【DTM】キックドラムの音作り完全ガイド!制作に役立つミキシングテクニック10選
楽曲制作において、キックドラムはトラック全体のリズムを支える非常に重要なトラックです。特にEDMやHipHopのようなリズムを主体とする音楽ジャンルでは、全トラックの中で一番手前に配置され、ボーカルよりも目立つこともあります。
キックをより強烈な印象的に残るサウンドにする為に様々なテクニックがありますが、単にEQでブーストしたり、音を重ねるだけではキックがトラック内で埋もれがちになりなることもあります。
そこで今回は、プロの音楽プロデューサーも採用しているような、キックのミキシングにおいて必須級のいくつかのミキシングテクニックをご紹介します。
1. 品質の高いサンプルを入手する
ミキシングに移る前に、そもそもの元となるドラムソフトウェアやキックサンプル選びの段階で、最終的なキック品質の7割くらいは決定していると言っても過言ではありません。
音楽ジャンルや楽曲雰囲気にあった最適なキックドラムを選び、必要に応じて楽曲のキーに合わせてチューニングを施すこともあります。
素材が良くないと、どれだけ加工しようと質の良いキックに仕上げることは難しくなるので、まずは高品質なキックサンプルを入手することから初めてみましょう。
※現在多くのサンプル音源販売サイトが存在し、海外の有名所だと 「Loopcloud」や 「Splice」がクオリティが高く種類も豊富なのでオススメです。
2. キックかベースどちらを優先するか
ローエンドの40~200Hz周辺は、キックとベースのどちらにとっても重要な周波数帯域になります。ジャンルにもよりますが、まずはキックとベースのどちらをこの範囲に優先的に配置するのかを決定する必要があります。
ローエンドミックスの為の重要な5つのヒント
キックとベースの両方を同じ量だけ配置することは難しいので、必ずどちらかにスペースを譲る必要があります。キックとベースの両方がこの領域を取り合ってしまっている場合は、低音が一瞬で飽和してしまい、全体的に濁った印象の楽曲になってしまう可能性があります。
処理の方法としては、通常はEQによる住み分けを行ったり、後述するサイドチェインコンプレッションによってそれぞれを分離させる方法があります。
3. レイヤーキック
音楽制作における「レイヤー」とは、複数の音源を組み合わせることによって、新たな音を作り出すテクニックです。キックドラムにおいては、元々のキックドラム音に加えて、別の音源を加えることで、パンチや鳴りの強化を図ることができます。
レイヤーに使える音源は様々ですが、低音に特徴のあるキックと高音のアタック部分に特徴のあるキック同士を重ねたり、その他にも「タム」や「シンバル」などを重ねて強化することもあります。
具体的な方法としては、EQを使って帯域を分離してから重ね合わせることで、よりクリアで解像度の高いサウンドに仕上がります。実際にはとても繊細な作業なので、どこの周波数からどれくらいの幅で重ね合わせるのかなど、センスが問われる部分です。
レイヤーを行う際には、音源同士がうまく合わさるように、音程や位相などを調整する必要があります。また、音を重ね過ぎて複雑になりすぎると、逆に聴き取りづらくなることもあるため注意が必要です。
→レイヤーを使用してサウンド強化する為の10のヒント【DTM】
4. 位相合わせ
複数のサンプル音源や複数のマイクで録音されたキックドラムを使用している場合は、他の処理を行う前に位相の確認を行う必要があります。
位相とは2つの音源ソース間の時間と振幅の差です。音の波はすべて正と負の波の動きで構成されており、DAWを使って拡大することで確認することができます。
サウンドが異なるタイミングで鳴ることで、上向きと下向きの波形がぶつかり合うことで位相の問題が発生し、エネルギーを奪ったり、音の質感が変わってしまう能性があります。
解決方法としては、波形を動かして向きを揃えるか、片方のトラックを位相反転させることでほとんど解決するので試してみましょう。
5. イコライジングによる処理
楽曲やキックサンプル自体の音質にもよりますが、必要に応じてEQを使って音質を整えましょう。EQを使って音作りをするというよりは、あくまで補正的な使い方に留めるようにするのがポイントです。
※もしEQによる大幅な修正が必要になるときは、EQを使うよりもサンプル選びからやり直した方が、最終的により品質の高いキックドラムが入手できます。
EQによる補正方法ですが、胸に響くような強烈なパンチ感を得るためには、通常40~100hzの間にある基本周波数を強調することで「ズン!」とした芯のあるキックになります。
ミックスの中で埋もれていると感じる場合は、2~8kHzにあるビーターアタック部分を強調することで、抜けの良い「バチン!」といった印象のキックになります。
それでも改善されない場合は、250Hz周辺の中低音域をカットすることでスッキリとしたサウンドになります。この辺りには他の楽器の音も溜まりやすいので注意が必要です。
イコライザー(EQ)を上手にかける為の5つのミキシングヒント
6. コンプレッサーで圧縮
特にドラムのような瞬間的なエネルギーを持つトラックには、コンプレッサーを使って正しく圧縮することで、トランジェント(音の立ち上がり)やダイナミクス(音の強弱)を調整し、より効果的なドラムサウンドを作り出すことができます。
また、バスドラムの音量を均一化することも非常に重要です。サンプル音源では音の大小は変化しませんが、実際に人が踏むバスドラムはダイナミクスにばらつきがあるので、コンプレッサーを使って圧縮することで安定したキックサウンドを鳴らすことができます。
コンプレッサーの適用方法に関しては、音源ソースのタイプによって様々なので一概には言えませんが、アタックタイムとリリースタイムの調整が非常に重要となります。
基本的な設定については以下の通りです。
6-1. 速いアタック&速いリリース
速いアタックを使用すると、コンプレッサーは音の立ち上がりにすばやく反応し、ゲインを素早く下げることができます。さらに、リリースタイムを速く設定することで、圧縮が素早くリセットされるため、ドラムヒットのテール部分に影響しません。
これにより、全体的にドラムのトランジエントを抑えることができ、トラック全体の不要なピークを減らすことができます。
6-2. 速いアタック&遅いリリース
非常にパンチの効いたテールの短いキック、またはパンチが少なくテールの長いキックの場合には、速いアタックと遅いリリースの組み合わせが上手く機能します。
速いアタックでトランジェントを素早く圧縮して、遅いリリースタイムでテール部分まで圧縮することができます。これによりドラムヒットの全体がより均一に圧縮されることを意味します。
※今回使用しているサンプルでは大きな違いは見られませんが、胴鳴りの長いキックや、サスティーン成分の多いスネアだと違いがよく分かるかと思います。
6-3. 遅いアタック&遅いリリース
遅いアタックと遅いリリースの組み合わせは、ドラムヒットにパンチを加えたい場合に最適な方法です。
アタックタイムを長くすることで、音の立ち上がり部分が圧縮を回避できるようになり、リリースタイムを遅くすることで、ドラムのテール部分が最後まで圧縮されたままになります。
その結果、トランジェントサウンドが大きくなり、サステインが少ないサウンドになる為、瞬間的なエネルギーの強いパンチのあるドラムサウンドを得ることができます。
7. トランジェント部分の調整
トランジェントとは波形の頭の部分に一瞬だけ発生する高振幅のことです。キックでいうとビーターがバスドラムを叩いた瞬間に生まれる瞬間的な大きなエネルギーのことです。
特にドラムのような打楽器においては、このアタック部分に生まれる瞬間的なエネルギーが最も大事なので、コンプレッサーで潰してしまわないように気を付ける必要があります。
「Transient Shaper」と呼ばれるプラグインを使用してアタック部分のみをブーストすることで、簡単にパンチのある抜けるキックサウンドが手に入るので試してみてください。
8. サチュレーションで倍音を付加
サチュレーション=歪みのことです。ギターに使用されるオーバードライブやディストーションと原理は同じですが、キックの場合は音質が激しく変化しない程度の微量の歪みを加えます。
同じ音量でもサチュレーションをかけてブーストされたキックは、暖かみや厚みが付与されることで音圧が増します。ビーターアタック音や、ローミッドからミッドにかけての「人の耳が認識しやすい低域」が自然にブーストされることで、実際の音量感以上に手前にキックが抜けてきます。
9. サイドチェインコンプレッション
サイドチェインコンプレッションとは、キックからのサイドチェイン信号をトリガーとして、ベースにコンプレッションを適用する非常に強力なミキシング手法で、飽和状態のミックス内にスペースを確保することができる必須テクニックです。
キックが鳴った瞬間だけベースの音量を下げることができるので、キックが鳴っていない間はベースをフルに鳴らすことができるようになります。
特定の周波数のみを圧縮する、より高度なサイドチェインコンプレッションを使えばさらに精度の高いミックス処理ができるようになります。具体的なやり方はサイドチェインコンプレッションの重要性とテクニックについてをご覧ください。
10. リバーブで空間演出
リバーブもサチュレーション同様にうっすらかけることで、リアルな空間を演出することができます。自然界で反響のない音というのは存在しないので、リバーブをまったくかけていない状態だと機械的で不自然に感じてしまいます。
キックにかけるリバーブ設定の参考値は以下の通りです。
- Decayをかなり短めに0.5~1.0sec
- Early Reflection(音が反射してくる最初の音)を大きめ
- ローカット100~200hz(胴鳴り(低音)部分にかけるとモコモコします)
まとめ
キックの音作りに役立つミキシングテクニック10選をご紹介しました。
- 品質の高いサンプルを入手する
- キックかベースどちらを優先するか
- レイヤーキック
- 位相合わせ
- イコライジングによる処理
- コンプレッサーで圧縮
- トランジェント部分の調整
- サチュレーションで倍音を付加
- サイドチェインコンプレッション
- リバーブで空間演出
まずは、品質の高いキックサンプル選びから始め、キックとベースのローエンドのバランスを調整し、レイヤーキックや位相合わせでサウンドに深みを加えることができます。
特にサイドチェインコンプレッションによるキックとベースの分離は、現代音楽において必須のテクニックの一つなので、是非マスターしておきましょう。
以上、「【DTM】キックドラムの音作り完全ガイド!制作に役立つミキシングテクニック10選」でした。