
音楽制作におけるミックスとは?DTM初心者の為の7つの基本手順
音楽制作は、作曲、編曲、そしてミックス、マスタリングという流れで進んでいきます。特に「ミックス」は、現代の音楽制作に欠かせない重要な工程です。しかし、DTMを始めたばかりの方にとっては、「ミックスって具体的に何をするの?」「なんだか難しそう…」と感じることも多いのではないでしょうか。
ご安心ください。ミックスは、一つひとつの手順を理解すれば、誰でも挑戦できるクリエイティブで楽しい作業です。この記事では、音楽制作におけるミックスの役割と、その基本的な7つの手順を、初心者の方にも分かりやすくご紹介します。
そもそもミックスとは?
音楽制作におけるミキシングとは、ボーカル、ギター、ドラム、シンセサイザーといった別々に録音・制作された音(オーディオトラック)を、最終的に一つの曲としてまとめ上げる工程のことです。
よく「料理」に例えられます。それぞれの楽器の音が「食材」だとすれば、ミックスはそれらの食材を使って、味付けをしたり、火加減を調整したり、美しく盛り付けたりして、最高の一皿に仕上げる「調理」の工程そのものです。
このミックスという調理作業を通して、各楽器の音量や音質のバランスを整え、まとまりのあるプロフェッショナルなサウンドを作り上げていきます。
ミックスの重要性

ミックスによって、最終的な音源のクオリティは驚くほど変わります。せっかく良いメロディーと演奏ができても、ただ音を混ぜ合わせただけでは、「なんだか音がごちゃごちゃして聞こえる」「ボーカルが楽器に埋もれてしまって何を歌っているか分からない」といった、まとまりのないサウンドになりがちです。
そこでミキシングエンジニアの出番です。エンジニアは、各トラックの音量、音質、そして音の配置(定位)を巧みにコントロールし、アーティストが表現したい世界観へと楽曲を昇華させていくのです。楽曲の完成度は、元の音源の良さはもちろん、このミックスの腕前に大きく左右されると言っても過言ではありません。
世界には専門の「ミキシングエンジニア」が数多く存在します。有名なアーティストたちは、自分たちの音楽を理想のサウンドにしてくれるお気に入りのエンジニアを見つけ、「この人にしかミックスは任せない!」と絶大な信頼を寄せるアーティストも多いです。
ミックスのやり方【基本的な7つの手順】
ミキシングには、エンジニアごとに様々なテクニックや哲学がありますが、基本となるプロセスは共通しています。ここでは、ミックスで必ず行われる7つの基本的な手順をご紹介します。この流れを意識するだけで、作業がスムーズに進むはずです。
手順1.【下準備】オーディオデータを整理する

まずは、本格的な作業に入る前の「下ごしらえ」です。使用するオーディオデータを整理し、DAW(音楽制作ソフト)のミキサー画面を見やすく整えましょう。
トラック数が多くなると、どれがどの音か分からなくなりがちです。ドラムは赤、ベースは青、ボーカルは黄色のようにトラックに色を付けたり、分かりやすい名前に変更したりするだけで、後の作業効率が劇的にアップします。
ほとんどのDAWでは、このミキサーの状態をテンプレートとして保存できます。自分なりの使いやすい「型」を作っておけば、次回からこのステップを省略でき、すぐにミックスを始められます。
手順2.【音量】バランスを取る

音量のバランス調整は、ミックスの土台となる、最もシンプルで最も重要な作業です。「この曲で一番聴かせたい主役は何か?」を考えながら、各楽器がバランス良く聞こえるように調整します。
難しいエフェクトを使う前に、まずはミキサーの「ボリュームフェーダー」を上下させるだけで、曲の印象は大きく変わります。伴奏のギターが大きすぎてボーカルを邪魔していないか、ベースはしっかりと楽曲を支えられているかなどをチェックし、各パートが他の音をかき消さないように、適切な音量を見つけましょう。
手順3.【定位】パンニングで音を配置する

パンニングとは、音を左右のスピーカー(ステレオ空間)のどこに配置するかを決める作業です。ライブステージを想像してみてください。ボーカルは中央、ギターは少し右、キーボードは少し左、といったように楽器を配置するイメージです。
このパンニングを適切に行うことで、音が左右に広がり、壮大なサウンドステージを作り出せます。また、各楽器の聞こえる位置が分かれることで、音がスッキリと分離し、ごちゃごちゃ感を解消できます。
さらに、オートメーションという機能を使えば、曲の途中で音を左右に動かすなど、ダイナミックな演出も可能です。
手順4.【音質調整】EQとフィルターで音の住み分けをする

EQ(イコライザー)は、音の「周波数」を調整するエフェクトです。簡単に言うと、音を「低い音(低音域)」「真ん中の音(中音域)」「高い音(高音域)」に分けて、それぞれの音量を調整するのがEQの役割です。
例えば、ボーカルとギターの音がぶつかってこもって聞こえる場合、それぞれの楽器で不要な音域を少しカットしてあげることで、お互いの邪魔をしない「音の住み分け」ができます。これにより、ミックス全体がクリアで聞きやすくなります。
EQには様々な種類がありますが、まずは特定の周波数をブースト(強調)したりカット(削減)したりして、各楽器の美味しい部分を引き出し、不要な部分を整理する「音の交通整理」と覚えておきましょう。
手順5.【ダイナミクス】コンプレッサーで音の粒を揃える

コンプレッサーは、音のダイナミックレンジ(最も小さい音と最も大きい音の差)をコントロールするエフェクトです。初心者には少し難しく感じるかもしれませんが、「音量のバラつきを自動で整えてくれる便利な道具」と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、ボーカルのささやくような部分と、力強く歌い上げる部分の音量差が大きすぎると、小さい部分が聞こえにくくなってしまいます。コンプレッサーは、大きすぎる音を自然に抑えることで、全体の音量を安定させ、聞きやすくしてくれます。
音の粒を揃えるだけでなく、アタック感(音の立ち上がり)を強調してパンチのあるサウンドにしたり、EDMでよく使われる「ダッキング」というウネるような効果を生み出したりと、非常に奥が深いエフェクトです。
手順6.【空間演出】空間系エフェクトで雰囲気を出す

音に奥行きや広がり、臨場感を与えるのが空間系エフェクトです。代表的なものにリバーブやディレイがあります。
リバーブはお風呂やトンネルで声が響くような「残響」を加えるエフェクトです。これを使うことで、まるで大きなホールで演奏しているかのような壮大な雰囲気を作ることができます。
ディレイは「やまびこ」のように音を繰り返し鳴らすエフェクトです。カラオケのエコーを想像すると分かりやすいでしょう。これらは楽曲に深みと奥行きを与え、より自然で豊かなサウンドにするために欠かせません。
手順7.【最終仕上げ】マスタリングで完成度を高める

マスタリングは、ミックスが完了した2mix音源(ステレオ音源)に対して行う、音楽制作の最終工程です。ミックスが一つの料理を完成させることだとすれば、マスタリングはコース料理全体の流れを整えたり、お店で提供できる最終的な品質に仕上げたりする作業と言えます。
主な目的は、全体の音質や音圧(音の迫力)を調整し、CDや音楽配信サービスで流通している他のプロの楽曲と並べて聴いても遜色のないレベルに引き上げることです。
最近ではPCやDAWの進化により、ミックスとマスタリングの境界線は曖昧になりつつあり、ミックス作業の中でマスタリングに近い処理を行うエンジニアも増えています。
まとめ
今回は、ミックスの目的と基本的な流れについてご紹介しました。まずは以下の7つの手順を意識してみましょう。
- 【下準備】オーディオデータを整理する
- 【音量】バランスを取る
- 【定位】パンニングで音を配置する
- 【音質調整】EQとフィルターで音の住み分けをする
- 【ダイナミクス】コンプレッサーで音の粒を揃える
- 【空間演出】空間系エフェクトで雰囲気を出す
- 【最終仕上げ】マスタリングで完成度を高める
もちろん、エンジニアによってはさらに独創的な手法を用いることもあります。ご紹介した基本を土台に、色々と実験しながら自分だけのミックス方法を探求するのも、音楽制作の大きな楽しみの一つです。
何よりも大切なのは、テクニックにこだわりすぎず、最終的には自分の耳で「良い」と感じるサウンドを目指すことです。この記事を参考に、ぜひあなたの楽曲を素晴らしい一曲に仕上げてください。
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