ボーカルミックスをより良くする為の10のテクニック
いうまでもなく、ボーカルトラックは音楽の中でもっとも重要なポジションであり、楽曲に多くのエネルギーを注ぎ込むパートです。
しかし、人が発する生の歌声のオーディオ波形は、サンプル音源やシンセサイザー、エレキギター等の安定した波形と比べるとトリッキーであることが多く、ミキシングの難易度は高めです。
そこで今回は、ボーカルミックスをより良くする為に基本的な7つの編集テクニックについて解説します。
ボーカルミックスの重要性
ボーカルミックスは、音楽制作において非常に重要な要素です。
ボーカルトラックは楽曲の中でも主役となるポジションの一つであり、リスナーに歌詞を含むメッセージや世界観を伝える上で大切な役割を果たします。
リスナーの注目を集めるボーカルトラックがクリアかつバランスの取れたミックスされたサウンドであれば、曲全体の質を向上させ、リスナーに感動を与えることができます。
ボーカルトラックをより高品質にする為のいくつかのミキシングテクニックをご紹介します。
1. 録音環境を良くする
ほとんどのインディーアーティストや個人の独立タイプのアーティストは、自宅でボーカルレコーディングすることが多いかと思います。
音楽において、ボーカル品質はトラックの良し悪しに大きく影響する要素の一つなので、適切なレコーディングプロセスを実行することが重要になります。
元となる録り音の品質が良くないと、いくら高度なミックステクニックを使ったとしても良い音になることはないので、部屋の環境を整えて正しい録音方法でレコーディングすることが重要です。
→ボーカルレコーディングのやり方と綺麗に録るコツ
2. ダブルトラッキング
ダブルトラッキングは、ボーカルを同じテイクで2回録音し、左右にパンニングする方法です。このテクニックを使うと、より豊かで広がりのあるサウンドになり、ミックスに奥行きが出ます。
複数のテイクを録音することで、タイミング、音程、声質にわずかな変化が生まれることで、コピーしたり、ハース効果を利用するよりも、より自然で有機的なサウンドを作り出すことができます。
特にロック、ポップス、メタルなど、パワフルでインパクトのあるボーカルサウンドが求められるジャンルでよく使われるテクニックで、より豊かでダイナミックなボーカルサウンドを入手することができますが、やりすぎると、位相が乱れたり、濁ったりすることがあるので注意が必要です。
3. オーディオ編集
まずはコンピングと呼ばれる、複数のテイクからベストな部分だけを組み合わせてできるだけ最高のパフォーマンスになるように仕上げる作業や、極端にズレたタイム感の修正、飛び出したブレスや破裂音を見つけて修正を施します。
ほとんどの場合アーティスト側が行う作業ではありますが、場合によってはミックスの一環として行います。
オーディオノイズ除去ソフトを使って、ハムノイズやポップノイズ、リップノイズなどの不要なノイズを除去する作業もこの段階で行います。定番の「RX 10」といったソフトを使ってサクっとノイズ除去しましょう。
4. ピッチ補正
ボーカルの音程や微妙なリズムのずれを修正します。ボーカルストの実力にも左右されますが、修正箇所が多い場合にはかなりの時間を費やす部分でもあります。
ピッチの揺らぎは本質的にはそれほど悪いことではないのですが、最近はピッチ補正ソフトで修正されたパーフェクトピッチな歌声が当たり前になってきているので、必須の項目ではあります。
定番ソフトの「Melodyne」のような、補正ソフト技術の進歩によって非常に自然に音程の修正ができるようになっており、音楽に携わっている人でさえもピッチ補正された歌声なのかどうか、というのは判断が難しいほどの品質に仕上がります。
→ボーカルピッチ補正ソフトはこれ!定番の7つのプラグインソフト
5. ボリュームオートメーション
ボーカルトラックはミックス全体でもっともダイナミクスの振れ幅の大きいトラックの一つです。
コンプレッサーによる過度な圧縮を回避する為にも、ある程度手動でボリュームオートメーションを書くか、Waves製品の「Vocal Rider」を使って、全体的な音量の均一化を行いましょう。
これを行わないと、このあとのコンプレッサーを使って圧縮する工程で、多くのトランジェントを犠牲にすることになるので、パンチの無いこもったようなボーカルトラックになっていましまう可能性があります。
6. イコライジング処理
EQを使ってボーカルの音質を整えます。マイクの近接効果による過度なローエンドや耳障りな周波数を見つけ出してピンポイントでカットします。
不要な周波数の見つけ方が分からない方は「EQ(イコライザー)を使って不要な音をカットしよう」を参考にしてみてください。
ボーカルトラックは全体を通して周波数の動きが常に大きく変化しているので、必要な時にだけ動作してくれる「ダイナミックEQ」もかなり効果的なのでオススメです。
不要な周波数帯域を取り除いたら、ボーカルキャラクターをより強くするためにボーカリストのおいしい周波数帯域をブーストします。
これは歌い手によって様々なので一概には言えませんが、ハイエンドのプレゼンスをブーストしたり、ローミッドの声の芯をブーストするとパワー感と迫力が増します。
7. ディエッシング処理
歯擦音(さしすせそに含まれるノイズ)を除去してくれる「ディエッサー」と呼ばれるプラグインを使って不要なノイズを処理します。歯擦音がミックス内で強調され過ぎると、気が散ったり、聴き心地が悪くなったりすることがあります。
ディエッシング処理は、ダイナミックEQの原理を使用して、問題のある周波数(通常は4kHz~10kHz)をターゲットとして、飛び出した瞬間にだけ低減することが出来る便利なツールです。
ディエッサーを使うことで、ボーカルトラックの全体的なトーンを改善し、よりスムーズで自然なサウンドを実現することができます。
→ボーカル品質向上!プロがやっているディエッサー処理
8. コンプレッション
常にミックスの一番手前で鳴るようにボーカルコンプレッサーで圧縮をかけて、ダイナミクスをコントロールします。多くのエンジニアは複数のコンプレッサーを重ねかけしたり、パラレルコンプレッションという技術を取り入れています。
歌い手によって圧縮量の目安は大きく変化しますが、基本的にはゲインリダクション3~6dBぐらいを目安に潰していきましょう。
トラック内のもっとも大きなピークを潰すように狙って使用するのがコツで、トラック全体を大きく圧縮するのはあまり良くないです。
→ボーカルコンプレッサーのかけ方【DTM】
9. サチュレーション
サチュレーションプラグインを使ってほんの少しの歪みを加えることで、ボーカルに温かみと倍音を付加し、存在感を強めます。
プロの楽曲と比べてなんだか声が弱々しいと感じる方は、サチュレーションを付加することで解決する場合があります。
エレキギターで使われるそれと原理は同じですが、ボーカルトラックに歪みを加える場合は耳で聴いて変化が分からないぐらいにうっすらかけるのがコツです。
10. ディレイ&リバーブ
ディレイとリバーブを使いボーカルトラックに広い空間を加えます。
リバーブとディレイはトラックのテンポに合わせて調整し、短いフォードバックは小さい空間を作成し、長いフィードバックは大きい空間を作成します。やりすぎるとドライ音を奥に引っ込めてしまうので注意しましょう。
ディレイとリバーブにもオートメーションを適応し、セクションごとにエフェクトの効き具合を調節することでより良い効果が得られます。
例えばVerseセクションで深めにかけた空間系をDropで一気に弱めることで声が手前に張り付くように飛び出してきます。
→ディレイエフェクトの基礎 | サウンドを強化する為の強力なツール
→クリアで立体感のあるミックスの為の5つのリバーブテクニック
まとめ
ボーカル品質を良くする為の10のテクニックをご紹介しました。
- 録音環境を良くする
- ダブルトラッキング
- オーディオ編集
- ピッチ補正
- ボリュームオートメーション
- EQ
- コンプレッション
- ディエッシング処理
- サチュレーション
- ディレイ&リバーブ
ボーカルのミックスはもっとも慎重に時間をたっぷりかけて行いましょう。
元となる録り音のクオリティはもちろんですが、より良いボーカルトラックを目指すために今回の内容が少しでも参考になれば幸いです。
以上、ボーカルミックスをより良くする為の10のテクニックでした。
今回の内容を動画でも解説しています。