ヘッドルームとは?ミックスマスタリングの音量を正しく設定する
ミキシングにおけるヘッドルームの概念は、オーディオエンジニアリング分野の基本的な要素の1つであり、つい見過ごされがちな概念です。
ミキシングの適切な音量設定について調べていると、よく「マスタリングのために6 dBのヘッドルームを残してください」のようなことを目にすることがあると思いますが、それはなぜなのか?
そこで今回はヘッドルームの理解と、マスター音源の正しい音量設定についてご紹介します。
ヘッドルームとは?
ヘッドルームは簡単にいうと、音声信号がクリッピングし始めるまでの安全に使用可能な余白エリアとして定義されます。
クリッピングはオーディオシステムが変化し始めるレベルです。このポイントを超えてオーディオのレベルを上げようとすると、歪みが発生します。
限界点はデジタルオーディオシステムでは0dBFSであり、これを超えるとクリッピングが発生するので、通常は最終段階でリミッターを使い、超えないように設定します。
実機のアナログオーディオ機器では、デバイスが動作するように設計されている平均信号レベルとして定義されており、業務用のデバイスの場合、 + 4dBuに設定されていることがほとんどです。
とはいえ、純粋なデジタル環境を使用すている場合にこの概念はあまり意味がありませんが、デジタルとアナログ、アナログをデジタル変換するオーディオインターフェイスについて考えると、ある程度考慮する必要があり、プロフェッショナルオーディオインターフェイスは、アナログ側の+ 4dBuがデジタル側では-20〜-14dBFSになるように設計されています。
これらの概念はヘッドルームの定義に繋がっており、例えばシステムの信号レベルが-20 dBFS(+4 dBu)で、クリッピングポイントが0 dBFS(+24 dBu)の場合、クリッピングポイントは20dBになるので、ヘッドルームは20dBであると言えます。
ミキシングとヘッドルーム
次に、ここまでのヘッドルームの概念がミキシングにどのように関係するかです。
「ミックスでは6dBのヘッドルームを残してください 」と言われる理由については、信号のピークレベルがクリッピングポイント(0 dBFS)ギリギリに設定している場合は、あとから修正する余白が少なくなってしまうことを意味します。
例えば、レベルを微調整したい時や、特定の楽器や周波数帯域をブーストしたりする場面で、クリッピングポイントを超える可能性が高くなります。
これはマスターフェーダーや個々のフェーダーを下げれば解決する話ではありますが、現代の音楽制作では音量のオートメーションやバストラックにコンプレッションをかけていたりと、より複雑な音量コントロールを行っていることがほとんどなので、単純にマスターフェーダーを下げるだけでは不具合が出ることもあります。
ミキシング中はヘッドルームしっかりと確保しておくことで、クリッピングを心配することなく編集作業に打ち込むことができます。
マスター段階でのヘッドルーム
マスタリング段階で行われる処理は、ピークレベルを変更してしまう作業が多くあります。
EQを使ったブーストや、コンプレッサーでトランジェントを強化したり、メイクアップゲインが使用されている場合、ピークレベルがさらに増加する可能性があります。
→マスタリングのやり方と基礎知識
なので、マスタリングを始める段階でも、余裕を持ってヘッドルームを確保しておくことで、編集中にクリッピングエリアに入る可能性を無くしておきます。
書き出しの際に注意すること
最終的な書き出しの段階でもヘッドルームを1〜2dB未満に減らすことが一般的ですが、これはマスター音源がMP3、AAC等の圧縮されたデータで書き出す場合に曲がオーディオに変換されたときに発生するピークを回避する為です。
→トゥルーピーク値とは?その意味と設定方法
コーデックが関係する場所で使用する場合は、リミッターの上限を約1dBのヘッドルームを残すように設定することをおすすめします。
最近では多くのストリーミングサービスがロスレスおよび高解像度のストリームを提供していまが、配信で不要なノイズを回避する場合、-0.1~0.3dB程度のヘッドルームを残しておくと確実です。
まとめ
ヘッドルームを確保する目的は非常にシンプルで、音声信号を変化させずに編集する為に余白をつけることです。
ヘッドルームを設定することで、ミキシング作業中に創造的な自由を確保しながら、ミックスレベルを適切に設定するのにも役立ちます。
しっかりと余白を作ることで「ブーストしたいけど、これ以上音量を上げるとクリッピングしてしまう…」といった創造性に制限をかけながら作業を行うことが無いようにしましょう。
以上、「ヘッドルームとは?ミックスマスタリングの音量を正しく設定する」でした。