ディレイエフェクトの基礎 | サウンドを強化する為の強力なツール
ディレイエフェクトは音楽制作やミックスで使用されるエフェクトプラグインの中でも最も有名で、かつ使用率の高いエフェクトの一つです。
ディレイが持つエコー効果により、やまびこのような効果や、ダブリングのような効果を付与することが可能になり、音楽に深みと特殊効果を加えることができます。
他のエフェクトと比べて変化が認識しやすく、効果も分かりやすいので、つい色んなトラックに多用してしまいがちですが、ディレイの正しい使い方を間違えると濁りといったトラブルの原因にも繋がる可能性があります。
今回はディレイの基本的な内容について解説し、最も重要なパラメーター、ディレイをより効果的に使いこなす為のいくつかのテクニックをご紹介します。
ディレイとは何か?
Wikipediaによるとディレイとは「入力信号を記憶媒体に記録し、一定期間後に再生する音声信号処理技術」のことと説明されており、つまり基本的にはサウンドを再生し、そのサウンドを特定の回数、長さ、指定された音量で再び再生することです。
ディレイエフェクトは1940年代に開発され、最初はテープループが登場しました。磁気テープの小さな部分をカットして「つなぎ直し」をすることで、サウンドが繰り返し再生されるループを作成します。
現代ではテクノロジーの進歩によって、ほとんどがデジタルディレイとなり、ギターで使用するエフェクトペダルや、DTMで使用するプラグインエフェクトはデジタルが主流です。
しかし、現在でもアナログディレイのサウンドにも根強いファンが多く存在し、デジタルディレイと使い分けるクリエイターも多いです。
アナログディレイとデジタルディレイの違い
ディレイに限らず、実機やそれらをエミュレートしたアナログモデルのソフトウェアを愛用するエンジニアも多く、アナログディレイは、機材や仕組みによるサウンド特性を反映した繰り返しの音声信号を指します。
一方でデジタルディレイは、アナログ信号をバイナリ形式(1と0)に変換したものです。つまりデジタルはアナログの近似信号と考えることができます。
デジタルプラグインで再現されるアナログディレイは元の信号の「純粋な」コピーです。これはテープループを介して再現することができます。60年代、70年代にはテープ以外にも、オイル缶ディレイやソリッドステートディレイなどの他のテクノロジーも人気がありました。
デジタルディレイを使用すると、信号がデジタル形式に変換されます。ユーザーが指定したタイム、フィードバック等のパラメーターに基づいて記録、再生されます。
最新のディレイプラグインの多くはほぼ完全に「デジタル」仕様であり、アナログギアの効果をシミュレートするオプションも搭載されている製品もリリースされています。
ディレイの重要なパラメーター
ここからはディレイエフェクトに搭載されている、重要なパラメーターについて解説します。
ディレイタイム
ディレイエフェクトプラグインの最も重要なパラメーターの「ディレイタイム」ノブは、サウンドが繰り返される周期を決定します。
プロジェクトのBPMに合わせて4分音符、8分音符といった設定方法や、ミリセカンドの細かい単位で時間を指定することも可能です。
フィードバック
「フィードバック」ノブはディレイ音の減衰時間を設定するパラメーターです。製品によっては「レベル」と書かれていることもあります。
最小値では、ディレイ音の回数は1つだけになり、フィードバックを増やすとディレイ音の鳴る回数が増えていきます。
ディレイモード
「モード」または「モデル」と呼ばれるパラメーターは、ディレイエフェクトのステレオ特性を決定します。最も一般的なものは、モノラル、ステレオ、ピンポンです。
- モノラルディレイ
モノラルでは単一のディレイ信号を鳴らします。ディレイ信号をセンター、もしくは左や右にパンニングすることができます。 - ステレオディレイ
左右チャンネルのディレイを個別に制御できます。製品によっては「オフセット」ノブと「ステレオ」ノブを使ってステレオ幅の調整を行うことができます。 - ピンポンディレイ
左と右に行ったり来たりする特殊なディレイ効果を生み出すことができます。
カットオフ
カットオフはディレイ信号の特定の周波数をカットする機能です。
ほとんどの製品ではローパスフィルター、ハイパスフィルター、バンドパスといったEQ形状を選択することができ、数値を指定することで周波数帯域をカットします。
音がいくつも重なることで濁りの原因になりやすいので、一般的には100~200Hzくらいからハイパスフィルターをかけて不要な帯域をカットします。
ドライ/ウェット
ほぼすべてのディレイプラグインではこのドライとウェットノブを使って原音とディレイ音のバランスを調節します。
ドライはエフェクトを通す前の「未処理」状態の信号の音量を調節し、ウェットはエフェクトを通したあとの「処理済み」の信号量を調節します。
ディレイエフェクトを使った基本テクニック
ディレイエフェクトはさまざまな方法で使用することが可能で、アイディア次第で様々な効果を生み出すことができる非常に便利なツールです。
ここからはディレイエフェクトを使った一般的なテクニックをいくつかご紹介します。
1.メロディーのスペースを埋める
やまびこ効果を使って音の隙間を埋めることは、ディレイエフェクトの最も一般的な使用方法です。
音数の少ないリードフレーズに壮大さを追加したり、不要な隙間をディレイエコーを使って埋めることで、楽曲をより鮮やかにします。
2.ボーカルのパラレルディレイ
ボーカルトラックにとってディレイは必須のエフェクトの一つです。
カラオケについている「エコー」と同じような効果を生み出し、ボーカルに奥行きと雰囲気を追加し、バックトラックに馴染ませる効果もあります。
ボーカルトラックにそのままディレイを挿すだけでも効果は大きいですが、パラレル処理を用いることで、さらに効果的にディレイを付与することができます。
- ボーカルトラックとは別の空トラックにディレイを挿して、ボーカルトラックからの信号を流します。
- ディレイ専用のトラックでは「Wet100」に設定します。
- 必要に応じてEQ、コンプ、サイドチェイン等を適用します。
基本的にはサイドチェインによるダッキング効果を使い、ボーカルが鳴っている間はディレイ信号を圧縮するように設定し、ボーカルが鳴りやんだ時にディレイ信号を上げるようにすることで、余計な干渉がなくなりクリアなボーカルトラックに仕上がります。
3.ショートディレイ
ショートディレイはディレイタイムを10~50ms程度に設定する、非常に音と音の間隔が短いディレイのことです。
短い間隔で鳴らすことで、音に厚みが生まれ、金属音的な独特な響きが得ることができます。また、フィードバックを1回だけ返ってくるように設定して、ミックスレベルを大きめに設定することで、2つの楽器で演奏しているかのようなダブリング効果を得ることもできます。
4.ハース効果
ハース効果とはショートディレイを使用して、「2つの音を1つの音として認識する」人間の錯覚を利用した、ミックスをワイドに広げる為の非常に便利なテクニックです。
人は40ms以内の非常に感覚の短い2つの音が鳴っている時、錯覚で一つの音と認識します。これを利用して、左右にPANした同じ音を少しズラすことでステレオ感を演出する方法です。
5.オートディレイ
ディレイエフェクトとオートメーション機能は相性抜群です。
アイディア次第で様々な効果を得ることができるオートディレイ。ディレイとオートメーションの組み合わせて使用されることが多い一般的なテクニックとして、
- Aメロ、Bメロで使用したディレイをサビで切る
- 空白手前の最後の一音だけにディレイをかける
- 原音にディレイ音が被らないように切る
これ以外にも色々な使い方ができるので、ディレイとオートメーションの組み合わせで自分オリジナルのディレイ効果を生み出してみましょう。
まとめ
ディレイエフェクトの基礎的な仕組みと、その使い方についてご紹介しました。
ディレイのエコー結果を使うことで、音楽に深みと感情を加えることができるようになり、アイディア次第で幅広い使い方ができるエフェクトなので、色々と実験してみるのも楽しいです。
慣れてきたらプロの音源を参考にして、より高度な使い方を習得してみましょう。
以上、「ディレイエフェクトの基礎 | サウンドを強化する為の強力なツール」でした。