音楽をマスタリングする時は「どれくらいの音量」で書き出せばいいの?
「自作曲をアップロードしたのに、なんか音が小さい…」「マスタリングって音量をどこまで上げればいいの?」そんな悩みを抱えていませんか?
音楽制作において、マスタリングは最後の仕上げであり、音圧や音質を調整して楽曲を完成させる重要な工程です。特に「音量」はリスナーの印象を大きく左右する要素ですが、適切な音量設定は意外と難しいものです。
ネットで調べると「-14LUFS」という数字をよく見かけますが、これはSpotifyが採用している最適な音量値のことで、あくまで目安の一つに過ぎません。実際には、音楽のジャンルや聴かれるリスニング環境によって、最適な音量は変わってくるのです。
そこで今回は、マスタリングにおける音量調整の重要性と、適切な音量設定を見つけるためのポイントを分かりやすく解説します。
音量感とダイナミックレンジ
音楽を聴くときには、耳の中にある小さな繊毛の振動によって送られる信号で音を感じることができます。音が大きいほど繊毛は激しく振動して、聴こえてくる音がより刺激的だと認識することができます。これが、私たちが大きな音を好む理由の一つであり、音量感の大きいマスターの方が「良い音」だと感じる理由でもあります。
ダイナミックレンジ、つまり一定時間内のオーディオ信号の最も小さな音と最も大きな音の差のことですが、優れたマスター音源は、大きなダイナミックレンジを持っています。
マキシマイザー等で強く圧縮して、ダイナミクスの差がほとんど無いような音源(昔は"海苔波形"と呼ばれていました。)の場合、曲のミックスバランスは破綻していると言えます。
しかし、リスナーの関心を常に惹きつける為には、出来る限り音量感が「ラウド」である必要もあります。実際のマスタリング工程では、音量感とダイナミクスの2つの要素を適切なバランスで決定することが重要となります。
マスタリングでの音圧の測り方について【LUFS】
最適なバランス
音量感とダイナミクスのバランスは、様々な要因によって異なりますが、主な決定要因の一つが「ジャンル」です。ジャンルによって適切なラウドネスレベルは異なります。例えば、ロックやEDMの曲は、クラシックやジャズの音源に比べると「ラウド」です。ロックやEDMのようなジャンルでは、気分を上げる為に攻撃的であることを意図して制作されていることが多いからです。
逆に、クラシックやジャズのようなジャンルでは、ゆったりとした落ち着いた雰囲気が求められているので、作曲家は音量を上げることよりも、ダイナミクスをより大きく取ることを優先します。
もう一つ注意すべき点として、ダイナミックレンジが大きすぎる音源は、一般向けのオーディオシステムやリスニング環境では、うまく伝わらないことがあるということです。曲中の小さな要素が、同じ周波数帯域のより大きな要素によってマスクされてしまう可能性があります。
音楽ストリーミングサービスごとの最適なLUFS目安はいくつ?
DSPのラウドネスノーマライゼーション
DSP(デジタルサービスプロバイダー : Spotify、Apple Music、YouTube Musicなどのストリーミングプラットフォーム)は、ラウドネスノーマライゼーションと呼ばれるプロセスを適用します。ラウドネスノーマライゼーションとは、DSPが投稿された曲の平均的なラウドネスを計算し、すべての曲がほぼ同じラウドネスレベルになるように再生音量を自動調整することを意味します。
Platform | Peak | Loudness | Dynamic Range |
Spotify | -1.0 dBTP | -14 LUFS | >9DR |
Apple Music | -1.0 dBTP | -16 LUFS(±1.0 LU) | >9DR |
Amazon Music | -2.0dBTP | -11 LUFS | >9DR |
Youtube | -1.0 dBTP | -14 LUFS | >9DR |
Soundcloud | -1.0 dBTP | -11 LUFS | >9DR |
曲ごとに音量感がバラバラだと、曲が変わるごとに突然大きな音になったり、小さくて物足りなく感じたりと、ユーザーの視聴体験を大きく損なう可能性があります。そもそも、ユーザーが聴く曲ごとに音量を調整しなければならないのは面倒だからというのも大きな理由です。
とはいえ、実際にはDSPのラウドネスノーマライゼーションのアルゴリズムについて、そこまで心配する必要はありません。現実的にすべてのプラットフォームに合わせたマスター音源を個別に書き出しするのは大変だということと、ディストリビューター(DSPに配信する為の仲介役)には基本的に一つの音源をアップロードして、それが各プラットフォームから配信される形になるからです。
ストリーミング配信に適した設定
CDの時代は限界まで音圧を上げて、出来る限り大きな音量にすることが求められていましたが、ストリーミング配信サービスでは、先述したようにラウドネスノーマライゼーションが組み込まれている為、どれだけ音量を上げても一定のレベルにまで自動的に下げられます。
ダイナミクスを犠牲にして音圧を上げたところで、一定の音量に下げられるということは、つまりストリーミング配信をメインで考えている場合は、リミッターやマキシマイザーでパツパツにまで圧縮された音源よりも、ダイナミクスを残した音源の方が有利となります。
※とはいえ、一部のロックやEDMのような攻撃的なジャンルでは「圧縮感」のある音質が好まれている傾向にもあるので、一概にダイナミクスを残した音源が正解というわけでもありません。
音楽をどのくらいの音量でマスタリングすべきか?
では、一体どのくらいの音量でマスタリングするのが最適なのでしょうか?結論から言うと、普遍的に「完全」なラウドネスの数値はありません。正しい音量感は、その曲で何をしたいかによって異なり、マスタリングエンジニアの仕事の一部は、アーティストの意図に合ったマスターを理解して、提供することです。
正しい音量感とダイナミクスを知る為のいくつかの要素は以下の通りです。
1. リファレンス曲に合わせる
リファレンス曲として、同じジャンルの他の曲を聴いたり、さらに良いのは、それらをプロジェクトに読み込んで「Youlean Loudness Meter」のようなメータープラグインを使って、参考曲のLUFS値とダイナミックレンジがどれくらいあるのかを正確に確認することです。
リファレンスとなる曲をガイドとして使用して、そのラウドネスが自分に合っていると感じたら、同じレベルに合わせてマスタリングしてみてください。
2. ヘッドルームを残す
DSPがアップロードされた曲を再生する際、ロスレス品質でストリーミングしている場合とそうでない場合があります。ロスレス品質の.wavからロスのあるフォーマットに変換されたときには「アーティファクト」が発生する可能性があるので曲のピーク値をコントロールする必要があります。
トゥルーピークを回避する方法
一番簡単な方法はマスタリングの最終段階で使用するリミッターやマキシマイザーのCeiling値を少し下げてヘッドルームを確保することです。
すべてのトゥルーピークを回避するのは難しいですが、WAVでストリーミング配信するという用途の場合、一般的には-0.1~-1.0dBほどスペースを空けてやると無難です。
もしくは、トゥルーピークを抑えてくれる機能を持ったリミッタープラグインを使うのも有効です。多少の音質変化はありますが、色んなストリーミングサービスから配信したり、CDに焼いたりする予定がある場合には所持しておきたいプラグインの一つです。
3. 異なるオーディオシステムで聴く
実際に音楽が聴かれる時には、スマホスピーカー、モノラルスピーカー、イヤホン、ヘッドホン、もしくはカーステレオで爆音で聴く人など、色んな環境が想定されます。
もちろん、各再生システムは異なる周波数特性を持っているので、例えば、低音が強調されたシステムもあれば、高音がクリアなシステムもあります。様々なシステムで確認することで、特定の周波数帯域が過度に強調されたり、逆に埋もれてしまったりしていないかを確認することができます。
すべての再生システムで聴いた時に理想的な素晴らしいサウンドであれば、その楽曲は完璧にマスタリングされているということです。
まとめ
この記事では、マスタリングにおける音量調整の重要性と適切な音量設定を見つけるためのポイントを解説しました。Spotifyの基準値「-14 LUFS」はあくまで一つの目安であり、音楽のジャンルや聴かれる環境によって最適な音量は異なるということになります。
音量感とダイナミクスのバランスを考慮し、リファレンス曲を参考にしながら、様々な再生環境で確認することで、あなたの楽曲を最大限に魅力的に仕上げることができるでしょう。
以上、「音楽をマスタリングする時は「どれくらいの音量」で書き出せばいいの?」でした。