
重厚なメタルギターサウンドの基礎知識とアンプのセッティングについて
ヘヴィメタルやデスメタルのような迫力あるギターサウンドは、低音と高音が強調された深い歪みトーンが特徴です。このようなサウンドを鳴らすためには、ギターアンプの設定だけでなく、エフェクターの活用も重要な要素となります。
今回の記事では、メタルギターの基本的な音作りから、アンプのゲイン(歪み)を効果的に使用する方法、そして理想のサウンドに近づけるための調整について詳しく解説します。
メタルギターの音作りの基礎
良質なメタルトーンを作るための基本として、アンプのEQ設定は低音を高め、中音はやや削り、高音はやや高めにするのが一般的です。ゲインの設定は、求めるサウンドの年代によって異なり、80~90年代のヘヴィメタルでは高めに、現代的なサウンドでは歪みを抑えめにしつつエッジ感を出す傾向があります。

- 低音 : 6~8
- 中音 : 3~5
- 高音 : 6~8
- ゲイン : 6~8
メタルサウンドの重要な要素は、ハイゲイン、長いサスティーン、そして豊かなローエンドです。これらの設定はあくまで出発点であり、ギター本体、ピックアップ、アンプ、エフェクターなど、様々な要素が組み合わさって最終的な音色が決定されることを理解しておきましょう。
それでは、各コントロールの役割と調整方法について詳しく見ていきましょう。
歪み量(ゲイン)とEQコントロール

メタルギターにおいて、ゲイン量の設定は非常に重要です。多くのメタル楽曲では、高いゲインによって力強いリフや伸びやかなギターソロが実現されます。
代表的なメタルサウンドでは、ゲインを6~8程度に設定することが多いですが、使用するアンプの種類によって調整が必要です。ソリッドステートアンプの場合はさらにブーストすることがあり、チューブ(真空管)アンプの場合は音量との兼ね合いが重要になります。
歪みの少ないアンプやクラシックなチューブアンプで本格的なメタルトーンを得るには、かなりの音量が必要となる場合があります。このような場合には、ディストーションペダルを活用することで、より手軽に理想の歪みサウンドを得ることができます。
アンプのEQ設定について

低音
メタルギターのサウンドの特徴の一つとして、ギターアンプの低音が強く設定されていることが多いです。これにより、ブリッジミュート時の迫力ある低音や、深みのあるトーンが得られます。ハイフレットでのギターソロにおいても、十分なサスティーンと重厚感を出すために低音はブーストされる傾向にあります。
低音のつまみは大体7くらいから試してみるのが良いでしょう。ただし、過度にブーストすると、ベースの音域とぶつかり、サウンド全体のバランスが悪くなる可能性があるため注意が必要です。
中音
中音域の設定はギタリストによって好みが分かれる部分ですが、メタリカをはじめとする多くの80'sメタルバンドは、低音と高音を強調し、中音をカットする「ドンシャリ」と呼ばれるEQ設定を採用していることが多いです。
実際に音作りをする際は、まずミッドコントロールを4程度から始め、音が軽く迫力不足に感じる場合は徐々に上げていきます。一方、ギターソロの際には、サウンドに存在感を持たせるために中音域を強めにブーストすることがあります。
高音
高音域の設定は、サウンドにエッジと明瞭さを加えるために、比較的高めに設定されることが一般的です。メタルギターの場合、7くらいの設定から試すことを推奨しますが、アンプによっては耳に刺さるような高音が出やすい点には注意が必要です。
アンプで高音域を設定する際は、スピーカーから少し離れて(2~3歩程度)、スピーカーと耳の高さが同じになるようにすると、高音成分の聴こえ方が安定し、調整しやすくなります(高音は指向性が強いため)。
アンプを歪ませる方法

ギターアンプで歪みサウンドを作る主な方法は二つあります。
アンプの設定を変える
アンプに搭載されているゲインコントロールを上げることで、プリアンプ部で信号を増幅させ、歪んだサウンドを得ることができます。また、多くのアンプには歪み専用のチャンネルが用意されています。EQコントロールと組み合わせることで、歪みの質や音色を細かく調整可能です。一部のアンプには、ブーストスイッチや内蔵エフェクトによってさらに歪みを加える機能もあります。
ギターエフェクターを使う
オーバードライブ、ディストーション、ファズなどの歪み系エフェクターを使用することで、アンプの歪みに加えて、あるいはアンプのクリーンチャンネルで使用して歪みサウンドを得ることができます。エフェクターの種類によって歪みのキャラクターが大きく異なるため、求めるサウンドに合わせて選択することが重要です。
アンプタイプによる音の違い
アンプの基本的なつまみによるコントロールに加えて、使用しているアンプのタイプによってサウンドの特性は大きく変わります。
現代のギターアンプは大きく分けて、真空管アンプ、トランジスタアンプ、そしてモデリングアンプの3つの主要なタイプがあります。それぞれの特徴を理解することで、より効果的な音作りが可能になります。→ギターアンプの種類とその特性について
真空管タイプ

真空管アンプは、真空管を使用した増幅回路により、自然で滑らかな歪みが特徴です。一般的に、クリーンサウンドは暖かく、歪ませると倍音豊かで粘りのあるサウンドが得られます。本格的な歪みサウンドを得るにはある程度の音量が必要となることが多いですが、粒立ちの細かい上質なディストーションは多くのロックギタリストに支持されています。
プリアンプのゲインとパワーアンプのマスターボリューム、そしてEQコントロールを備えているのが一般的です。代表的な機種としては、Marshall JVM、Mesa/Boogie、Orangeなどのスタックアンプが挙げられます。
トランジスタタイプ

トランジスタアンプ(ソリッドステートアンプとも呼ばれます)は、真空管ではなくトランジスタ回路で音を増幅します。メンテナンスが容易で、安定した動作が特徴です。歪み方は、ある程度ゲインを上げると急激に歪み始め、高音域にやや硬質な響きが出ることがあります。
音作りの幅が広く、真空管アンプに比べてモダンでソリッドなサウンドが得意です。代表的な機種には、Roland JC-120、BOSS KATANAシリーズなど、コンボタイプのアンプに多い印象です。
アンプを使ったサウンドメイク方法
アンプの歪みを使って理想のディストーショントーンを作り出すための具体的な手順をご紹介します。
- ギター本体のボリュームとトーンコントロールを最大に設定します。
- アンプのマスターボリュームを、音作りをするのに適した音量に調整します。
- EQコントロール(Low、Middle、High)を一旦全て中央の12時の位置に設定します。
- ゲインコントロールを徐々に上げていき、サウンドの歪み具合を注意深く聴きます。求める歪みレベルに達したら、それ以上歪ませすぎないように注意しましょう。歪ませすぎると音の芯がなくなり、コードの分離が悪くなることがあります。
- 再度、マスターボリュームで全体の音量を調整します。
- アンサンブルの中でギターの音像を調整するために、Middleコントロールを微調整します。他の楽器とのバランスを考慮しながら、ギターの存在感を調整します。
- 最後に、LowとHighのコントロールを微調整して、サウンド全体の音質を整えます。片方の音域を調整すると、相対的にもう片方の音域の聴こえ方が変わることがあるため、バランスを見ながら調整することが重要です。
メタル用アンプ設定の例

いくつかのアンプ設定の例をご紹介します。ただし、前述の通り、ギター本体やアンプの特性によって最適な設定は異なるため、これらの例はあくまで参考として、実際に音を聴きながら微調整することが重要です。
バッキングギター

ロックギターのバッキングでは、ボーカルや他の楽器の音域を邪魔しないように、中音域を少し抑えた「ドンシャリ」サウンドがよく用いられます。これにより、ギターサウンドはアンサンブルの中で一歩引いた位置に収まり、全体のサウンドに厚みと迫力を加えます。
リードギター

リードギターでは、メロディックなフレーズやソロが際立つように、中音域と高音域を強調したサウンドが効果的です。特にギターソロなど、ギターに注目を集めたい場面では、さらに中音域をブーストすることで、サウンドにハリと存在感を加えることができます。
メタルリフ

メタルリフでは、深く歪ませたサウンドが基本となりますが、歪ませすぎると倍音が飽和しやすく、サウンドが濁ってしまうことがあります。そのため、高音域の調整には注意が必要です。ブリッジミュートを多用するリフでは、低音域を強調することで、メタルらしい重厚感と刻み込むようなグルーヴを生み出すことができます。
メタルで使用されるエフェクター

アンプの設定だけでは理想のメタルサウンドに近づけないと感じたら、エフェクターの導入を検討してみましょう。エフェクターを使用することで、サウンドの質を向上させ、より細やかな音作りが可能になります。メタルギターでよく使用されるエフェクターは以下の通りです。
- ディストーション:アンプの歪みが足りない場合や、理想とする歪みのキャラクターを得たい場合に。
- コンプレッサー:音の粒を揃え、サスティーンを伸ばし、ダイナミクスをコントロールすることで、よりプロフェッショナルなサウンドに近づけます。
- ノイズゲート : 強く歪ませると、演奏していない時にも「サー」といったノイズ(ヒスノイズ)が目立つようになります。こうした不要な音を遮断してくれます。
- リバーブ:ギターの音に奥行きや広がりを与え、特にリードギターやソロ演奏時に効果的です。
- ディレイ : 反響音を加えることで、サウンドに空間と深みを与えます。リバーブと組み合わせることで、より壮大なトーンを作り出すことができます。
ギターの音抜けが悪い場合

迫力のあるメタルギターサウンドを目指すあまり、低音を強調しすぎると、サウンド全体の音抜けが悪く、こもった印象になることがあります。メタルギターで音抜けが悪くなる場合に確認すべき点は以下の通りです。
- ピックアップはリア(ブリッジ側)になっているか
- ゲイン量を少し下げる
- 低音を少し下げる
- 中音域、高音域を少しブーストする
ギターサウンドのトラブルの多くは、実は「歪ませすぎ」が原因であることが少なくありません。ギター単体で聴くと迫力があってカッコいいと感じるサウンドでも、バンドアンサンブルの中では音が埋もれてしまうことがあります。
ディストーションによる過度なコンプレッション効果で、音の芯が無くなる為、ゲインの調整は慎重に行う必要があります。
ハウリング問題

ギターアンプの音量を上げ、高いゲイン設定にすると、「ピー」というフィードバックノイズ(ハウリング)が発生することがあります。これは、歪みを深くかけるほど起こりやすい問題ですが、以下の方法で軽減することができます。
- ゲインを少し下げる
- アンプから少し離れる
- 演奏中にギターの正面をアンプに向けないようにする
これらの対策を講じてもハウリングが解消されない場合や、完全にハウリング音を取り除きたい場合は、「ノイズゲート」と呼ばれるエフェクターの使用が一般的です。
ノイズゲートは、主にノイズの多いピックアップや、ディストーションのような激しい歪みを使用することによって発生するノイズをカットするために使用されます。ギターからの音声信号が設定されたスレッショルド(閾値)を下回ると、ノイズゲートが信号を遮断する仕組みで、ノイズのような一定レベル以下の不要な信号をまとめてカットします。

ノイズゲートを使用することで、演奏中の不要なノイズを気にすることなく、より高いゲイン設定で演奏することが可能になります。ハウリングにお困りの方は、ノイズゲートの導入を検討してみることをお勧めします。
より現代的な"モダン"メタルサウンド

ここまで、主にクラシックなヘヴィメタルサウンドの作り方を紹介してきましたが、近年のモダンメタルのような、より現代的なサウンドを目指す場合は、さらにいくつかの要素を考慮する必要があります。
- 7弦、8弦ギターの使用
- ダウンチューニング(ドロップD~A#)
- 低音域のカット(ローカット)
- より少ない歪み量でエッジを出す
従来の重厚なサウンドから、低音感は保ちつつも、よりクリアでソリッドなサウンドへと変化しています。これには、コンピューター上で動作するDAW(音楽制作ソフト)を用いた緻密な音作りが大きく影響しています。

現代的なメタルトーンの多くは、アンプのEQだけでは難しい特定の周波数帯域の精密なブースト/カットや、100Hz以下の低音域を大胆にカットするといった編集が施されています。さらに、アンプシミュレーターの進化により、デジタル環境で幅広い音作りが可能となり、より洗練されたサウンドメイクが実現されています。
また、制作ではNeural DSPのArchetypeやLine 6のHelix Nativeのようなデジタルプラグインを使用したり、ライブ現場では、シミュレーターからアンプを通さずに直接ラインで出力したりと、より現代的なアプローチによるトーンが採用されることも多くなっています。
まとめ
メタルギターの音作りとアンプのゲイン活用術についてご紹介しました。今回解説した内容は基本的な音作りであり、ジャンルやアーティストによって独自のサウンドメイクが取り入れられています。
メタルトーンを得るための最も基本的な方法は、アンプの低音・高音を上げ、ギターのブリッジピックアップを使用し、必要に応じてディストーションペダルを追加することです。アンプのゲインやEQを調整する際は、一つずつ変化を確認しながら、自分の耳で最適なポイントを見つけることが重要です。
また、多弦ギターやアクティブピックアップ搭載のギターは、モダンなメタルサウンドを作る上で有利になるため、これから挑戦する方は検討してみてはいかがでしょうか。
以上、「重厚なメタルギターサウンドの基礎知識とアンプのセッティングについて」でした。