レコーディングの正しい音量設定は?余白部分「ヘッドルーム」の重要性について
音楽制作において、楽器レコーディングの際に正しく音量を設定することは非常に重要です。せっかく良い演奏で録音をしても、音量設定が間違っていると、音質が劣化してしまったり、後のミックス段階で編集が難しくなったりします。
特に重要なのが、「ヘッドルーム」と呼ばれる余白部分をどれくらい設けるかです。ミキシングにおけるヘッドルームの概念は、オーディオエンジニアリング分野の基本的な要素の1つであり、つい見過ごされがちな概念です。
そこで今回はヘッドルームの理解と、レコーディング時の正しい音量設定についてお話します。
ゲイン量を設定する
ゲインとは、オーディオ信号の強さや音圧を表すものです。"ボリューム"と混同されがちですが、ゲインは入力信号をコントロールし、ボリュームは出力される電気信号をコントロール役割を持っています。
ゲイン設定を正しく行うことで、「SN比」と呼ばれる信号とノイズの割合を最適化することができます。SN比とは、純粋なSignal(音声)と不要なNoise(ノイズ)の比率を表す指標で、値が大きければ大きいほど、ノイズが少なく純度の高い音源と言えます。
レコーディング時にゲインが低すぎると、音源の信号が雑音に埋もれやすくなり、逆に高すぎると歪みやノイズが発生しやすくなります。適切なゲインを設定することで、クリアでノイズの少ないサウンドを得ることができます。
レコーディングを行う時に、アナログからデジタルへの変換やデジタル処理の段階で、信号がクリッピングしてしまうことがあります。特にボーカルのような音量差が大きくなりやすいトラックでは、適切なゲイン設定を行うことでこのデジタル歪みを防ぐことが可能です。
ゲイン設定を行う時には、ヘッドルーム(余裕のある範囲)を3dB~6dBほど確保するようにしましょう。ヘッドルームを確保していないと、後のミックスの段階でエフェクトをかけたりした際に不要なクリッピングが発生したりするリスクもあります。
ヘッドルームとは?
ヘッドルームとは、簡単にいうと音声信号がクリッピングし始めるまでの安全に使用可能な余白エリアのことです。
クリッピングはオーディオシステムが変化し始めるレベルです。このポイントを超えてオーディオのレベルを上げようとすると、歪みが発生してしまいます。
録音レベルの限界点は、デジタルオーディオシステムでは0dBFSであり、これを超えるとクリッピングが発生するので、通常は最終段階でリミッターを使い、超えないように設定します。
実機のアナログオーディオ機器では、デバイスが動作するように設計されている平均信号レベルとして定義されており、業務用のデバイスの場合、 + 4dBuに設定されていることがほとんどです。
デジタル環境のみで制作している場合にこの概念はあまり意味がありませんが、例えばデジタルとアナログ、アナログをデジタル変換するオーディオインターフェイスについて考えると、ある程度考慮する必要があります。プロフェッショナルなオーディオインターフェイスでは、アナログ側の+4dBuがデジタル側では-20〜-14dBFSになるように設計されています。
ミキシングとヘッドルーム
次に、レコーディング時に確保したヘッドルームが、ミキシング段階でどのように影響するかについてです。
「ミックスでは3~6dBのヘッドルームを残してください 」と言われる理由については、信号のピークレベルがクリッピングポイント(0dBFS)ギリギリに設定している場合は、あとから修正する余白が少なくなってしまうことを意味します。
例えば、レベルを微調整したい時や、複数の楽器をレイヤーしたり、EQでブーストしたりする場面で、クリッピングポイントを超える可能性が高くなります。
これはマスターフェーダーや個々のフェーダーを下げれば解決する話ではありますが、現代の音楽制作では音量のオートメーションやバストラックにコンプレッションをかけていたりと、より複雑な音量コントロールを行っていることも多く、単純にマスターフェーダーを下げるだけでは不具合が出てしまうこともあります。
ミキシング中はヘッドルームしっかりと確保しておくことで、クリッピングを心配することなく編集作業に打ち込むことができます。
マスター段階でのヘッドルーム
マスタリング段階で行われる処理は、ピークレベルを変更してしまう作業が多くあります。例えば、EQを使ったブーストや、コンプレッサーでトランジェントを強化したり、メイクアップゲインが使用されている場合、ピークレベルがさらに増加する可能性があります。
マスタリングのやり方と基礎知識
なので、マスタリングを始める段階でも、余裕を持ってヘッドルームを確保しておくことで、編集中にクリッピングエリアに入る可能性を無くしておきます。
書き出しの際に注意すること
最終的な書き出しの段階でもヘッドルームを1〜2dB未満に減らすことが一般的ですが、これはマスター音源がMP3、AAC等の圧縮されたデータで書き出す場合に曲がオーディオに変換されたときに発生するピークを回避する為です。
トゥルーピーク値とは?その意味と設定方法
コーデックが関係する場所で使用する場合は、リミッターの上限を約1dBのヘッドルームを残すように設定することをおすすめします。
最近では多くのストリーミングサービスがロスレスおよび高解像度のストリームを提供していまが、配信で不要なノイズを回避する場合、-0.1~0.3dB程度のヘッドルームを残しておくと確実です。
まとめ
レコーディング時の音量設定は、音質と編集作業のしやすさに大きく影響します。適切なヘッドルームを確保することで、クリッピングを防ぎ、ノイズの少ないクリアな音源を録ることができます。
ヘッドルームを確保する目的は非常にシンプルで、音声信号を変化させずに編集する為に余白をつけることです。ヘッドルームを設定することで、ミキシング作業中に創造的な自由を確保しながら、ミックスレベルを適切に設定するのにも役立ちます。
以上、「ヘッドルームとは?ミックスマスタリングの音量を正しく設定する」でした。