メタル曲をミックス&マスタリングする時の10のミキシングヒント
自作したラウド、メタル曲のミキシングとマスタリングを終えて、改めて聴いてみると「プロの楽曲と比べるとなんだか迫力に欠ける…」そういった経験はありませんか?
特にロックジャンルの制作おいて、トラックに重厚で迫力あるサウンドを与えることは、リスナーに感動を与えて、作品をより良いものにする重要な要素です。
今回は、プロデューサーやアーティストのために、メタル曲を迫力あるトラックにするためのいくつかの効果的なミキシングテクニックをご紹介します。単なる音量の増加だけでなく、サウンド全体の質感や表現力を向上させるものばかりです。
1. EQでバランスを整える
音量で各楽器のバランスを取ったあとに、EQを使って周波数バランスを整えます。アナログ楽器を多く使うロックジャンルでは、部分的に飛び出したり、不均衡な音が発生することがよくあります。
最終的にリミッターをかける場合でも、飛び出した部分で頭打ちになってしまいます。
もちろん無理矢理上げることはできますが、音質が変化してしまう可能性があるので、あらかじめEQで処理しておくのがいいでしょう。飛び出した瞬間にだけ反応できるダイナミックEQを使えば、余計にカットされることがないのでおすすめです。
制作の段階からボイシングやEQによる楽器同士の住み分けをして、なるべくバランスよく楽器を配置することで、最終的に音質変化を最小限にしながら音圧を上げることが可能になります。
2. 不要な音をカットする
不要な音をカットすることで、メインとなる楽器のためにスペースを確保できるので、クリアで解像度の高い音源になります。メタルでは、エレキギターやエレキベースといったレンジの広い楽器を扱うことが多いので、不要な帯域はカットして楽器同士の住み分けをすることが大切です。
シンバル系のような高域で音が鳴っている楽器でも、不要な低音成分が出ているのでこれもカットします。単体で聴くと問題ないレベルでもいくつかの楽器が重なり合うことで、モコモコしたりミックスがこもってしまう原因にもなるので注意しましょう。
例えば、ギターの100Hz以下をカットして、低音域はベースにまかせしまうといったような「譲り合い」も、最終的な品質を上げる為に効果的です。
EQ(イコライザー)を使って不要な音をカットしよう
3. キックかベースどちらを優先するか
ローエンドの40~200Hzあたりは、キックとベースのどちらにとっても重要な周波数帯域になります。ジャンルや好みにもよりますが、まずはキックとベースのどちらをこの範囲に優先的に配置するのかを決定する必要があります。→ローエンドミックスの為の重要な5つのヒント
キックとベースの両方を同じ量だけ配置することは難しいので、必ずどちらかにスペースを譲る必要があります。キックとベースの両方がこの領域を取り合ってしまっている場合は、低音が一瞬で飽和してしまい、全体的に濁った印象の楽曲になってしまう可能性があります。
処理の方法としては、通常はEQによる住み分けを行ったり、後述するサイドチェインコンプレッションによってそれぞれを分離させる方法があります。
4. パンチのあるキックドラム
楽曲やキックドラム自体の音質にもよりますが、必要に応じてEQを使って音質を整えましょう。EQを使って音作りをするというよりは、あくまで補正的な使い方に留めるようにするのがポイントです。
※もしEQによる大幅な修正が必要になるときは、EQを使って修正するも、録音やキックサンプル選びからやり直して、素材となる録り音の品質を上げた方が最終的により品質の高いキックドラムが入手できます。
EQによる補正方法ですが、胸に響くような強烈なパンチ感を得るためには、通常40~100hzの間にある基本周波数を強調することで「ズン!」とした芯のあるキックになります。
ミックスの中で埋もれていると感じる場合は、2~8kHzにあるビーターアタック部分を強調することで、抜けの良い「バチン!」といった印象のキックになります。
それでも改善されない場合は、250Hz周辺の中低音域をカットすることでスッキリとしたサウンドになります。この辺りには他の楽器の音も溜まりやすいので注意が必要です。
5. 複数のバッキングトラック
これはバッキングギターの標準的な録音テクニックです。リズムパートを2回録音し、1つを左に、もう1つを右にパンするというテクニックで、片側に2つの別のペアを追加することもあります。
メタルギターの録音において、音を重ねることが重要で、一部のプロデューサーは左右に4トラックを配置し、センターに音量を下げた5本目を追加することもあります。
注意点として、コピーして左右に振るとセンターになってしまうので、バッキングトラックを左右に2本振る場合には、左右それぞれを2回レコーディングするようにしましょう。さらにワンランク上の方法として、例えばハイゲインのハイミッドギターと、ローゲインのローミッド寄りの丸い音質といったような、異なるギタートーンを重ねることです。
6. 200Hz周辺に注意する
ロックで使われる楽器、ドラム、ギター、ベース、キーボード等は何も処理しないままにしないでおくと、200Hz周辺に音が密集しやすいので注意しましょう。
このローミッドの帯域が飽和すると、モコモコとした濁ったような音像になりやすいので、どの楽器を配置するのかを決めて、他の楽器はカットすることで全体がスッキリとします。
イコライザー(EQ)を上手にかける為の5つのミキシングヒント
7. ローエンドを制御する
音圧の為にミックス内の一番低いローエンド部分を上手く制御することは非常に重要です。特にキックとベースが競合しやすいので上手くコントロールしましょう。
低音は耳で聴こえる音量感と実際のボリュームレベルのギャップが大きいので、レベルが上がるにつれて最初に問題が発生しやすいトラックの1つです。そのため、極端に音圧の高い音源を聴くと低音が歪んでしまっているか、反対に低音がスカスカで軽い傾向にあります。
この問題を回避するために、ローカットフィルターを使用することでローエンドが制御不能になるのを簡単に防ぐことができますが、最近はボトムエンドもしっかり鳴っている音源も増えてきているので、カットするかどうかは慎重に判断しましょう。
ローエンド処理の知識を身につけて、ボトムエンド綺麗に鳴らすことで土台がどっしりとした安定感のあるトラックが入手できます。
8. サチュレーションを加える
サチュレーション、オーバードライブ、ディストーションといった歪み成分をトラックに加えることで、図太くパンチのあるサウンドになります。→人気サチュレーション&ディストーションVSTプラグインおすすめ5選
ロックではアナログ感のあるサウンドが好まれる傾向にあるので、デジタル楽器や音源サンプルを使う場合でも、微量なサチュレーションを加えて倍音を付加することで質感を変化させます。
特に高周波に倍音成分が付加され、ザラザラとしたまるで実機で録音したかのようなリアルな質感になるので、プラグインだけで制作している方におすすめです。
トラックにディストーション(歪み)を加えることで得られる5つのメリット
9. ゲインを上げ過ぎない
歪みを加えることで図太くパンチのあるサウンドになり、メタルギターの音作りの際もハイゲインアンプやエフェクターを使ってサウンドメイクするのが一般的です。とはいえ、少し矛盾しているようですが「ゲインを上げ過ぎない」ということも重要であり、ここが多くのメタルギタリストが陥りやすいポイントです。
トップで活躍しているメタルギタリストやバンドの作品の多くは、実際には想像よりもはるかに少ない歪み量でサウンドメイクされていることがほとんどで、ノイズが少なく、音の芯や演奏の解像度が高いのが特徴です。
確かに大量の歪みを加えることでギター単体だとカッコよく聴こえて、ミスが目立たなくなり、長いサスティーンが得られるので気持ち良いですが、アンサンブルに混ざるとエッジ感の少ない「こもった」トーンになりがちです。コードの分離感、エッジと歯切れの良さを得る為にも、最適な歪み量を研究する必要があります。
10. ダイナミクスを残したマスター
音圧を上げたマスターにすることは、プラットフォームにアップロードした際に音圧が下げられるため、各プラットフォームに適した音圧値に設定するのがベストです。
とはいえ、ロックサウンドに関しては音圧を高くした時の圧縮感のある質感が好まれるジャンルもあるので、すべてにおいてヘッドスペースを確保した、ダイナミクスを活かしたマスターが正解とは限りません。
リファレンス音源を用意して、マスタリングでの音圧の測り方について【LUFS】を参照しながら正しい音圧値に設定しましょう。
まとめ
メタル曲のミックス&マスタリングに役立つ10のミキシングヒントは以下の通りです。
- EQでバランスを整える
- 不要な音をカットする
- キックかベースどちらを優先するか
- パンチのあるキックドラム
- 複数のバッキングトラック
- 200Hz周辺に注意する
- ローエンドを制御する
- サチュレーションを加える
- ゲインを上げ過ぎない
- ダイナミクスを残したマスター
レコーディングによるメタルサウンドのミキシング工程は、一般的なソロアーティストのトラックよりも収音するべき楽器が多くなり、複雑になりやすいです。
バンドとして制作する場合には、それぞれの楽器担当者の音へのこだわりを保ちつつ、すべてのバランスを取りながらファイナルミックスを決定するようにしましょう。
以上、「メタル曲をミックス&マスタリングする時の10のミキシングヒント」でした。
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