はじめてのスタジオレコーディング | バンド録音の流れ
バンドレコーディングは一昔前までは複数のマイクを使用して、バンド全体を録音するような形式で行われていましたが、最近ではマルチトラックレコーディングによって、より洗練された録音が行われます。
それぞれ各楽器を録音して、後でミックスと呼ばれる工程で各トラックを調整し、綺麗にまとめます。
テクノロジーの進歩により、PCを使ったDTM環境で完結させるバンドも多いですが、今回は一般的なスタジオレコーディングの流れについてご紹介します。
レコーディングの目的
レコーディング作業とは、簡単にいうと歌声やミュージシャンによる演奏を、可能な限り高品質でキャプチャすることです。
基本的にレコーディングの目的はマイクを使った収音であり、プロ仕様の様々な音響機器や音響が調整された部屋を使用してサウンドをキャプチャし、そのオーディオデータをメディア(CD、デジタルデータ等)に保存することを目的とします。
マルチトラックレコーディングにより、各マイク(ボーカル、ギター、ベース、ドラムのサウンド)をそれぞれ個別に録音することで、後のミキシングプロセスで音量や音質の調整がしやすくなります。
例えば、ボーカルパートを録音し、別のトラックにギターパートを録音した場合、マルチトラックとして個別に録音されているため、ボーカルの質感や音量に影響を与えることなく、ギターのみの音量を増減できるようになります。
レコーディングスタジオでは、個人で揃えようと思うと膨大な費用がかかってしまうような高価な音響設備が揃っているので、スマホや数本のマイクだけでは収音できないような、リアルで高品質な音源を手に入れることができます。
レコーディングの流れ
1. ミーティング
それでは実際のレコーディングの流れですが、まずはレコーディングする楽曲を決めたり、それに従い当日のタイムスケジュール等の事前話し合いをします。
一般的にはレコーディングスタジオは時間制になっていることがほとんどなので、曲数や録音本数を考慮して、なるべく無駄が無いように時間設定をします。時間に余裕を持ちたい場合は「録音6時間+ミックス3時間」のようなロングタイムプランを設けているスタジオもあるので探してみましょう。
レコーディング予定の楽器と曲の構成やテンポ等、必要な情報を書き出してエンジニアと事前に共有しておくとスムーズに進みます。
通常はクリック、メトロノームを使用しながら録音する為、途中でBPMが変わったり、クリックと合わせて演奏するのが苦手な場合には、打ち込みのリズムトラックも用意しておくと安心です。
→バンドレコーディングの為に準備しておくべき7つのこと
2. セッティング
続いてレコーディングの為のセッティングを行います。
レコーディング当日は早めにスタジオに入ることをおすすめします。担当してくれるエンジニアさんが打ち合わせで決まった内容の機材の準備など、スタジオセットアップをしてくれているので、自分達も機材のセッティングをしながら、色々と相談したりコミュニケーションを取ることができます。
ボーカルの方は軽い声出しや、ギターの指慣らしといった準備運動も大切です。
3. 音作り
セッティングが終わったら音作りを行います。楽器にマイクをセットしていき、モニタースピーカーでどういったサウンドになっているか、自分達でも確認してみましょう。
自分でバンドでレコーディングする方法でもお話しましたが、マイクのポジションをほんの少し動かすだけでも収音される音はかなり変化します。
はじめての場合や、特にこだわりが無い場合にはエンジニアの方におまかせしてしまった方が良い音が得られやすいですが、希望があるのなら伝えてみましょう。
4. リズム楽器から録音開始
リズムは音楽の基盤となる最も重要な要素なので、一般的にはドラムから取り始めることが多いです。
後の楽器陣もクリック/メトロノームに合わせて録るより、普段聴きなれたドラム演奏で録ったほうがリアルなグルーヴ感が生まれやすいです。
リズム系から上物楽器へと順番に録音していきます。一般的なバンド編成のレコーディング順番は以下の通り
- ドラム
- ベース
- リズムギター
- リードギター
- ボーカル
もちろん必ずこの順番である必要はありません。例えばリズムギターまで録って、次にボーカルを録音して、ワンコーラスで一旦休憩を挟んでいる間にリードギターを録る。といった流れもあります。
ボーカルは生身の楽器なので、体力や声の変化に気を配りながら、順番を優先的に考える必要があります。
5. ドラムレコーディング
ドラムレコーディングで気を付けるべきことは、チューニングと抑揚をつけずに叩くということです。
特にスネアのサウンドキャラクターは楽曲の印象に関わってくるので、正しいチューニングで演奏するようにしましょう。
自分の求めているサウンドにチューニングできる方はいいのですが、そうでない場合はエンジニアの方に「どんな音にしたいか」のリファレンス音源を渡して、チューニングしてもらうというのもありです。
抑揚をつけずに叩いた方が良い理由は、ミックスの段階で他の楽器との音量バランスを取りやすくする為です。
エンジニアの方は録音後にフェーダーやコンプレッサーで音量感をコントロールするのですが、抑揚が強すぎるとコントロールが難しくなります。
抑揚をつけたいときは「サビ前の8小節は抑えて叩く」といったように、セクションごとに統一感を持たせて、一定の力加減をキープした方が最終的な品質は良くなります。
リズムキープが最重要課題
プレッシャーをかけるつもりはありませんが、バンドレコーディングにおいて生ドラムのクオリティは非常に重要です。
リズムキープが出来ていないと最終的な音源品質に大きく影響するので、場合によって手動でタイミング修正を加えたり、ドラムトラックはまるまる打ち込みデータを持参するというバンドも珍しくありません。
編集でずれたリズムを修正しようものなら大幅にレコーディング時間を消費することになり、予算オーバーする可能性もあるので、自分で叩くのか、打ち込みにするのか、レコーディング前に慎重に話し合う必要があります。
とはいえ、デジタルが主流になった今、生のダイナミックな演奏とアナログ感溢れるドラムサウンドは価値が高いので、挑戦する価値はアリです。
6. ベースレコーディング
ベースのレコーディング方法にはダイレクトボックス等のインターフェースを使ったライン録りと、アンプの音をマイクで拾うマイク録りの2種類があります。
レコーディングでは、いつものライブやスタジオ練習のときとは違うセッティングがベストである可能性が高いので、レコーディングする前に試し録りをしてモニターの音を確認するようにしましょう。
ラインとマイクの両方を混ぜ合わせたサウンドや、自宅のアンプシミュレーターを使ったデジタルデータを混ぜたりと、必要に応じて臨機応変な音作りをしましょう。
ジャンルにもよりますが、最近はライン録りのみの音源が多いように感じます。生のエアー感はドラムの金物やギターで十分確保できるので、ローエンドが豊富なベース音の方がミックスでバランスが取りやすくなります。
→エレキベース録音の為の7つのヒント
6. ギターレコーディング
ギターは基本的にはマイク録りの音を使うことが多いですが、一部のギターアンプにはライン出力用の端子も備わっているので、ベースと同じように両方をミックスすることもあります。
→エレキギターを綺麗に録音する方法
ロックギターの場合は同じテイクを2回録音して、それぞれを左右に振る「ダブリング」と呼ばれる手法が一般的なので、単純に2倍の長さになるので、集中力を切らさないようにしましょう。
ギターレコーディング中に気を付けることはこまめなチューニングです。1セクションごとにチューニングするくらいの気持ちで、常にピッチの安定したサウンドを鳴らしましょう。
ギターのサウンドメイク
ギターのサウンドメイクに関しては、極端なセッティングはなるべく避けるようにして、普段エフェクター等でローカットをかけている場合でも、なるべくレンジの広い音で録音したほうが有利です。
ミックスの段階では出過ぎた音をカットするよりも、出ていない音を補強する方が難しい為、他の楽器との兼ね合いとかはそこまで深く考えずに、ギター単体で気持ちいい音を出しましょう。
7. ボーカルレコーディング
ボーカルは喉が楽器なので「調子」に左右されやすく、事前準備と当日のペース配分も重要になります。
録音する曲数が多い場合には、休憩を挟みながらレコーディングしますが、それでも長時間になると後半は声質が変化してしまうこともあるので、そういう場合は別日に録音することも視野に入れます。
レコーディング中は常にマイクとの距離に気を配り、テイクごとに口とマイクの距離が変わらないようにしましょう。
ミックス段階ではボーカルピッチ補正ソフトで修正を加えることになるので、完璧な音程を目指して慎重に歌うよりは、多少ずれてもニュアンスを大切にして歌った方が、良いボーカルトラックになりやすいです。
ハモりパートの練習も忘れずに。
→自宅でボーカルレコーディングする時に役立つ6つのヒント
8. 編集
レコーディングが終わったら、必要に応じてエンジニアが音声波形を整える作業に移りますが、ほとんどの場合レコーディングと平行して行われるため、編集をセクションとして含めることはありません。
とはいえ、編集は音楽作品の作成において非常に重要で機能的なセクションなので、知っておくことで編集ありきの録音も意識できるようになります。
編集を簡単に言えば、個々のトラックのタイミング、ピッチ、または速度、またはパフォーマンスを変更するための作業です。一般的な編集作業の1つとして「コンピング」があります。
コンピングとは、レコーディング中に起こったエラーを消したり、複数録ったテイクの中から完璧なテイクを選んだりする工程のことです。
例えば、ボーカリストが同じパートを何度も繰り返し歌い、テイクごとに様々な部分でミスを犯す可能性があります。良いテイクだったのに一部分でミスがあった場合は、最初から歌い直すのではなく、他のテイクから切り取って使うこともあります。
フレーズ、単語、または小節単位で切り取って、それを最良のテイクの変更したい場所に貼り付けて、エラー消して、ワンテイクで録音されたように聞こえるようにします。
もちろんコンピング以外にも、様々な編集作業を行いながらレコーディングは進んでいきます。
9. ミックス
ミックスとは、レコーディングで取得したそれぞれのオーディオトラックを綺麗に混ぜ合わせるプロセスです。
音量やステレオ空間の中での楽器の位置を左右(パン)で操作し、バランスの取れた音像の広いステレオトラックを作成することを目的としています。
このミックス作業のよくある勘違いは「ミックスをすれば音が良くなる」というミュージシャン側の誤った認識です。ミキシングでは様々な修正や加工がほどこされますが、本質的には録り音よりも音声品質が良くなるということはありません。
つまりレコーディングで録音した音のクオリティが最終的な品質と直結するので、ミキシング段階で納得がいかない場合は、レコーディング段階からやり直すのがベターです。
ミキシングの3大要素の記事でもお話しましたが、もとの録り音が良ければ、ミックスで細かく音質修正する必要もなく、音量とパンニングだけで使えるので作業時間の大幅な短縮にもなります。
10. マスタリング
マスタリングは音声制作における最終工程です。ステレオミックスをさらに微調整し、すべての音響システム、メディアフォーマットで綺麗に再生されるように整えるプロセスです。
巨大なスピーカーを備えたライブハウスから、小さいスマホスピーカーまで、再生するすべてのサウンドシステムで音楽が適切に聞こえるようにすることを目的としています。
また、曲と曲の間の繋がりを決めたり、アルバム単位の全体的なサウンド品質に統一感を持たせるといった役割もあります。
マスタリングではイコライザー、コンプレッサー、リミッター、ステレオエンハンサーなどを使って作業します。
→マスタリングとは何か?基本的な5つのステップ
まとめ
バンドレコーディングの流れについてご紹介しました。
- ミーティング
- セッティング
- 音作り
- リズム楽器から録音開始
- ドラムレコーディング
- ベースレコーディング
- ギターレコーディング
- ボーカルレコーディング
- 編集
- ミックス
- マスタリング
レコーディングスタジオを利用した、マルチトラックレコーディングの流れとなっています。
アーティストサイドもレコーディングの具体的な内容やどういった目的でそれらが行われているかを把握しておくことで、より効率的で洗練されたサウンドを入手できるようになるメリットがあります。
レコーディングに向けてミーティングを重ね、当日は最高のサウンドがキャプチャできるようにしっかりと準備しておきましょう。
以上、「はじめてのスタジオレコーディング | バンド録音の流れ」でした。