音圧を上げて迫力あるトラックを入手する為の10のヒント【DTM】
マスタリングの段階でリミッターやマキシマイザーを使ってしっかり圧縮しているのに、プロの楽曲と比べるとなんだか迫力に欠ける……。そういった経験はありませんか?
最終的な音圧はマスタリングの段階で決めるものと考えがちですが、そのほとんどはミキシングの段階で決まってしまうといっても過言ではありません。
マスタリングでの音圧の測り方について【LUFS】でも紹介したように、現在は多くのプラットフォーム上でラウドネスノーマライゼーションがかかるので、ただ単純に音圧を上げることのメリットも少なくなってきましたが、ジャンルによっては音圧の高い圧縮されたサウンドは効果的です。
そこで今回はなるべく原音のサウンドキャラクターを崩さずに、音圧を上げる方法についてご紹介します。
1. EQでバランスを整える
まず初めにやるべきことはEQを使って周波数バランスを整えるということです。
部分的に飛び出したり、不均衡な音は大きく感じることはありませんし、最終的にリミッターで持ち上げる際にも飛び出した部分で頭打ちになってしまいます。
もちろん無理矢理上げることはできますが、飛び出した部分の音が犠牲になってしまうのでおすすめはしません。
制作の段階からボイシングやEQによる楽器同士の住み分けをして、なるべくバランスよく楽器を配置することで、最終的に音質変化を最小限にしながら音圧を上げることが可能になります。
耳の感度が高い2kHz周辺の音を上手く利用して、トラック全体の平均レベルをあまり上げずに、ギターやボーカルをアグレッシブに鳴らすといった方法もあります。
2. 不要な音をカットする
不要な音をカットすることで、メインとなる楽器のためにスペースを確保できるので、音圧を上げることができます。
一般的なリスニング機器ではほとんど再生されることの無い25Hz以下をバッサリカットしたり、シンバル系のような高域で音が鳴っている楽器でも、不要な低音成分が出ているのでこれもカットします。
単体で聴くと問題ないレベルでもいくつかの楽器が重なり合うことで、モコモコしたりミックスがこもってしまう原因にもなるので注意しましょう。
さらに、アンサンブルの場合に楽器同士の住み分けをすることも重要です。
例えばバンドサウンドのような場合にギターの100Hz以下をカットして、低音域はベースにまかせしまうといったような「譲り合い」も音圧を上げる場合には効果的です。
→EQ(イコライザー)を使って不要な音をカットしよう
3. 立体的に配置する
各楽器をステレオ空間の中で上下、左右、前後にバランスよく立体的に配置することで、全体的に音の解像度が増して音圧が上がったように聴こえます。
基本的に音の上下は周波数帯域、音の左右はパンニング、音の前後はボリュームによってコントロールすることができるので、なるべく音が重ならないように上手く配置しましょう。
→ステレオ音像を大きく広げる為のミキシングテクニック
4. ローエンドを制御する
音圧の為にミックス内の一番低いローエンド部分を上手く制御することは非常に重要です。
低音は耳で聴こえる音量感と実際のボリュームレベルのギャップが大きいので、レベルが上がるにつれて最初に問題が発生しやすいトラックの1つです。
そのため、極端に音圧の高い音源を聴くと低音が歪んでしまっているか、反対に低音がスカスカで軽いことが多いです。
この問題を回避するために、ローカットフィルターを使用することでローエンドが制御不能になるのを簡単に防ぐことができますが、最近はボトムエンドもしっかり鳴っている音源が主流なので、カットしてしまうのはあまりおすすめしません。
ローエンド処理の知識を身につけて、ボトムエンド綺麗に鳴らすことで土台がどっしりとした安定感のあるトラックが入手できます。
→ローエンドミックスの為の重要な5つのヒント
5. ダイナミクスを抑える
ダイナミクスは簡単にいうとトラックの一番大きい音と一番小さい音の差のことです。
音圧を上げる為の3つの要素について【DTM】でも紹介しましたが、瞬間的な大きな音が断続して鳴っているよりも、大きな音が持続して鳴っている方が人の耳は音圧が高いと感じることができるので、コンプレッサーを使用してダイナミクスを均一化することが一般的です。
音圧を上げることだけが目的であればパーカッシブなドラムトラックの音量を上げるよりも、ギターやシンセサイザーのようなサスティーンのある楽器を前面に押し出した方が音圧を稼ぐには有利です。
6. マルチバンドコンプを使う
マルチバンドコンプレッサーを使用することで、過度な圧縮によるポンピング(音がうねる現象)を回避しながら全体的な音量レベルを上げることが可能になります。
通常のコンプレッサーは飛び出した周波数から圧縮を始めるので、場合によっては部分的に過度な圧縮になりやすいです。
取り扱いは少し難しいですが、マルチコンプを使って各周波数ごとに均一な比率で圧縮することで、より効率よくダイナミックレンジを抑え込むことができます。
7. トランジェント処理
トランジェントとは音の波形の立ち上がり部分の瞬間的な音のことです。
コンプレッサーで圧縮する際に高いレシオ値であったり、アタックタイムの設定によっては多くのトランジェントが失われる場合があります。
音圧を上げる過程で失われたトランジェントを補強する為に「トランジェントシェイパー」や「トランジェントプロセッサー」と呼ばれるプラグインが必要に応じて使用されます。
コンプレッションの段階で4:1以下の低いレシオ値でアタックタイムを遅め(20ms以上)に設定すれば、トランジェントへの影響は少なくて済むのでおすすめです。
8. サチュレーション
サチュレーション、オーバードライブ、ディストーションといった歪み成分をトラックに加えることで、図太くパンチのあるサウンドになります。
→人気サチュレーション&ディストーションVSTプラグインおすすめ5選
過度な圧縮による音声信号の飽和によって発生するので、ダイナミクスも自然と抑えることができるので、簡単に音圧を上げれる方法として非常におすすめです。
高周波に倍音成分が付加され、高域成分が増えることで音圧があるように聴こえるので、同じように「エンハンサープラグイン」を使って倍音を加えることも効果的です。
→トラックにディストーション(歪み)を加えることで得られる5つのメリット
9. リミッターは段階的にかける
マスタリング時にリミッターを使って圧縮することは音圧を上げる為に効果的ですが、-3dB以上圧縮する場合には、複数回に分けてかけることで音質変化を最小限にすることができます。
リミッターだけでなく通常のコンプレッサー等の様々な圧縮の場面で効果的なテクニックなので、原音のサウンドキャラクターを崩さず音圧を上げる場合におすすめの方法です。
10. マキシマイザー
あえて最後に持ってきましたが、音圧を上げる方法で最も簡単で手っ取り早いのはマキシマイザープラグインを使うことです。
リミッターと同じような動作原理のプラグインですが、より音圧を上げることに特化したツールです。
目的の音圧になるまでスレショルドを下げていくだけの簡単操作で、どんどん音圧が上がっていくので初心者の方にも非常におすすめです。
ただし、やりすぎるともちろんオーディオにとって悪影響を及ぼすので、大体ゲインリダクションが3~6dBの間ぐらいに抑えましょう。
もしこれでも目的の音圧に届かない場合はミックスの段階に戻って、今回紹介した1~9の項目を再度確認することをおすすめします。
→人気リミッター&マキシマイザーVSTプラグインおすすめ5選【DTM】
まとめ
音圧を上げて迫力あるトラックを入手する方法についていくつかご紹介しました。
- EQでバランスを整える
- 不要な音をカットする
- 立体的に配置する
- ローエンドを制御する
- ダイナミクスを抑える
- マルチバンドコンプを使う
- トランジェント処理
- サチュレーション
- リミッターは段階的にかける
- マキシマイザー
冒頭にも述べましたが、ラウンドネス戦争の時代は終わり、極限まで音圧を上げる行為で得られるメリットは少なくなってきています。
特に最近だとマスター段階でほとんど圧縮されていないダイナミックな音源も多く流通しています。
とはいえ、ロックやEDMではまだまだリミッティングされた音圧の高い音源が人気なので、自分のジャンルや音楽スタイルを考慮して音圧を必要かどうかを決めましょう。
以上、「音圧を上げて迫力あるトラックを入手する為の10のヒント【DTM】」でした。