ダイナミクス系エフェクトとは?その仕組みと使い方
ダイナミクス系エフェクトは楽器や、制作のミックスにも使用される音量感をコントロールするツールとして非常に登場頻度の高いエフェクトです。
世の中にはクラブやライブハウスのような大きな音から、耳をすませないと聴き取れないほどの小さな会話まで様々な音量感を持つ音が存在します。
そういった現実世界の大きな音量の差も、CDやデジタルの中ではダイナミックレンジ(大きい音と小さい音の差)が小さくなって収音されています。
今回はそういった大きな音と小さな音を上手に処理する、ダイナミック系エフェクトについてご紹介します。
快適なリスニング体験の為に
ダイナミクス系エフェクトの使用目的は「快適なリスニング体験」を提供することにあります。
音楽の中でみてみると、例えばアンビエントな繊細なソロピアノとコンサートホールのフルオーケストラでは、相当な音量差が生まれます。また、ボーカリストはAメロはささやくように歌い、サビでは張り上げるような大声であったりと感情表現のために色々な声色を使い分けます。
しかし、実際にCDやストリーミングサイトから音楽をリスニングするときには、ダイナミックレンジの幅をそれほど感じることなく音楽を楽しむことができます。仮にダイナミクスによる制約を無しにしたとして、自宅のリスニング機器をコンサートホールと同じようなボリュームまで上げるのはあまり現実的ではありません。
実際の生演奏のダイナミックな迫力をCDやWAV、AIF、MP3といったデータに変換し、一般的なオーディオシステムで再現するには、制作時にリスナーが聴き取りやすいレベル感でダイナミックレンジを再調整する必要があります。
そこで登場するのがダイナミクス系エフェクト達です。
コンプレッサー・リミッター
初期の録音媒体であるレコードやテープの頃には、今よりもさらに音量の差を狭くして収録する必要があった為、エンジニア達は生演奏の迫力あるダイナミックレンジを狭めるために、コンプレッサーやリミッターといったエフェクトを使用するようになります。
コンプレッサーやリミッターを使用して大きな音を圧縮することで、相対的に小さな音との差を少なくすることができます。単純に音量を上げ下げするのとは違い、音波形の頭を潰すことになるので多少なりとも音質は変化します。
本来は音量差を小さくするために生まれたエフェクトですが、60年代のロックアーティストの実験的な音楽制作の取り組みの中で、圧縮による音質変化を目的とした、本来の使用目的とは少し異なる使い方をするアーティストもいました。
ダイナミクス系エフェクトの仕組み
コンプレッサー、リミッターは使用する目的が違えど、基本的な動作原理は同じです。※ちなみにオーバードライブやディストーションといった歪みエフェクトは、先述した「圧縮による音質変化」を上手く利用したエフェクトになるので、仕組みだけで考えるとダイナミクス系に分類されます。
これらはすべて指定したレベル以上の音を一定の割合に従って圧縮するエフェクトとして機能します。
- スレッショルド : レベルを指定
- レシオ : 圧縮割合
- ゲインリダクション : 圧縮値
入力信号がスレッショルドで決めたレベルを超えると、レシオで決めた割合分だけ圧縮して、実際に圧縮された量はゲインリダクションと呼ばれます。
この主要な3つのパラメーター以外にも、圧縮までの時間を決めるアタックと圧縮された音が元に戻るまでの時間を決めるリリースによって、音量のダイナミクスを細かくコントロールすることができます。
ギター用のエフェクターでは一部のパラメーターを自動化することで、ユーザーが直感的に使用できるようにしている機種も多いですが、基本的な仕組みはすべて同じです。
リミッターはコンプレッサーのレシオ値を最大にしたもので、スレッショルドを超えたすべての信号は圧縮されます。
→コンプレッサーの基本的な使い方
→リミッタープラグインの使い方【完全ガイド】
圧縮原理の違い
コンプレッサーはダイナミクスを調節するという役割だけではなく、圧縮原理の違いによって機種ごとにサウンドテイストが多少異なります。
特に実機のコンパクトエフェクターやハードウェアコンプレッサーは、それぞれに圧縮回路の違いによる音質特性があり、そのサウンドキャラクターもコンプレッサーを選ぶ際の重要な要素となります。
- Tube(真空管)タイプ
- Optical(光学式)タイプ
- FET(トランジスタ)タイプ
- VCA(電圧制御増幅)タイプ
大きく分けて上記の4つに分類され、圧縮速度の速さや倍音の生成に違いがあるので、楽器や使用用途に合わせて最適な効果が得られる製品を選びましょう。
→アナログコンプレッサーの代表的な4つのタイプについて解説【DTM】
ダイナミクス系エフェクターの使い方
どういった場面でダイナミクス系のエフェクトが使用されるのか、実際の使用例を使っていくつかご紹介します。
サスティーンをかせぐ
ピアノやギターといった伴奏楽器でよく使用される方法です。
スレッショルドを高めに設定して、常にコンプレッサーがかかった状態を維持することで、オルガンやPAD系のような持続音の長いサウンドになります。
音の立ち上がりであるアタック音を圧縮して相対的に持続音をブーストすることで、ミックス内で一歩下がったポジションに楽器を配置することができ、より伴奏に適したサウンドになります。
楽器用コンプレッサーの代表的な使い方の一つですが、やりすぎるとエッジの無いもこもこしたサウンドになるので注意しましょう。
トランジェントを調節する
トランジェントとは音の立ち上がり部分のことで、特にドラムやカッティングギターのようなパーカッシブな楽器では非常に重要な要素となります。
アタックタイムを遅めに設定したコンプレッサーを使って、トランジェントの後ろの成分を圧縮することで、相対的に音の立ち上がりを強調することができます。
コンプレッサーのパラメーターを細かく調整することで、ダイナミクスの調整以外にもキックやスネアにさらにパンチを加えるといったことも、頻繁に行われる使い方の一つです。
※DAWで使えるより細かな設定ができる高品質なコンプレッサーが必要となりますが、パラメーターの役割を理解することで非常に自由度の高いサウンドメイクができるようになります。
クリップを防ぐ
一つ一つのトラックは最大値である0dBを超えていなくても、いくつもの楽器が重なることで簡単に飛び出してしまう可能性があります。そこで重要なのがクリップを防ぐ為のリミッターとしての使い方です。
リミッターはレベルオーバーを避けながらも、出来るだけ大きな音で録音して音圧を稼ぎたいといった場合によく使われます。(※現代ではすべてにおいて音圧を上げることが効果的とはいえません。→音圧競争「ラウドネス戦争」が音楽に与えた影響)
クリップを防ぐ場合には不自然にならない程度に速いアタックとリリースで、レシオは10:1以上の大きな値に設定して、スレッショルド以上の信号をすべて圧縮できるようにします。
マキシマイザー
現在では音質変化の少ないデジタルプラグインのリミッターが使用されることが多く、波形の先読みも可能なので理論上すべての音を完全に通さない(ブリックウォール)リミッターも登場しました。
特に音圧を上げることに特化したエフェクトを「マキシマイザー」と呼び、CDのような出来るだけ音圧を上げたほうが有利な媒体では非常に効果的です。
とはいえ、現在のストリーミングサービスでは大きな音は自動的にリミッターで圧縮されるシステムが搭載されている為、ストリーミングサービスごとの最適な音圧値に設定することが重要視されています。
→マスタリングでの音圧の測り方について【LUFS】
まとめ
ダイナミクス系エフェクトはEQと並び非常に使用頻度の高いエフェクトの一つで、奥が深いので早めに使い方を習得しておくと、制作などではとても有利になります。
主に音量によるダイナミクスのコントロールと、圧縮による音質変化を目的に使用され、パラメーターを使いこなすことでさらに幅広い用途で役立ちます。
以上、「ダイナミクス系エフェクトとは?その仕組みと使い方」でした。
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