ボーカルミックスがこもる時の解決方法
ボーカルレコーディングで最高のテイクが録れたと思ったのに、ミックスの段階で他のトラックと混ざるとなんだかこもって聴こえるといった経験はないですか?
濁ったボーカルを正しく処理することは、音楽クリエイターやエンジニアにとって最も一般的な課題の一つです。
そこで今回は問題を修正して、クリアなボーカルトラックを入手する為の5つの解決策についてお話します。
ボーカルがこもる原因は?
解決方法を知る前に、そもそも何故ボーカルトラックがこもってしまうのか?ということを知ることが重要です。
ボーカルの濁りの多くはミックス全体の低音とローミッドの周波数帯域が飽和してしまっている為に起こります。
一般的には100~400Hzの周波数範囲が原因で、ベースやギター、シンセサイザーなど多くの楽器がここに集中してしまうことで、ボーカルにも影響を与えます。
もちろんボーカル単体の場合でもこの辺りに音が蓄積することはありえるので、個々のトラックが原因なのか、トラック同士が干渉しあって起こっているのかを特定する必要があります。
100~400Hz周辺に音が蓄積する原因について。
原因 1 : マイクによる近接効果
マイクの種類とその効果についてでも触れたように、レコーディングの際にボーカリストがマイクに近づきすぎると近接効果が発生する可能性があります。
特にSM58のようなカーディオイドタイプのマイクを使用する場合には近づき過ぎると周波数応答が変化し、低周波数が強調されます。
マイクから一歩離れて、少し距離を開けることで解消することができます。
原因 2 : アレンジによるもの
曲のアレンジや伴奏楽器のコードボイシングよっては一定の周波数帯域に音が密集してしまうことがあります。
特にローミッド部分はすべての楽器が混ざり合う周波数帯域なので、アレンジの段階から低域から高域にかけて綺麗に配置されるように工夫する必要があります。
あとは、コーラスやハモりパート等のいくつかのボーカルが組み合わさった時やリバーブの残響音が重なったときに、低周波数が強調されメインボーカルが濁ってしまう場合もあります。
続いて濁りを解消する為の具体的な方法をご紹介します。
解決方法 1 : EQによるイコライジング
濁ったボーカルを修正する為の最も簡単な方法はEQを使ってカットすることです。
ハイパスフィルターを使用し、問題の周波数以下をごっそりカットする方法と部分的にピーク処理する方法があります。
100Hz以下には環境ノイズが多く含まれていることが多いので、ほとんどの場合ハイパスフィルターですべて取り除いてしまったほうが良い結果が得られやすいです。
100~400Hzはカットしすぎると音の芯と存在感が無くなってしまうので、飛び出した低域を部分的にカットしたり、ボーカリスト自体の声質によっては広いQ幅でまとめて処理することもあります。
→ボーカルEQガイド【プロクオリティの5つのヒント】
解決方法 2 : マルチバンドコンプレッサーで圧縮
マルチバンドコンプレッサーを上手く使うことでEQよりも自然に低域を処理することが可能です。
問題の周波数帯域に絞って適用することで、飛び出した低音にだけ反応して圧縮してくれるので、低音カットによる音痩せを最小限に抑えることができます。
効果範囲を400Hz以下の濁りの原因となる音域に設定して、レンジとスレッショルドのパラメーターで「どれぐらい飛び出した音をどれぐらいカットするか」を決めれば、あとは自動的に反応してゲイン圧縮してくれるという便利ツールです。
似たような機能性をもつプラグインとして「ダイナミックEQ」もよく利用されています。
解決方法 3 : ディエッサーを使う
ボーカルの高音成分が耳に刺さると感じたときにEQでハイカットしていませんか?
生の歌声は音量、音質共に非常に不安定である為、問題が発生する時は部分的であることがほとんどで、EQでカットするとトラック全体の高音が犠牲になってしまいます。
そこで有効なのが「ディエッサー」と呼ばれるツールです。
原理的には先ほど紹介したマルチバンドコンプやダイナミックEQと同じで、ボーカル特有のさしすせその発音時に発生しやすい「歯擦音」に反応してカットしてくれるプラグインです。
ディエッサーを使用することで余計に高音をカットすることが無くなるので、抜けの良いクリアな歌声を保つことができます。
→ボーカルミックスに最適なVSTプラグインソフト 5選
解決方法 4 : 高域をブーストする
基本的には低音域をカットすると高音域が抜けてくるので、あまりEQをブースト目的で使用するのはおすすめしませんが、どうしてもこもった感じが取れない場合に有効な方法です。
高域を追加する方法として主に以下の3つがあります。
1. ハイシェルフでエアー感を追加
ハイシェルフを使用して6kHzから上をまとめてブーストすることで、エアー感が追加されて抜けが良くなります。
声質によってはあまり音が含まれていないこともありますが、試してみる価値はあります。
2. 1.5k~3kHzをブースト
人の耳は構造上、1.5k~3kHzの音が聴き取りやすく一番大きいと感じます。
猿の「キーキー」鳴く声がこの辺りなので、そのなごりだとも言われています。
どうしてもミックスの奥に引っ込んで聴こえる場合は、この辺りの周波数帯域をブーストすることで単純に音量を上げるよりも、より効果的に抜けの良い歌声になります。
3. サチュレーションで歪みを加える
サチュレーションを加えることでボーカルトラックに自然なハーモニクス音を追加することができます。
倍音を追加することでハイエンドを強調し、よりパンチと煌びやかさを与えるのに役立ちます。
まとめ
ボーカルミックスがこもる時の解決方法についてお話しました。
- EQによるイコライジング
- マルチバンドコンプレッサーで圧縮
- ディエッサーを使う
- 高域をブーストする
以上の方法を試すことで、抜けの良いクリアなボーカルトラックが手に入るかと思います。
もしこれでも解決しない場合はレコーディングの段階になにか問題があるか、他のトラックが干渉している可能性が大きいのでチェックしてみてください。
以上、「ボーカルミックスがこもる時の解決方法」でした。