キックとベースを綺麗にミックスする為の6つステップ
キックドラムとベースのミキシングは、音楽制作においてソリッドでパワフルなローエンドを作り出す上で、最も重要な作業の1つです。
この2つの要素をうまく調和させることは、プロフェッショナル品質のミックスを作る上で欠かせない工程の一つとなりますが、キックドラムとベースの完璧なバランスを実現することは、経験豊富なプロデューサーであっても難しいものです。
今回は、キックとベースのお互いの干渉を最小限に抑えて、まとまりのある、パワフルなローエンドを作りだす方法について、いくつかのステップについてご紹介します。
1. キックかベースどちらを配置するか
ローエンドの2080Hz周辺は、キックとベースのどちらにとっても重要な周波数帯域になります。
パンチのあるキックを作りたい場合、重厚感のあるベースサウンドを作りたい場合、どちらにせよミックスの中でスペースを確保する必要があります。
もちろん両方を同じ帯域に同じ量だけ配置することは難しいので、どちらかにスペースを譲る必要があります。キックとベースの両方がこの領域を取り合っている場合は、トラック全体でみたときに厚みのあるローエンドを出すことは困難です。
どちらを配置するのかは、ジャンルや好みによるものが大きいですが、まずはどちらをローエンドに配置するのかを決定する必要があります。
2. マスキングを最小限に
どちらを配置するのかを決定したら、同じ帯域に楽器が重なり合うことでエネルギーを吸収してしまう「マスキング効果」を解消します。
通常はEQのハイパスフィルターを使って処理することが多いですが、その前に適切なサウンドを選択することも忘れないようにしましょう。まずはキックとベースが互いに引き立て合うようなサウンドを選択することで、EQによる処理を最小限に抑えることができます。
例えば、"重厚なベースとビーターアタックが特徴的なキック"のように、出来る限りお互いの干渉が少なくなるようなサウンドを選択しましょう。
3. ピッチを揃える
アナログの頃はそれほど重要視されていませんでしたが、デジタルが主流となった今では、キックドラムにも音程が出るという解釈でミックス処理を施すのが一般的です。
キックのピッチを楽曲のキーや、ベースラインと連携させることができれば、すべてのローエンドが1つにまとまったような感覚になり、非常に強力なローエンドとグルーヴが生まれます。
EDMやヒップホップのような低音主体の音楽ジャンルでは、キックや808ベースのようなローエンド楽器に合わせてキーを決定することもあるくらい、ローエンドを揃えるということは重要視されています。
キックのピッチを変更したくない場合は、キックのディケイを短くして、ベースの発声タイミングを調整して、キックとベースの低音が重ならないようにするという手法もあります。
4. イコライジング処理
サウンドが決まったら、EQを使用して各要素の周波数帯域にスペースを確保します。例えば、キックドラムの低域をブーストし、ベースの低域をカットすることで、お互いを住み分けすることができます。また、ベースの中~高音域をブーストして、ミックスにエッジ感を与えることもできます。
→イコライザー(EQ)を使って不要な音をカットしよう
キックドラムサンプルを使う場合は、毎回安定した音響プロファイルを持っています。人が踏むキックではさまざまなパターンの波形が発生しますが、サンプル音源であれば通常は毎回同じ音程、波形を打ち続けます。
これにより、イコライジングの難易度は極端に下がります。キックの一番盛り上がった周波数帯域を狙ってベースを調整すれば、大体はうまくいきます。
ただ、この方法だとキックが踏まれていない時にも、常にベースのおいしい帯域がカットされていることになるので、少しもったいない感じがします。この問題を解消するテクニックが次の項目の「サイドチェインコンプレッション」です。
5. サイドチェインコンプレッション
サイドチェインコンプレッションとは、キックからのサイドチェイン信号をトリガーとして、ベースにコンプレッションを適用する非常に強力なミキシング手法で、飽和状態のミックス内にスペースを確保することができる必須テクニックです。
キックが鳴った瞬間だけベースの音量を下げることができるので、キックが鳴っていない間はベースをフルに鳴らすことができるようになります。
細かい手順は使用するDAWによって多少異なりますが、Ableton、Cubase、Logic、FL Studio等、主要なDAWであればサイドチェーン機能をもった純正のコンプレッサーが標準で付属していることが多いので簡単に設定できます。
特定の周波数のみを圧縮する、より高度なサイドチェインコンプレッションを使えばさらに精度の高いミックス処理ができるようになります。具体的なやり方はサイドチェインコンプレッションの重要性とテクニックについてをご覧ください。
6. ステレオバランス
ステレオ空間の中で、キックとベースが競合しないように住み分ける方法です。
ジャンルやエンジニアによって異なりますが、一般的にはキックドラムはステレオのセンターに配置し、ベースはステレオフィールドの中に広げると良い結果が得られやすいです。
ベースを左右に広げる方法として、ハース効果やコーラスエフェクトを使う方法がよく取り入れられています。
詳しくはベースにステレオ感を与えてワイドに広げる3つの方法をご覧ください。
まとめ
キックとベースを綺麗にミックスする為の6つステップは以下の通りです。
- キックかベースどちらを配置するか
- マスキングを最小限に
- ピッチを揃える
- イコライジング処理
- サイドチェインコンプレッション
- ステレオバランス
プロジェクトの中の作曲とミキシングの段階で、活用できるミックス方法です。
まずは最終的にどのようなサウンドにしたいのかを決定してから、作曲やミックスを進めることが最も重要なことです。そして、パンチのあるキックがミックスをカットして、ベースが重厚で存在感を出すことができれば、ローエンド全体がまとまり、パワフルなローエンドを手に入れることができます。
以上、「キックとベースを綺麗にミックスする為の6つステップ」でした。