
【DTM】ドラムにコンプレッサーをかける方法:定番から応用まで5つの圧縮テクニック
ドラムトラックは楽曲の心臓部であり、そのサウンドクオリティは楽曲全体の印象を大きく左右します。パワフルで安定したドラムサウンドを構築するために欠かせないのが、コンプレッサーによる処理です。
特にドラムのような瞬間的なエネルギー(トランジェント)が大きい楽器には、コンプレッサーを使って正しく圧縮することで、トランジェント(音の立ち上がり)の強調や抑制、ダイナミクス(音の強弱)のコントロール、そしてグルーヴ感の向上が可能になります。
そこで今回は、ドラムトラックにコンプレッサーをかける基本的な3つの方法に加え、よりプロフェッショナルなサウンドを目指すための応用テクニックもご紹介します。
アタックとリリースを理解する
まずはコンプレッサーエフェクトにおける、アタックとリリースのパラメーターの役割と、それらがサウンドに与える影響について詳しく見ていきます。この2つのパラメーターを制する者が、ドラムのコンプレッションを制すると言っても過言ではありません。
各パラメーターについて簡単に説明すると
- アタック(Attack)
設定した音量(スレッショルド)を超えた信号に対して、コンプレッサーが圧縮を開始し、完全に圧縮しきるまでにかかる時間です。 - リリース(Release)
信号の音量がスレッショルドを下回った後、圧縮された状態から元の状態に戻るまでにかかる時間です。
これら2つのパラメーターを正しく操作することで、ドラムのアタック感を強調したり、逆に抑えて馴染ませたり、余韻の長さをコントロールするなど、サウンドを自由自在に操ることができます。
では、それぞれの役割についてより深く見ていきましょう。
アタックについて
繰り返しになりますが、コンプレッサーのアタックコントロールは圧縮されるまでの時間を調節するパラメーターです。この設定次第で、ドラムの最も重要な要素であるアタック部分のキャラクターが大きく変わります。
アタックの調節はコンプレッサーのパラメーターの中でも非常に重要で、使いこなすことで、トランジェントと呼ばれる音の立ち上がり部分を細かく加工することが可能になります。
例えば、キックドラムやスネアのような瞬発的なエネルギーを持つ楽器にコンプレッサーをかける場合、最も重要なアタック部分を潰さずに、モコっとした胴鳴り部分のみを潰すといったような使い方もできます。これにより、音の芯は残りつつ、余分な響きを抑えたタイトなサウンドが生まれます。

また、人が演奏するような音の強弱にバラつきのある音源は、アタックを潰してダイナミクスを均一になるようにすることで、トラック全体に馴染ませる効果が期待できます。

リリースについて
リリースは、圧縮された音がもとに戻るまでの時間を調節するパラメーターです。リリースはドラムの余韻(サスティーン)やグルーヴ感をコントロールする上で非常に重要です。
サウンドのリリース部分の調整や、次の音のアタックにコンプレッションが被らないようにリリースタイムを調節することが重要です。もしリリースタイムが長すぎると、次のドラムヒットが来た時にもまだコンプレッサーが効いたままになり、意図せずアタックが潰れてしまう「音の息継ぎができない」ような不自然なサウンドになってしまいます。


アタック同様にリリースタイムを調整することで、トランジェントコントロールすることが可能です。
逆にリリースを楽曲のテンポに合わせて設定すると、コンプレッサーの動作自体がグルーヴを生み出すことがあります。これは「ポンピング」と呼ばれる現象で、意図的に使うことでダンスミュージックなどでリズミカルな効果を生み出せます。
リリースタイムの設定を間違えると、余分にコンプレッションがかかり、抑揚の無いダイナミクスを失ったサウンドになってしまうため、注意深く調整しましょう。
キャラクターを左右する!3つの基本圧縮パターン
ここからは、アタックとリリースを使った3つの異なる圧縮パターンを適用します。
例としてキックドラムを使って、アタックとリリースパラメーターがどのようにサウンド形成に影響するのかを見ていきます。

1. 速いアタック&速いリリース:タイトで現代的なサウンド
速いアタック(〜10ms程度)を使用すると、コンプレッサーは音の立ち上がりにすばやく反応し、ゲインを素早く下げることができます。さらに、リリースタイムを速く(〜50ms程度)設定することで、圧縮が素早くリセットされるため、ドラムヒットのテール部分に影響しません。
これにより、全体的にドラムのトランジエントを抑えることができ、トラック全体の不要なピークを減らすことができます。EDMやメタル、現代的なポップスなど、タイトでコントロールされたサウンドが求められるジャンルで特に有効です。ただし、やりすぎるとアタック感が失われ、迫力に欠けるサウンドになるため注意が必要です。

2. 速いアタック&遅いリリース:サスティーンをコントロール
非常にパンチの効いたテールの短いキック、またはパンチが少なくテールの長いキックの場合には、速いアタックと遅いリリース(100ms〜)の組み合わせが上手く機能します。
速いアタックでトランジェントを素早く圧縮して、遅いリリースタイムでテール部分まで圧縮することができます。これによりドラムヒットの全体がより均一に圧縮されることを意味します。このテクニックは、例えばルームマイクのアンビエンスをぐっと持ち上げて、部屋鳴り感を強調したい場合などにも非常に効果的です。

※今回使用しているサンプルでは大きな違いは見られませんが、胴鳴りの長いキックや、サスティーン成分の多いスネアだと違いがよく分かるかと思います。スネアの「ジャ〜」という余韻を伸ばしたり、逆にタイトにしたい場合に試してみてください。
3. 遅いアタック&遅いリリース:パンチと存在感を強調
遅いアタック(20ms〜)と遅いリリースの組み合わせは、ドラムヒットにパンチを加えたい場合に最適な方法です。
アタックタイムを長くすることで、音の立ち上がり部分(トランジェント)が圧縮を回避できるようになり、その後の胴鳴り部分から圧縮が始まります。リリースタイムを遅くすることで、ドラムのテール部分が最後まで圧縮されたままになります。
その結果、トランジェントサウンドが相対的に大きくなり、サステインが抑えられたサウンドになる為、瞬間的なエネルギーの強いパンチのあるドラムサウンドを得ることができます。ファンク、ロック、ヒップホップなど、スネアの「バシッ!」というアタックを強調したい時には定番のテクニックです。

【応用編】さらに進んだドラムコンプレッション
ここまでは個別のドラムトラックに対する基本的なコンプレッションを見てきました。ここからは、ドラムサウンド全体をさらにレベルアップさせるための応用テクニックを2つご紹介します。
パラレルコンプレッション(ニューヨークコンプレッション)
パラレルコンプレッションは、原音(ドライ)と、強く圧縮した音(ウェット)を混ぜ合わせるテクニックです。これにより、元のサウンドが持つダイナミクスやアタック感を失うことなく、サウンドの芯を太くし、迫力を加えることができます。
やり方:
1. ドラムトラックからセンド(Send)でAUXトラックに信号を送ります。
2. AUXトラックにコンプレッサーを挿入し、速いアタック、速いリリース、高いレシオで、ゲインリダクションメーターが激しく振れるくらい、思い切りサウンドを潰します。
3. 原音のドラムトラックに、この潰したコンプレッションサウンドをフェーダーで少しずつ混ぜていきます。
この手法は、サウンドに厚みと力強さが欲しいけれど、コンプレッサーで潰した感じにはしたくない、という場合に最適です。
ドラムバスコンプレッション(グルーコンプ)
キック、スネア、ハイハット、タムなど、個別に処理された複数のドラムトラックを一つにまとめた「ドラムバス(グループ)」にコンプレッサーをかける手法です。これは「グルーコンプ(Glue Compressor)」とも呼ばれ、バラバラに鳴っている各パーツをまとめ上げ、ドラムキット全体としての一体感(グルーヴ)を生み出す効果があります。
設定のコツ:
- アタック:少し遅め(20〜30ms)に設定し、各ドラムのアタック感を潰さないようにします。
- リリース:楽曲のテンポやノリに合わせて調整します。オートリリース機能があれば、それを使うのも良いです。
- レシオ:低め(1.5:1 や 2:1)に設定し、自然なコンプレッションを狙います。
- ゲインリダクション:メーターがほんの少し(-1〜-3dB程度)振れるくらいに、優しくかけるのがポイントです。
バスコンプは、個々のサウンドを整えるというよりは、ドラム全体のノリを良くするための「接着剤」のような役割を果たします。
まとめ
ドラムトラックにコンプレッサーをかける5つの異なる圧縮方法についてご紹介しました。
基本的なアタックとリリースの調整から、パラレルコンプレッションやバスコンプレッションといった応用テクニックまで、それぞれのパラメーターを正しく設定することで、効果的なドラムサウンドを作り出すことが可能です。 ドラムトラックを効果的に圧縮するためには、コンプレッサーの効果を正しく理解し、使いこなすことが、とても重要なポイントとなります。
何よりも大切なのは、自分の耳でサウンドの変化を聴き、判断することです。コンプレッサーをON/OFFした際に音量差が出ないようメイクアップゲインで調整し、純粋な音質の変化を比較しながら試行錯誤を繰り返すことで、必ず理想のサウンドに近づけるはずです。
その他、生ドラムを録音する場合は、録音時のマイクの選択や、エフェクターの適用などのテクニックも重要な要素となるので、様々な試行錯誤を繰り返しながら、自分好みのドラムサウンドを作り出してみてください。
以上、「ドラムトラックにコンプレッサーをかける方法:定番から応用まで5つの圧縮テクニック」でした。