「ハモり」ボーカルを上手くミックスする為の5つのポイント
ボーカルに厚みや広がりを与える「ハモり」ボーカル。メインとなる主旋律を引き立てて、曲全体にさらに彩りを加える重要な要素ですが、いざミックスするとなると「メインボーカルとぶつかってしまう」「ハーモニーが綺麗に聴こえない…」「ボーカルがぼやける」といった悩みを抱える方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、メインボーカルとハモりパートを上手くミックスする為のいくつかのポイントをご紹介します。
ハモりの作り方
ミックスに入る前に、主旋律に対してハモりパートが綺麗なハーモニーになっているのかどうかをもう一度確認してみましょう。メインとぶつかったり、濁って聴こえるなと思っている場合、そもそものハモりの作り方が間違っている可能性もあります。
一言にハモりと言っても、サビのボーカルにコーラスを入れる場合には非常に多くのパターンが存在します。今回はその中でも、一番簡単で、しかもハモり効果の高い3度ハモりをご紹介します。
上下3度の音程でハモる
メインボーカルのメロディに対して上に3度か下に3度ずらしてハモると綺麗にハモることができます。
もし音程の度数について分からない方はこちらの記事をあわせてご覧ください。
→作曲に必要な基礎知識【音程、音階、和音】
例えば、Cの3度上だとEの音になります。
上か下どちらでハモるかは、メインボーカルに合わせて最適なほうをチョイスします。例えば、Aメロ、Bメロの低い音域で歌っているときは上。サビのハイトーンの部分では低音を補強するために下で歌うとかそういった感じです。
避けるべきハモり方
メインに対して、4度や5度でハモるのはあまりオススメしません。コード理論とかに詳しい方とかは「3度より5度のほうが力強いんじゃね?」って思うかもしれません。
たしかにロックのようなジャンルでは「ルート+5度」のパワーコードというスタイルが頻繁に使われていて、一番力強く響くのは間違いないのですが、コーラスパートとして使う場合はハモりがメインを食っちゃう可能性があります。
あくまでメインボーカルをサポートする役割なので、5度だとメインとの協和が強すぎて、リスナーからするとどっちがメインなのかわからなくなってしまいます。※もちろん5度が絶対にダメというわけではなく、ダブリングのようなメインとコーラスの二つの声で一つの歌声かのような力強さが欲しい場合にはありです。
ハモりをミックスする時の5つのポイント
それでは、ここから実際にハモりをミックスする時のいくつかのポイントについてご紹介していきます。
1. パンニング
パンニングは基礎的なことのように思いますが、ボーカルトラックに迫力と立体感を追加する為に最も優れた方法です。最も効果の高い方法はリードボーカルをミックスの真ん中に置き、2つ以上のハモりボーカルを左右に広くパンニングするやり方です。
通常はボーカルトラックを2つダブルリング(まったく同じメロディーライン)と各ハーモニーの2つを左右にパンします。
センターボーカルにリスナーの意識が集中する程度に音量感を調節し、実際は左右のステレオフィールドが広くボーカルトラックでカバーされているので、壮大なボーカルサウンドを味わうことができます。
また、パンのオートメーションを描くことで、ボーカルパートごとに異なるパンニングバランスを設定することも可能です。※例えば、Aメロ、Bメロは50,50くらいに抑えておき、サビで100,100に広げることで相対的によりダイナミックで立体感のあるボーカルトラックになります。
2. EQによる住み分け
メインとなるトラックと補助的なトラックで、それぞれにコントラストを持たせて住み分けをすることは、ミキシングにおいて最も重要な概念の1つです。
ボーカルトラック全体の場合、メインボーカルが最も前に出るべきトラックです。簡単にコントラストを分けるとするなら、メインボーカルは明るめのEQ、ハモりとなるコーラスパートは暗めのEQ処理をすることで、それぞれのスペースを確保することができます。
人の声質はさまざまなので、実際にはそれほど単純ではありませんが、声質に合わせてEQ処理を施せる柔軟性の高いイコライジングテクニックを身に着けることで、より一体感のあるボーカルトラックになります。
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3. バスコンプで接着させる
ハモりトラックは、一歩後ろに引いた伴奏的なポジションで鳴らす必要があるので、通常の伴奏楽器に行うようなバッキング処理が効果的です。
バックボーカルをすべて1つの楽器として扱い、個別にローエンドの処理や歯擦音といった問題を取り除いた後、バックボーカルを1つのトラックにまとめて、バスコンプレッサーで圧縮して「ならす」ようにして一体感を出します。
バックはメインボーカルよりも高い圧縮率で押しつぶすことで、一歩後ろに引いたバッキングポジションに定位させ、リードボーカルがセンターの前面のポジションを常にキープできるようにミックスコントロールします。
バックボーカルのトランジェントを抑えるためには、速いアタックを使ってピークを押し込み、中~遅めのリリースタイムで圧縮効果を長く維持します。
4. リバーブでスペースを埋める
リバーブはミックスに3次元空間を追加し、特定の空間にいるように感じさせることができる素晴らしいツールです。上手くリバーブ成分を付与することで、ボーカルが遠くで歌っているような感覚を表現することができるので、ハモりパートにも適用することができます。
例えば、サビではリードボーカルのリバーブ成分を少なめにして前面に張り付くように設定して、コーラストラックには多めのリバーブを加えることで、前後の距離感を表現したコントラストが生まれます。
ボーカルとリバーブエフェクトの相性は非常に良いですが、やりすぎるとボーカルトラックがこもる原因にもなるので注意が必要です。
→リバーブエフェクトのやってはいけない!5つの間違った使い方
5. MS処理
MS処理(ミッドサイド処理)は通常のステレオミックス(左と右)ではなく、ミックスのセンターとサイド成分を個別にバランス制御する方法です。
1つ目で紹介したハモりを左右に広げる手法を使用したときに効果的です。バックグラウンドボーカルのセンター成分を圧縮し、サイド成分をブーストする傾向にすることでリードボーカルへの干渉が少なくなり、音像の広い安定したサウンドが入手できます。
MS処理可能な高品質なコンプレッサー、EQを使って早めのアタックタイムと中程度のリリースタイムで、バックボーカルのセンター信号のピークを制御して、リードボーカルの後ろに配置することが目的です。
EQではメインボーカルに一番おいしい帯域を譲るために、バックボーカルのセンター成分の不要な帯域をカットし、サイドの4kHz~をブーストすることで、より空間表現の為の解像度が上がります。
まとめ
メインボーカルとコーラスを上手くミックスする為の5つのヒントについてご紹介しました。
- パンニング
- EQによる住み分け
- バスコンプで接着させる
- リバーブでスペースを埋める
- MS処理
メインとハモりパートでそれぞれの役割を意識して、基本的にはパンニング、EQ、コンプ、リバーブを使って実際の合唱団のような空間配置にすることでより効果的に鳴らすことができます。
ボーカルトラックとハモり等のコーラスパートはミキシングにおいて最も重要なパートと言っても過言ではありません。今回の内容を参考にしながら、たっぷりと時間をかけてミックスしましょう。
以上、「「ハモり」ボーカルを上手くミックスする為の5つのポイント」でした。
メインボーカルとコーラスを上手くミックスする為の5つのヒント
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