戻したり、さらに音量を上げたりすることができます。

7. ゲインリダクションメーター

ゲインリダクションメーターは、信号がどれだけ圧縮されているかを表示します。通常はdB単位で表示され、圧縮量を視覚的に確認することができます。

これらのパラメーターを理解し、適切に調整することで、コンプレッサーを効果的に活用することができます。色々な設定を試して、自分の耳で確認しながら、最適なサウンドを見つけてください。

マスタリング時のコンプレッションとは?

すべてのマスタリングトラックにコンプレッサーが必要というわけではありませんが、マスタリング段階でのコンプレッションは、ミックス全体のダイナミックレンジを可能な限り統一することが目標となります。

コンプレッサーを使用することで、トラック全体で一貫したダイナミクスを実現できます。また、マスターフェーダーにコンプレッションをかけることで、個々のトラックを「ならす」ように接着する効果があるので、プロジェクト全体にまとまりとエネルギーを加えることができます。

元のミックスに十分な圧縮が施され、トラックが効果的にまとまっていると感じている場合は、マスタリングでさらに圧縮をかける必要はありません。実際、ミックス過程で何らかの形で圧縮されていることがほとんどなので、圧縮が必要かどうかの判断も重要となります。

コンプレッサーとリミッターの違いは?

マスタリングではリミッターが使用されることも多く、ある意味では超強力なコンプレッサーであるため、マスタリングには常に何らかの形の圧縮が施されていると言えます。

コンプレッサーとリミッターは、どちらも音のダイナミックレンジを圧縮するエフェクトですが、その動作強度が異なります。コンプレッサーは、音の強弱差を滑らかにする効果があり、リミッターは、音量が一定レベルを超えないように制限する効果があります。

リミッターは、レシオを極限まで上げた強力なコンプレッサーと言えます。両者の動作原理は似ていますが、リミッターはコンプレッサーよりもはるかに強力なため、使用する頻度は低くなります。

マスタリング時はどれくらい圧縮すればいい?

コンプレッサーでどれくらい音を圧縮するかは、最終的には求めているサウンドによって大きく変わりますが、目的としては、元の音のエネルギーをなるべく保ちつつ、曲全体の音量レベルを一定にすることです。 また、圧縮による倍音を加えて音に厚みを出したりする効果も期待できます。

マスタリング時の圧縮は、目安として1〜2dB程度の少なめのゲインリダクションで、1.5:1程度の低いレシオ値で使用するようにすることをおすすめします。すでミックスの段階で圧縮が加えられていることもあるので、さらに圧縮すると音が平坦でのべっとした印象を受けることがあります。

スレッショルド、レシオ、アタック、リリースなどの設定を調整しながら、音質変化を抑えた最適な音量バランスを見つけることが重要です。

マスタリングでよく使用されるコンプレッサーの種類

圧縮には様々な種類があり、それぞれに特有の用途があります。ミックスに組み込むことを検討すべき主なコンプレッサーの種類は以下の通りです。

マルチバンドコンプレッサー

マルチバンドコンプレッサーは、周波数ごとに特定の範囲を圧縮できるため、最も優れたコンプレッサータイプの1つです。マスターセクションにコンプレッサーを配置する場合、マルチバンドコンプレッサーを使用することで、不要な圧縮を避けることができ、トラック全体の一貫性を保ちながら圧縮するのに有利に働きます。

ミッドサイドコンプレッサー

一般的なコンプレッサーはトラックのステレオイメージ全体に影響を与えるのに対し、ミッドサイドコンプレッサーは、センターとサイド部分のそれぞれに圧縮が必要な場合に最適です。ミッドサイドコンプレッションでは、トラックのモノラルとステレオ成分をより細かくコントロールすることができますが、このタイプの圧縮は、主に特定のクリエイティブ効果を狙って使用されるため、より慎重な操作が求められます。

パラレルコンプレッション

パラレルコンプレッションは、別名「ニューヨーク」コンプレッションとも呼ばれ、エンジニアがトラックの未処理または軽く圧縮したバージョンと、高度に処理したバージョンのトラックをブレンドする手法です。これにより、元のトラックのエネルギーを維持しながら、処理された信号から洗練されたダイナミックな一貫性が生まれるという、ユニークなバランスが生まれます。

サイドチェインコンプレッション

サイドチェインコンプレッションは特定のトラックの動きに反応して圧縮することができます。このタイプの圧縮は、特に周波数スペクトルの低中音域の領域で役に立ちます。この領域は濁りの原因になりやすいのですが、正しくサイドチェインコンプレッションをかけることで、常に低域をクリーンに保つことができます。例えば、ベースをキックドラムにサイドチェインすると、キックが鳴るたびにベースを圧縮することができます。

まとめ

マスタリング時のコンプレッサーは、ミックスで整えたバランスを保ちつつ、ダイナミックレンジを整えて、楽曲にまとまりを与えるための強力なツールとして使用できます。しかし、その効果を最大限に引き出すには、コンプレッサーの仕組みと各パラメーターの役割を理解し、適切な設定を行う必要があります。

今回は、コンプレッサーの基本的な動作原理から、マスタリング時の具体的な使用方法、そして様々なコンプレッサーの種類までを解説しました。重要なのは、常に耳で確認しながら、楽曲にとって最適な圧縮量と設定を見つけることです。過度な圧縮は、ダイナミクスを損ない、音楽の生命力を奪ってしまう可能性があるので注意しましょう。

以上、「マスタリング用コンプレッサー:正しく圧縮する為の設定方法について」でした。


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