バンドサウンドを上手にミックスする方法
バンドレコーディングのミキシングは、一般的なソロアーティストのトラックよりも収音するべき楽器が多くなり、複雑になりやすいです。
さらにそれぞれの楽器担当者の音へのこだわりを保ちつつ、すべてのバランスを取りながらファイナルミックスを決定する必要があります。
今回の内容はミックスの設定方法、ボーカルトラックの扱い方、ドラム、ベース、ギターといった主要な楽器が互いに音被りしないようにする方法など、バンドをミキシングするためのヒントをいくつかご紹介します。
楽器を整理する
バンドミキシングはそれぞれの楽器やトラック数が増えすぎて、ミックス中に混乱する可能性があります。
レコーディングやミックス作業を効率的に行う為にも、トラック配置やミキサーを常に整理しておくことをおすすめします。関連するすべてのトラックをグループ化したりして、時間をロスすることなく目的のセッションに辿り着けるようにします。
また、トラックのグループを色分けすることも役立ちます。ミキサー内の楽器グループを視覚的に分離し、特定のトラックをすばやく見つけることができるようになります。
たとえば、すべてのリズムトラック、バッキングトラック、リードトラック等を1つの色に統一することで、一目で簡単に見分けがつきます。
楽器の順序と配色は完全にエンジニア次第です。
トラックを整理したら、グループ内のすべての楽器をバストラックにルーティングします。これにより複数のトラックの管理が簡単になり、使用プラグインの数を減らすことができるのでCPUの節約にも繋がります。
リファレンスミックスを用意する
楽器の整理が終わったら、最終的なバンドサウンドをどのような音質にしたいかを決定します。
常に理想とするサウンドを近くに置いて作業することで、音のターゲットを見失うことなくミキシングを進めることができます。
一般的には既存の楽曲からバンドの理想とするサウンドを選んで、ミキシング中はリファレンスとなる楽曲と常に照らし合わせながら作業を進めるようにします。
これがないと、ミキシングの選択肢がたくさん増えすぎたり、目的を見失うことで開始時よりもサウンドがさらに悪くなる可能性もあります。
ドラムミックス
ミックスを開始する方法に決まりはありませんが、通常は音楽の中で最も重要なトラックからスタートすることが多く、ダンスミュージックの場合はキックからミックスを開始したり、歌モノだとリードボーカルから始めることもあります。
ドラムキットをミキシングするときは、単一のトラックをソロとして扱う前に、ドラムキット全体のラフミックスを行います。特に生ドラム全体をマイキングする場合にはブリード(マイク被り)が問題になる可能性があり、レベルバランスやリバーブで妥協することも必要になります。
位相をチェックする
次に位相の問題がないかををチェックします。これは、複数のマイクで上下からキャプチャする場合に発生しやすい問題で、位相による相殺が発生することで、お互いの波形同士で打ち消し合って、結果的に弱々しいサウンドになる可能性があります。
こもったり、抜けが悪いなと感じた場合は、片側を逆位相にしたり、オーディオを数ミリ秒前後に動かしてみることで解決する場合があります。
ドラムのEQ処理
ドラムをEQ処理する前に、どういったサウンドを必要としているかを慎重に考える必要があります。
ドラムキット全体をリファレンスサウンドに近づけたら、ハイパスフィルターを使用して不要なローエンドを削除し、Q値が高いピーク処理で、ローミッドの濁り、他の楽器とのマスキング、重要な周波数帯域をブースト等、必要に応じてEQを使って処理します。
カットが必要かどうかは自分の耳で判断する必要があります。ドラムは瞬間的な楽器である為、EQでカットするよりもサイドチェイン利用してカットしたほうが良い場合もあります。
サイドチェインを利用することで、例えばキックが踏まれた瞬間にだけ対象となるベースの低音をカットするといったことも可能になるので、より高度なミキシング処理ができるようになります。
※キットそれぞれの詳しいミキシング方法は別記事をあわせてご覧ください。
・バスドラムのミキシングテクニック【Rock Kick】
・スネアの抜ける音作り
・ハイハットの5つのミキシングテクニック
ベースミックス
ベースのミキシングに関してはキックドラムとの関係を考慮することが重要です。
リファレンスミックスを聞いて、キックまたはベースのどちらをボトムエンドの帯域を埋めるかどうかを判断し、ハイパスフィルターを使用してローエンドをクリーンアップすることで、キックの為のスペースを確保することができます。
例えばキックで100Hz周辺をブーストする場合はベース側はカットし、キックで80Hz周辺をカットする場合はベース側でブーストすることができます。こうすることでローエンドを奪い合うことなくそれぞれの楽器をクリアに鳴らすことができます。
ベースのEQ処理
より強力なベースサウンドが必要な場合は、ローシェルフまたはQ幅を広げたピーク処理でローエンドをブーストします。中低域の濁りをカットし、ピックによるエッジ感が欲しい場合には中高音域をブーストします。
特に200Hz周辺は多くの楽器が密集するポイントになるので、カットすることで全体でスッキリとしたサウンドになります。
ベースのコンプレッション処理
ベースのミキシングにはコンプレッサーが効果的です。
ベースにはボトムエリアをどっしりと支える役割がある為、 低速で緩やかなコンプレッサーを使用して音量の強弱を滑らかにすることで、より一貫したパフォーマンスを実現することができます。
また、クリッピングを防ぐために、アタックが速く、リリース時間が中程度のリミッターを使用したり、サチュレーション目的でより圧縮率の高いコンプレッションを加えることもあります。
キックとの住み分けを行う為に、EDMで使用されるサイドチェインによるコンプレッションも役立ちます。
→ベースギター5つのミキシングテクニック
ギターミックス
キックやベース、ボーカルなどの高エネルギーを持つ楽器がセンターに配置されることが多いので、リズムギターは通常左右に大きくパンニングされることが一般的です。
リードギター等の追加のギターある場合は低音域のパートは中央に近く、高音域になるにつれサイドにパンニングすることで、ステレオ幅を活かしたミックスになります。また、ギターソロのような重要な要素はセンターに配置します。
ギターのEQ処理
ギターは100~120Hzくらいからごっそりローカットされることが一般的です。
100Hz周辺で左右に動かしていると急にスッキリするポイントがあるので、耳を使って必ず確認するようにします。
ギターを単体のみで使用するような状況では必ず行うべき処理ではないですが、バンドアンサンブルのような他の楽器も重なってくる場合には、低音域はベースにまかせてしまったほうが全体的に良い結果が得られやすいです。
ダイナミクスを揃える為にコンプレッサーを使用することもありますが、歪みギターを使用している場合は歪み自体が強いコンプレッションによるものなので、注意が必要です。
→エレキギターの7つのミキシングテクニック
ボーカルミックス
ボーカルミキシングの内容はジャンルや歌い手によって異なることがほとんどです。
ほとんどの歌手に適した基礎的な内容として、EQによるハイパスフィルターを使い、不要なローエンドを削除します。80~200Hzの範囲になるので耳を使ってすっきりする部分を探します。
ボーカルが弱々しく聴こえる場合は、500Hz付近の中低域をブーストしますが、反対に濁って感じているなら500Hzをカットしてみてください。
ボーカルが耳障りに聞こえる場合は、ハイエンド8〜20 Khz程度に下げたり、歯擦音(さしすせそ)が気になる場合にはディエッサーを使って処理することで、多くのエネルギーを失うことなくピンポイントでカットが行えます。
ボーカルピッチ補正
ボーカルピッチ補正ソフトを使い音程の修正や発声タイミングを揃えることで、よりプロに近いトラックを入手することができます。
現在はパーフェクトピッチであるデジタルやエレクトロ系楽器の使用率が上がり、メインであるボーカルの音程にも全くブレのない、完璧な音程感が求められつつあることから、ボーカルのピッチ補正は必須の工程のひとつです。
音量レベル、ピッチの長さ、音符のタイミングの変更、全体的なピッチを自動修正を行うオートチューンプラグインを使用するエンジニアもいます。
メインボーカルの補正以外にも、新しくハモりパートを作成することもできます。
→ボーカルミックスをより良くする為の7つのテクニック
まとめ
バンドサウンドを上手にミックスする方法についてご紹介しました。
今回紹介した周波数帯域やEQの数値等はあくまでも参考程度にして、実際のサウンドを聴いて判断することをおすすめします。
ジャンルや求めているサウンドによって適切なミックス方法は変化しますが、リファレンストラックを聴きながら耳を使って修正することを意識することで、求めているサウンドに近づけることができます。
以上、「バンドサウンドを上手にミックスする方法」でした。