リミッターとは何か?リミッターが持つ特性とサウンドキャラクターを把握する方法について【DTM】
マスタリング時やミックス時の音圧の向上に欠かせないのがリミッタープラグインです。
今ではポップスからダンスミュージックまで、音楽制作においては必須ツールの一つとなっています。しかし、その一方でリミッターのかけすぎにより音が歪んでしまったり、たくさんある中から「どの製品を選ぶべきか分からない…」といった方も多いでしょう。
今回の記事では、リミッターの仕組みやサウンドキャラクターを把握する方法について解説します。
リミッターの定義
現在はリミッターといえば「これ以上音が飛び出ないように制御するもの」という共通認識がありますが、昔はダイナミクス系のエフェクトにはリミッターやコンプレッサーなど、さまざまな呼び名が存在しました。
アナログ時代(90年代以前)の感覚では、レシオ20:1以上で圧縮するものはリミッティングとされ、それよりも低い4:1の比率であればコンプレッションとされることが一般的でした。
一口に「リミッター」と言っても世代によっては、そのイメージが微妙に異なることがあります。今では「リミッター」と呼ぶときには、デジタルの"ブリックウォールリミッター"のことを指し、これは一定のレベル以上の音を絶対に出力しないプラグインやツールのことを指します。
※ちなみにブリックウォールとは「レンガの壁」を意味し、叩いたり蹴ったりしてもびくともしないというニュアンスが含まれています。
ブリックウォールリミッター
音を完全に遮断することができる「ブリックウォールリミッター」は、1995年頃に発売された「Waves L1」プラグインが最初とされています。
L1では、Out Ceilingと呼ばれるパラメーターを使用して、最大出力レベルを設定し、その値を超えるレベルは出力されない仕組みとなっています。このような一定のレベルで音を制御するプロセッサーは、L1以前には存在しておらず、L1を皮切りに各社が一斉にリリースされました。
音を制御するという意味で言えば、AD/DAコンバーターが処理可能な範囲を超えるレベルは出力されませんでしたが、問題は入力されたプロセッサーが単にそれ以上のレベルを出力できなくなるだけで、適切なレベルで使われていない場合は、レベルを制御するのではなく歪んでしまうという状態になります。
リミッターは、なるべく原音を損なわずにCeilingの値以上を抑え込むことを目的としたツールです。
リミッティングとクリッピングの違い
クリッピングとは、波形がピークの境界を超えたときに、急激にカットされるような形になってしまいます。この現象により、波形の大きな部分が極端に抑制され、歪みが生じます。クリッピングは通常、意図的には行われない場合がほとんどで、予期せぬ歪みやノイズが発生することとなります。
では、リミッティングとクリッピングの違いについて詳しく見てみましょう。リミッターと単なるデジタルクリップを比較すると、結論から言えることは、リミッティングの際にも歪みが生じるが、その違いは入力信号をどのような速度で0dBに到達させているかにあります。
ブリックウォールリミッターは、入力信号を先読みすることで、スレッショルドを超えた瞬間に波形を少しさかのぼり、滑らかに0デシベルに届くように処理します。
この処理によって、クリップピングの際に生じる明るくて耳につきやすい倍音やノイズではなく、なるべく目立たない倍音成分になるように処理されます。スレッショルドを超えた瞬間から波形を変え始めるタイミングをコントロールしたり、その変化の時間を入力信号の周波数特性に応じて変更するなどがあります。
この仕組みの違いから、プラグインごとに異なるキャラクターが存在します。例えば、入力信号のレベル変化をできるだけ目立たせないようにするものや、入力信号のアタックをなるべく活かすようにするもの等、リミッター製品ごとの違いが、色々なサウンドキャラクターを形成します。
リミッターごとのキャラクターを見極める方法
リミッターごとの違いを見極める為におすすめな方法は、そのリミッターを最も深くかけて音の傾向を確認することです。例えば、L1の場合であればスレッショルドを限界まで下げてクリッピング状態にします。圧縮され歪んだ音になり、ミックスのバランスも大きく崩れますが、そのリミッターの特徴を把握するために試してみる価値はあります。
少しずつ効果を強めていくと、全くリミッティングがかかっていない音から徐々に極限の音に近づいていくわけです。このプロセスでリミッターがどのように歪みだすのかが分かり、歪みのキャラクターも明確になります。
こうすることで、プラグインによるキャラクターやリミッティングアルゴリズムの違いを聴き分けやすくなります。さらに詳しく知りたい場合には、一度プラグイン内のパラメーター設定を極端なものにしてみて、どのような変化が出るのかを確認してみましょう。
音量の変化に注意
スレッショルドを限界まで下げた状態だと出力音量が非常に大きくなるため、正しい音の判断が出来なくなる可能性があります。モニタースピーカーのボリュームやミキサーのマスターフェーダーでコントロールしながら、音量感が同じになるように調節しましょう。
キャラクターを知れば「どれくらいかければいいのか?」が分かる
リミッターをどの程度かけるべきか?というのは、自分の理想とするミックスバランスが崩れないポイントを見つけることに繋がります。例えば、レベルが大きくなりやすいボーカルトラックやキックのアタック部分がリミッターによってどのくらい影響を受けているのか、そして、その影響がどこまでなら許容範囲なのかを判断することが重要です。
極限までリミッティングした時の歪み感やキャラクターを知っておくことで、実際に耳で聴いたときにどのポイントに注意して判断すれば良いかが分かるようになり、どの程度の歪みであれば良い音に繋がるのか、またどのレベル以上のゲインリダクションは避けるべきなのかが分かるようになります。
ただし、このことで分かるのは、極限まで突っ込んでみたことで変化するポイントだけに過ぎません。他にもアタックタイムやリリースタイム等、各パラメーターによって全く違う印象になるので、別のアプローチを試してみることも重要です。
まとめ
リミッタープラグインは、現在ではマスタリングやミックスで音圧を向上させる不可欠なツールとなっています。リミッターの定義は時代や世代によって微妙に異なり、現代では"ブリックウォールリミッター"が主流です。
リミッターの特性やキャラクターを理解するためには、スレッショルドを下げて極限状態までリミッティングすることで、プラグインごとの挙動を確認することができます。
特性やキャラクターを知ることで、どれくらいリミッターをかけるべきかを自分の理想のミックスバランスから判断する手助けとなります。
以上、「リミッターとは何か?リミッターが持つ特性とサウンドキャラクターを把握する方法について【DTM】」でした。