意外と知らない「真空管アンプ」の歴史とその仕組みについて
エレキギターを弾く人なら、必ず使ったことがあるであろう真空管式のアンプ。リハーサルスタジオやライブハウスで必ず設置されていることもあり、ギタリストにとってはすごく身近な存在です。でもこの真空管、今ではギターアンプや一部のオーディオ機器ぐらいでしか使われておらず、世の中では淘汰されたものだってご存知ですか?
つまり、技術が進歩した現在において、ギタリストだけが真空管を使用しているといった状況なのです。これだけ聞くと時代遅れなの?と思ってしまいがちですが、デジタル技術がどれだけ進歩しようと、真空管サウンドには魅力的な「何か」があることは間違いありません。
その何かとは何なのか?そもそも、真空管とはどういったものなのか?そんなギタリストが大半ではないでしょうか。そこで今回は真空管についての基礎的な知識や、知って得する情報をご紹介します。
真空管の開発
真空管は、高度な電子回路を構築するために欠かせない整流、検波、発振、そして増幅といった機能を持つ電子部品です。20世紀初頭に実用化されてから、1950年代頃に後発の素子に取って代わられるまでの約半世紀の間、人類の科学技術、特に電子工学の発展に大きく貢献しました。
真空管の誕生は、アメリカの発明王トーマス・エジソンが深く関わっています。エジソンは白熱電球の研究中に、真空のガラス管内で加熱された電極と少し離れた電極の間に電流が生じる現象を発見し、1883年に発表しました。エジソン自身はこの現象の理由を説明できませんでしたが、1902年にイギリスのオーウェン・リチャードソンが原理を解明し、「熱電子放出」と名付けました。1904年、この理論に基づき、イギリスの科学者ジョン・フレミングが史上初の真空管である二極管を発明しました。彼の二極管は、整流と検波の機能を実現していました。
真空管の進化
二極管の発明からわずか数年後の1906~07年には、米国のリー・ド・フォレストによって三極管が発明されました。これは、当時の真空管の技術開発競争がいかに激しかったかを示しています。三極管は、陰極と陽極の間に格子と呼ばれる電極を追加することで、発振と増幅の両方の機能を実現し、真空管は電子部品として完成形に近づきました。
1910年代以降、真空管は主に作動効率や安定性の向上を目指して進化していきます。1920年代後半には、ドイツのヴァルター・ショットキーが遮蔽格子四極管を開発し、同時期に四極管の弱点を補う五極管も実用化されました。これらの多極管は、グリッド電極の数を増やすことで、従来よりも増幅率を高めていました。今日でもギターアンプのパワー回路によく使われる6L6、6V6、EL34、EL84などのモデルは、複数のグリッドとビーム形成電極を持つ五極管です。
トランジスタの出現
真空管は発明から約30年の間に進化を続け、電子工学の発展を支え、20世紀前半に黄金期を迎えました。しかし、1940年代後半にトランジスタが発明され、1950年代に普及すると、主流の座を奪われていきます。1970年代後半から80年代前半にかけて、多くの国で真空管の生産が終了しましたが、ギターアンプやブラウン管、マグネトロンなど、真空管の技術を応用した製品は現在も使われています。
真空管の外観も時代とともに大きく変化しました。初期の真空管は白熱電球のような形をしていましたが、1920年代以降は、ナス型、ST管、GT管、メタル管など、形状や素材が多様化しました。小型化や複合化も進み、1940年代後半には、1本の管に複数の素子を封入した双三極管やミニチュア管が登場しました。ギターアンプによく使われる12AX7、12AT7、12AU7なども、このミニチュア管の一種です。
真空管を使ったアンプは、トランジスタアンプとは異なる温かみのある独特な音色が特徴で、1970年代以降もオーディオマニアやギタープレイヤーに根強い人気があります。真空管ファンの数は決して多くはありませんが、それでも真空管の少量生産と流通を支えています。
しかし、真空管の圧倒的な生産量を誇るロシアの情勢が不安定な今、私たちギタリストがいつまで真空管を使い続けられるかは不透明です。
アンプにある3つの真空管
ギターアンプに使われている真空管には整流管、プリ管、真空管の3つがあります。
整流管
整流管(レクチファイア・チューブ)は、交流電源を直流電源に変換する役割を担います。家庭用コンセントから得られる交流電源を、アンプの駆動に必要な直流電源に変換する役割を持っています。プリ管やパワー管とは異なり音声信号が通過する部分ではありませんが、アンプの音色に影響を与えます。
現在では、コストや音の傾向から整流部には「ダイオード」を使用するのが主流となっていますが、Fenderのデラックスリバーブや、VOXのAC30、Mesa/Boogieのレクチファイア・シリーズなど、整流管を用いたアンプも数多く存在します。
音声信号が通過しないため、“オール・チューブ・アンプ”と謳っていても整流部はダイオードを使用しているモデルも多いです。単純な良し悪しではありませんが、真空管アンプを購入する際は確認すべきポイントの一つです。
プリ管
エレキギターからシールドケーブルを通してアンプに入力された音声信号は、そのままのレベルではスピーカーやパワーアンプを駆動するのに十分なパワーを持ちません。そこで、パワーアンプを駆動させるために必要な信号レベルを作り出すのがプリ管の役割です。
ギターからの微弱な信号を増幅させるのが第一の役割ですが、プリ管は音の歪み具合や明るさなど、アンプのサウンドキャラクターを形成する上で重要な役割を果たします。アンプで音作りをカスタマイズしたい場合は、まずこのプリアンプ部の調整が重要となります。
ギターアンプのプリ管として使われるのは、主に小型のミニチュア管と呼ばれるものです。その中でも「12AX7」と呼ばれるタイプの真空管が最も一般的で、多くのアンプブランドが採用しています。「12AX7」はアメリカでの呼び名で、ヨーロッパでは「ECC83」と呼ばれています。ほかには「12AT7」「12AU7」などが用いられることもあります。
→プリアンプとは?その役割とサウンドに与える影響について
パワー管
パワー管は、スピーカーを駆動するための信号増幅を行ないます。ギターからの信号はまずプリ管で増幅されますが、スピーカーを駆動するにはさらに増幅が必要です。そこで、実際にスタジオやライブで鳴らすようなさらに増幅させる役割を持つのがパワー管です。
FenderやMesa/Boogieなどアメリカのブランドでは6L6系、MarshallやVOXなどイギリスのブランドではEL34系のパワー管が多く使用されています。一般的にイメージされるアメリカン/ブリティッシュのサウンド・キャラクターの違いは、このパワー管の違いによる影響も大きいと言われています。
パワー管を交換することで出音を変化させることができますが、バイアス調整が必要なアンプも多く、専門知識がないと危険なため、ショップに依頼することをおすすめします。
真空管がギタリストに人気な理由
これまで真空管ギターアンプは、多くのギタリストを魅了してきました。その理由は、真空管特有の「歪み成分」にあります。この歪み成分には、耳に心地よいと感じる「偶数次倍音」が多く含まれており、これが真空管ギターサウンドの魅力の源泉と言われています。この倍音成分は、ドライブさせた時の歪んだ音だけでなく、クリーントーンでも同じように得られます。
真空管ギターアンプの場合、初めにプリ部でギターからの信号を増幅しますが、真空管で増幅することで多くの偶数次倍音成分が含まれた状態になります。この信号をパワー部に送り電力増幅を行ないますが、パワー部でも、さらに真空管による歪みと偶数次倍音成分が加わります。プリ部とパワー部で生まれる豊かな倍音成分が、心地良い真空管サウンドを生み出す重要な役割を担っています。
まとめ
真空管アンプは、整流管、プリ管、パワー管の3つの主要な真空管で構成されており、それぞれが重要な役割を担っています。整流管は交流電源を直流電源に変換し、プリ管はギターからの微弱な信号を増幅し音色を形成し、パワー管はスピーカーを駆動するのに十分なパワーまで信号を増幅します。
仕組みとしては古典的なものですが、その長い歴史の中で進化と発見を遂げ、真空管特有の温かみのある音色は今もギタリストにとっては欠かせない存在となっています。
以上、「意外と知らない「真空管アンプ」の歴史とその仕組みについて」でした。
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