トラップミュージックとは?ジャンル分類とその歴史について
トラップミュージック(Trap Music)は、ハードコア・ヒップホップから派生したジャンルの1つ、もしくはそのビートにイギリス発祥のダブステップの要素を取り込んだEDM(ベースミュージック)として認知されています。
低音が強調されたダブステップなどのベースミュージックの影響と、クランクやダーティサウスなどアメリカ南部(サウス)のヒップホップの影響を受けており、連続でならされるハイハットにキックとスネアのハーフビート、808ベースと呼ばれる超低音のベースサウンドが特徴です。
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トラップとは、「コカイン密売所」を表すスラングで、アトランタが、このジャンルの発祥地と言われています。先駆者とされるアーティストは、2003年以降に活躍したT.I.やヤングジージーが有名で、2010年代から多くのラッパーが積極的にトラップビートにラップを乗せるようになり、瞬く間に全米中に浸透していきました。
トラップミュージックの歴史
「トラップミュージック」というキーワードをGoogleで検索すると、エレクトロニックアーティストによるEDM音楽がたくさんヒットするかと思います。
しかし、アトランタ発祥のヒップホップトラップのパイオニアアーティストにとっては、そういった認識はほとんどありません。トラップにはGoogleの検索エンジンをはるかに超えた歴史があり、こういった音楽ジャンルに関する認識の違いは、特にアメリカの音楽史では珍しいことではありません。
トラップミュージックの先駆者
Shawty Redd
トラップミュージックの特徴的なサウンドは、プロデューサー兼イノベーターの「Shawty Redd」から始まったと言われています。
Shawty ReddはYoungJeezyとGucciManeとの関りがあるヒップホップ、トラップ界隈では最も影響力のあるプロデューサーの一人です。Shawty Reddはアトランタ出身の最も重要なプロデューサーの一人であり、トラップミュージックのサウンドを育む上で重要な役割を果たしてきました。
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Shawty ReddはDramaのデビューアルバム「Causin'Drama」をプロデュースすることで10代でその活動をスタートしました。
このプロジェクトに取り組んでいる間、Reddは彼が「ブーティーシェイキンハイハット」と呼ぶ現在の16分音符のハイハットの刻みを開発しました。
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これは後に現代のヒップホップビートにまで引き継がれ、キックとベースが生み出すグルーヴに連続したハイハットサウンドを絡めた「トラップビート」と呼ばれるようになります。
トラップミュージックの語源
「トラップ」という言葉が音楽を連想させる前は、特定の場所を指す言葉として使われていました。
トラップミュージックにはアトランタの暗くて厳しい現実が背景にあり、アフリカ系アメリカ人の貧困地域の家では、ドラッグが調理されて流通し、麻薬取引が行われ、その他のさまざまな違法なビジネスが行われていました。
トラップはそういった抜け出すことができない悪循環のライフスタイルのことを表しており、アーティストそれぞれの生まれた環境や地域性が表現されていることが多いです。
麻薬、お金、そして理想的なライフスタイルについて歌っているように見えますが、実際にはヒップホップの歴史と同じように、より深い問題を抱えていて、トラップミュージックは過去と現在に存在する黒人コミュニティの文化的および経済的格差について訴えている作品が多くあります。
アンダーグラウンドからメインストリームへ
トラップミュージックは20年もの時間をかけて、アトランタのストリートからメインストリームへと着実に広がり始めました。
次世代のトラッププロデューサーの「Lex Luger」はShawtyReddやDJ Toompの手法を吸収し、2010年ごろからのトラップミュージックの本格的なムーブメントに貢献しました。
ルガーは人気ラッパーの「Waka Flocka Flame」にビートを送ると、ワカフロッカはルガーのサウンドに魅了され、すぐに新しいトラックに採用しました。そして、2010年にリリースした「HardinDaPaint」がヒットすると、多くのラッパー達はルガーのサウンドを欲しがりました。
さらにルガーのビートはSnoop Dogg、Jay Z、Kanye West、Rick Rossといったメインストリームで活躍するアーティストのトラックにも採用され始め、その人気に一気に火が付きます。
その後、EDMアーティストのRustieとHudson MohawkeがDJセットでルガーの曲を流し始め、そこからヒップホップとEDMのクロスオーバーが起こります。
現在ではBeyonceやMiley Cyrusのようなポップアーティストがトラッププロデューサーを探し出し、さらにトラップサウンドはグローバルにまで展開し、K-POPやレゲトンなどのジャンルにまで広がりをみせます。
現在のトラップミュージック
現在のトラップミュージックの焦点は、特定の地域を指したライフスタイル問題から、ポップミュージックが持つ音楽的な美学へとシフトしています。
新世代のトラップアーティストはトラップミュージックの背景よりも、クールなサウンドやグルーヴィーなリズムに魅了されており、その為、これまでの格差、人種問題といったストーリーテリングに欠けた音楽を作成することで、しばしば批判の的となることがあります。
Shawty Reddのような現在のトラップの方向性を認めないオリジナルのトラップイノベーターもたくさん存在します。彼らは「背景を知らない、そして知ろうとしない世代と自分自身を結びつけることはできない。」と主張しています。
まとめ
トラップミュージックはポップスやベースミュージックの影響と、ダーティサウスなどアメリカ南部のヒップホップの影響を受けた音楽ジャンルです。
思わず体が動き出すようなグルーヴィーなリズムが新しい世代に受け入れられ、現在の主要なSNSプラットフォームにもマッチしやすく、メインストリームの音楽ジャンルとして広がっていますが、その背景にはさまざまなストーリーが存在します。
音楽ジャンルの根源となるルーツを知っておくことで、特定のジャンルへの理解が深まることは間違いありませんが、ロックンロールの歴史のようにルーツが忘れさられた頃に、ようやく誰もが楽しめるポピュラー音楽として受け入れられるのかもしれません。
以上、「トラップミュージックとは?ジャンル分類とその歴史について」でした。