アコースティックギターをミックスする為の7つのEQテクニック
アコースティックギターは低音から高音までの音域幅が広く、演奏者の弾き方、マイキングなどによって音色特性が変化しやすい為、EQによる補正が必須です。
楽器にEQを使う場合は主に2つの目的があり、不要な音をカットして楽器自体の音質を向上させることと、他の楽器と上手く混ざり合うように住み分けを行うことです。
特にバンドでのアンサンブルのような、他の楽器と上手くミックスする場合にはEQによる補正が役に立ち、楽器ごとに住み分けをすることで音の解像度が向上します。
エンジニアや楽器奏者にとって最も利用頻度の高いエフェクトの一つとして使用されているEQ。今回はアコースティックギターをミックスする為のテクニックについてご紹介します。
EQを使うときの注意点
アコースティックギターのEQ処理にはいくつかのテクニックがありますが、ほとんどの場合はわずかな操作で十分良い結果を得ることができます。
つまりEQで大幅な修正が必要だと感じたときは、レコーディングの段階からやり直した方がいい可能性が高いということです。→アコースティックギターの録音時に注意すべき5つのこと
最終的にはより少ないプラグイン、トラック、パラメーター量で作業し、特にアコースティックギターのような生音の楽器を収音する場合、サウンドが非常に複雑になるため、EQをやり過ぎると逆にトラブルの原因にもなるので注意が必要です。
ギタートラックが複数ある場合、すべてのトラックをギター専用のバストラックにルーティングすることをおすすめします。そうすることで、すべてのトラックを一つグループとして扱うことができ、CPU負荷の削減と作業効率の向上に加え、位相の問題を発見しやすくなるメリットもあります。
自宅やスタジオで録音する場合、DAWにはドライ信号を送るようにすることをおすすめします。アコースティックエレキギターにはオンボードのイコライザーをかけず、その他の空間系エフェクター等もかけないようにポストポロセッシングで収音を行うことで、ミキシング中にできるだけ多くの選択肢が得られるようになります。
アコースティックギターのEQポイント
アコースティックギターのEQ方法を知ることは、主に特定の問題が存在する周波数帯域を知ることです。アコースティックギターのEQポイントをわかりやすく分類すると以下のようなイメージです。
- サブベース
アコースティックギターにとってこの範囲はほとんど不要です。ヘッドルームを消費するノイズ、メカノイズ、ランブルが含まれているので通常はカットします。 - ボディ
ギター本体から出るボトム感を担当する帯域です。ブーストすることでより重厚なサウンドになりますが、他の低音楽器と干渉しやすいです。カットし過ぎると薄っぺらいサウンドになります。 - 弦
ギターにとって重要な帯域で存在感や音の張りに影響を与えます。弦楽器のメインとなる帯域ですが、ボーカルがいる場合は譲ることが多いです。ソロギターなのかアンサンブルなのかで重要度が変化します。 - ピックアタック
ギターのアタック感や、明瞭感、煌びやかさに影響を与える帯域。3~5kHz周辺はギターが占有できる帯域です。耳に突き刺さる不快な音が出ることもあります。 - エアー感
アコースティックギターのキラキラした部分を担当。マイク録りのエアー感や弦のエッジ感にも影響します。
※ギターのみではなく、他の楽器との兼ね合いも重要なのでミキシングで役立つ楽器ごとのEQポイント一覧表【DTM】も参考にしながらEQ処理してみてください。
1. ローエンドのハイパスフィルター
イコライゼーションに関してまず最初にやるべきことは、ハイパスフィルターを設定することです。
ハイパスフィルターはEQ(イコライザー)で使われる形状の一つで、指定した周波数より低域側をまとめてカットしてくれます。これによりローエンドの濁りをクリーンアップし、楽器同士の住み分けを行ったりと、ミックス全体の品質が格段に向上します。
この機能により低音楽器との干渉、マイクスタンドを伝わるフロアノイズ、低周波のハム、不要なサブベースをカットすることができます。
ハイパス設定は約80Hz~で、オクターブロールオフ約24dBで0.75Qを適用することでサブベースがほぼ無音になり、低音域の干渉がなくなります。ボーカルとギターだけの弾き語りスタイルであっても非常に効果的です。
2. 低音域のローシェルフ
次に80~250Hz付近までの残りの低音域に注目します。一般的にはローシェルフEQをかけて300Hzあたりから全体的に下げて耳で確認しながら調節します。これでスッキリとしたアコースティックギターに求められるサウンドに近づけることができます。
これにより低音の「こもり」は大幅に改善されますが、低音弦の5弦と6弦のボトムエンドに力強さが欠けているように感じることがあるかもしれません。この問題に対処するには、150Hz付近でQ幅の狭い小さなブーストを加えることをおすすめします。
ブースト幅を変えながら周波数を左右に動かしてみてスイートスポットを見つけ出して、そこからQ幅を調整しながらパンチのあるポイントを探ることができます。→イコライザー(EQ)の使い方を徹底解説【DTM】
3. ピックアップ搭載の場合
サウンドホール辺りに設置したマイクが少し"ブーミング"であったり、ギター本体にもピックアップを搭載しているデュアルソースシステムのアコースティックギターを使用している場合は、100〜300Hz付近の低音が気になることがよくあります。
少しギタートーンが少し濁っていると感じる場合には、この辺りの周波数帯域を少しカットすることで改善することができます。→ローエンドミックスの為の重要な5つのヒント
4. ミドル帯域に注意する
約800Hz~2kHzの間の中域をカットすると「ハイファイ」なサウンドに近づきます。特にボーカルがいる場合は歌声のスペースを確保するためにも重要な帯域です。
しかし、ギターのとっても重要な帯域であるのは変わりないので、ギターをフィーチャーするようなジャンルの場合はカットし過ぎに注意です。
高品質なギターであれば、ミドルに十分な強度を持たせることで素敵なヴィンテージスタイルのサウンドを作ることができますが、安価なギターの場合チープなサウンドになる可能性があります。
5. ハイエンドのクリーンアップ
ハイパスフィルターを使用してローエンドをクリーンアップしたのと同じように、ローパスフィルターを使用してハイエンド帯域をクリーンアップすることができます。必要に応じてハイシェルフでブーストすることもありますが、高音域はシンバルなどの金物楽器との住み分けに注意する必要があります。
約10kHzから上の帯域に対してハイシェルフEQを使用することで、トップエンドを穏やかにブーストし、ギタートーンに明瞭さとエアー感を加えることができます。
5~7kHz辺りを軽くブーストすることで、ボーカルに干渉することなく存在感を出すことができます。
6. ソロモードでEQを試す
中音域~高音域はより正確なモニターが必要なので、ギターバスをソロモードにして作業することをおすすめします。部屋に音響環境が整っていない場合は、ミキシング用の高品質のヘッドホンが役立ちます。
2〜5kHzはピックと弦のアタック感とキラキラ光る明瞭度に影響する帯域です。全体の音量を上げることなく、ギターの存在感を高めることができますが、ボーカルとの被りには注意が必要です。
7. フルミックスでのEQ処理
ソロギターと違ってバンドで演奏するとなると周波数帯域を他の楽器と共有する必要があるので、アコースティックギターのソロモードを解除して、トラック全体でのサウンドを確認します。
一般的にギタートラックはリズムギターであればステレオで左右にパンニングされ、リードギターであってもある程度パンニングされていることが多いので、この段階ではモノラルでミキシングすることをおすすめします。
すべての楽器をモノラルで配置することで、どの要素がぶつかり合っているのか、位相の問題がないかを確認すること簡単になります。
通常リズムギターやリードギター、ボーカル、ピアノ、そしてスネアやハイハットなどが対象となります。これらの楽器が中高音域を共有しながら、それぞれが優位な音域を持てるように、すべての楽器に適切なEQ処理を行います。
まとめ
アコースティックギターのEQテクニックについて解説しました。
アコースティックギターは他の楽器よりも、楽器本体の品質やレコーディング環境が大きく影響するので、EQで音質を整える場合はあくまでも補助的な使用に留めるようにしましょう。もしも大幅な修正が必要な場合は一つ前の段階に戻って見直す必要があるかもしれません。
EQ処理が終わったら必要に応じてコンプレッサーを使用することで、音量のダイナミクスを揃えたり、トランジェントを調節するのにも役立ちます。
以上、「アコースティックギターをミックスする為の7つのEQテクニック」でした。