
シャウトボーカルのミキシングで役立つ7つのテクニック
シャウトボーカルは、主にメタルやロックといったジャンルで使われますが、基本的には他のボーカルパートと同じようにミックスすることができますが、特定の音域が飛び出したりと、スクリーム特有の難しさや違いがあり、ミックスエンジニアにとっては難しい作業となることもあります。
そこで今回は、シャウトボーカルをミックスに完璧に馴染ませるための、段階的なミキシングテクニックについてご紹介します。
1. 最適なマイクを選ぶ

シャウトボーカルは、ミックスの中でも非常にアグレッシブな成分を持っています。幅広い周波数帯域を含み、特定の音域がブーストされることもあり、時には耳障りに聴こえることもあります。ミックスエンジニアは、このパワフルで攻撃的な素材を、耳に心地よいサウンドに仕上げる必要があります。
シャウトボーカルに限りませんが、トラック品質はミキシング段階の前の録音品質に大きく左右されます。シャウトボーカルの場合は特にマイクの選択は非常に重要です。一般的なボーカル録音で使われるコンデンサーマイクは、スクリームに対しては歯擦音(シビランス)を過剰に拾ってしまい、良い結果が得られないことがあります。
そのため、スクリーミングボーカルには、Shure SM7Bのようなダイナミックマイクが推奨されます。クリアでフラットな周波数特性は、スクリームを正確に捉えるのに最適です。良いミックスは、質の高い録音から始まります。
2. ボーカルの下準備(ノイズ処理)

本格的なミックスに入る前に、まずはボーカルトラックをクリーンにしましょう。曲間の不要なノイズをカットするのはもちろんですが、特に重要なのがブレス(息継ぎ)の処理です。
スクリーミングボーカルは後段の処理で強力にコンプレッションするため、ブレスも一緒に増幅されてしまい、不自然に大きく聞こえてしまいます。これを避けるため、ブレス部分をカットして別のトラックに移し、個別に音量調整できるようにしておくのがおすすめです。
手作業が面倒な場合は、DeBreathのような専用プラグインを使うのも良いでしょう。また、シンガーの発音や言語によっては、ディエッサーを使って歯擦音を抑える処理も有効です。
3. 不要な低音域をカットする

ボーカルの下準備ができたら、EQを使って周波数バランスを整えます。最初に行うべきは、不要な低音域のカットです。これはスクリームに限らず、ほとんどのボーカルミックスで行われる基本的な処理です。
ボーカルに含まれる低周波成分は、マイクの吹かれや部屋の反響音などが原因で発生し、ミックス全体を濁らせる「こもり」の原因となります。ベースやバスドラムといった低音楽器のスペースを確保するためにも、ハイパスフィルターを使って不要な低域を大胆にカットしましょう。
4. アグレッシブにコンプレッションする

スクリーミングボーカルには、他のボーカルスタイルよりも強力なコンプレッションが必要です。現代のロックやメタルでは、ダイナミクスを抑えてでも、よりラウドで迫力のあるサウンドが求められる傾向にあります。
1176系やDBX系のような、高速でアグレッシブなコンプレッサーが最適です。設定の目安として、1176であればレシオを20、アタックとリリースは最速に設定し、10~15dBほど深くコンプレッションしてみましょう。
これにより音圧を稼ぐだけでなく、コンプレッサーが持つ独特の「色」をボーカルに付加し、より個性的なサウンドに仕上げることができます。
5. イコライジングで明瞭度を上げる

低域のカットとコンプレッションが終わったら、再度EQを使って音質を調整します。特に重要なのが、高音域をブーストしてサウンドを明るくし、明瞭度を確保することです。
スタジオマイクは中音域の再現性に優れていますが、高音域がやや暗めに録れることがあります。EQで高域を持ち上げることで、ボーカルが前面に出てきて、ミックス内での存在感が増します。
どの帯域をブーストするかは元のボーカルの特性によりますが、2kHz~6kHzあたりを調整することで、エッジや煌びやかさをコントロールできます。
6. サチュレーションでキャラクターを加える

サチュレーションは、スクリーミングボーカルのミックスにおいて非常に重要なエフェクトです。テープや真空管(チューブ)タイプのサチュレーターを使うことで、サウンドにキャラクターと豊かな倍音を加え、ミックス内での抜けを良くすることができます。
現代のロックでは、ボーカルが「オーバーロード(過負荷)」したようなサウンドが求められますが、それは単なる歪みではありません。サチュレーションによって付加された倍音は、ボーカルをより美しく、耳に心地よいものにしてくれます。
様々なタイプのサチュレーションプラグインを試してみて、そのボーカルに最適なキャラクターを見つけましょう。
7. 空間系エフェクトで奥行きを出す

最後に、必要に応じてリバーブやディレイといった空間系エフェクトを追加します。ロックミュージックでは、歪んだギターをはじめ、多くの楽器がラウドに鳴っているため、ボーカルが埋もれてしまいがちです。
そのため、埋もれた感じがする時には、他のジャンルに比べてリバーブやディレイを少なめに使い、ボーカルが突き抜けてくるように調整してみましょう。
エフェクトを追加したら、必ずミックス全体の中で他の楽器とどのように馴染んでいるかを確認し、必要に応じて微調整を行いましょう。
→クリアで立体感のあるミックスの為の5つのリバーブテクニック
まとめ
シャウトボーカルは、その攻撃的なサウンドゆえにミックスが難しい楽器パートです。しかし、録音段階での適切なマイク選びから始まり、ノイズ処理、EQ、コンプレッション、サチュレーション、そして空間系エフェクトという一連の処理を丁寧に行うことで、そのポテンシャルを最大限に引き出すことができます。
サウンドの傾向は楽曲によって変化しますが、今回ご紹介した内容と、自分の音楽の方向性を考慮して、パワフルかつクリアなスクリーミングボーカルを完成させましょう。
以上、「シャウトボーカルのミキシングで役立つ7つのテクニック」でした。