DTM環境でエレキギターの音作りをする際の注意点やテクニック
DTM(デスクトップミュージック)の進化によって、自宅でも手軽にプロクオリティの音楽制作が可能になりました。特にエレキギターは、デジタル環境との互換性も高く、DTM環境でこそ可能性が無限に広がる楽器と言えるでしょう。
DTMでのギター音作りは、ただギターを繋いで演奏して録音すれば良いというわけではありません。アンプやエフェクターのような「実機」とは大きく異なるので、どのように理想のサウンドを作り上げるのか?といったノウハウは奥が深く、そして非常に重要です。
この記事では、DTM環境でのギター音作りに焦点を当て、録音からミックスダウンまでのプロセスにおける注意点やテクニックを詳しく解説します。
DTM環境でのギター音作りの基礎知識
DTM環境でエレキギターを最大限良い音で鳴らすには、オーディオインターフェイスやプラグインエフェクトの選択、アンプシミュレーターを使ったサウンドメイク、正しいゲイン設定など、重要な項目がたくさんあります。
オーディオインターフェイスの選択
DTMでギターを録音する際、オーディオインターフェースは音質を左右する重要な要素です。予算とニーズに合わせて適切なものを選びましょう。
まず、入力端子の種類を確認しましょう。ギターやベースを直接接続するならHi-Z対応の入力端子が必要です。マイクも同時に録音する場合は、マイクプリアンプ内蔵のものが便利です。
次に、音質を決めるAD/DAコンバーターの性能をチェックしましょう。ビット深度とサンプリングレートが高いほど、より高音質な録音・再生が可能です。
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アンプシミュレーターとエフェクトプラグインの使用
DTM環境での音作りは、アンプやエフェクターのような実機ではなく、基本的にはDAW内のエフェクトやアンプシミュレーターを使うことが多いです。プラグインエフェクトは、歪み、EQ、ダイナミクス、モジュレーション、空間系など多種多様です。
基本的には、アナログのエフェクターよりも、デジタルソフトの方がパラメーターが多い製品や、音の変化が目で確認できるようになっているものも多いので、より細かい音作りが可能になっています。
プラグインを選ぶ際は、自分の好みの音やジャンルに合わせて選びましょう。無料のプラグインでも高品質なものがあるので、まずは試してみて、自分に合うものを見つけましょう。
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DTM環境でのギター録音時の注意点
録音レベルとノイズ対策
DTMでのギター録音では、適切な録音レベルの調整とノイズ対策が重要です。録音レベルは、音が歪まない最大レベル(ピーク)でゲイン量を設定します。目安としてはDAWソフトのメーターで、ピークが大体-6dBから-12dBの間になるように調整しましょう。
オーディオインターフェイスの入力ゲインとDAWのボリュームフェーダーを調節しながら、正しい録音レベルに設定することが大切です。音が小さすぎるとノイズが目立ち、大きすぎると音が歪んでしまいます。
ノイズ対策としては、まずギター本体やケーブル、シールド、エフェクターなどを整理し、ノイズの原因となる接触不良やループなどを解消しましょう。録音環境の設定も重要です。パソコンやモニターなどから発生するノイズを避けるため、録音場所を工夫したり、ノイズフィルターを使用するのも効果的です。
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ライン録音とマイク録音の使い分け
DTMにおけるギター録音では、ライン録音とマイク録音という2つの方法があります。それぞれの特徴を理解し、使い分けることで、より良い音作りが可能になります。
ライン録音は、ギターの信号をオーディオインターフェースに直接入力する方法です。アンプやキャビネットの音の影響を受けないため、ギター本来の音をクリアに捉えられます。後からアンプシミュレーターで音作りをする場合や、クリーンなドライサウンドが欲しい場合に最適です。
一方、マイク録音は、アンプから出力される音をマイクで拾う方法です。アンプやスピーカー、マイクの種類、マイキングの位置によって音が大きく変わるため、音作りの幅が広いのが特徴です。機材の特性を活かしたサウンドが欲しい場合や、エアー感を含んだリアルなサウンドが欲しい場合に適しています。
DI録音とマイク録音を組み合わせる方法もあります。DI録音でクリアなサウンドを確保しつつ、マイク録音で空気感を加えることで、より奥行きのあるサウンドが得られます。
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アンプシミュレーターを使ったサウンドメイク
アンプシミュレーターは、DTM環境でギターの音作りをする上で欠かせないツールです。実在するアンプやキャビネットの音を再現できるだけでなく、マイクの種類やマイキングの位置まで細かく調整できるため、自由度の高い音作りが可能です。
アンプシミュレーターの設定は、実機のアンプと同じように、ゲイン、トーン、EQなどを調整します。さらに、キャビネットの種類やマイクの種類、マイキングの位置などを調整することで、よりリアルなサウンドに近づけることができます。
アンプシミュレーター内蔵のエフェクトを活用するのもおすすめです。ディレイやリバーブなどの空間系エフェクトを加えることで、音に奥行きや広がりを出すことができます。
プラグインエフェクトの活用
DAWに搭載されている各種プラグインエフェクトは、ギターサウンドをさらに洗練する為のツールです。付属のエフェクトで満足できない場合は、追加で外部プラグインを導入することもできます。
アンプシミュレーターで好みのアンプサウンドを再現することができたら、EQを使ってさらに細かい帯域を調整したり、コンプレッサーで音量を均一にしたり、エッジを加えたり、モジュレーション系で揺らぎや広がりを演出し、空間系で奥行きやアンビエンスを作り出すことができます。
しかし、闇雲にエフェクトをかけても、必ずしも良い音になるとは限りません。それぞれのエフェクトの特性を理解し、適切なパラメーターを設定することが重要です。プラグインエフェクトを使いこなすには、様々なエフェクトを試してみて、自分の好みの音を見つけることが大切です。また、他のギタリストの音作りを参考にしたり、音作りのチュートリアル動画を見るのも良いです。
DTM環境でのギター音作りの応用
ここからは、実際にDTM環境で使えるエレキギターの音作りのテクニックをいくつかご紹介します。
1. ダブリング
同じギタートラックを2テイク録音する方法です。バッキングギターやリードギター、ギターソロ等、色んな場面でギターの音圧アップに使用できます。
よりミックス全体で分離感を出したい場合には、音質を多少変えて(片方はローミッドが豊富な音質、もう片方はハイミッド寄りといったような感じで)録音することで、ギター2本の住み分けと、音の干渉によるフランジャーのような「シュワーン」とした感じを軽減することができます。
→エレキギターミキシング上達の5つのテクニック
2. パンを左右に振る
ダブリングした2本のギタートラックの片方を左90、もう片方を右90くらいにパンニングします。こうすることで音像が横に広がり、ステレオ空間の中を広く使ったバッキングトラックを入手することができます。→ミキシングの3大要素【音量・定位・音質】について
※片方をコピペして反対側に振っても、センターに配置されたモノラルサウンドになるので注意です。もしバッキングデータが1つしか手元にない場合は、タイミングを少しズラすか、どちらかのピッチを微妙にズラす事でもステレオ効果を演出できますが、2テイク録ったほうがクオリティは高いです。
音像を最大まで広げる為に左右100に振るエンジニアの方も多いとは思いますが、イヤホンやヘッドホンで聴いたときに「片耳モノラルサウンド」といって自然界には存在しない不自然なサウンドになるので(実世界では右から音が鳴っていたとしても、左耳にも多少音が入ってきます。)よりリアルなミックスにしたい場合は100より少し戻した数値をおすすめします。
3. EQを使ってローカット
エレキギターがこもって聴こえたり、アンサンブルの中で抜けてこない…と感じる場合は、不要な低音を処理せずにミックスしていることが原因であることが多いです。
エレキギターの場合、100Hz以下に不要な低音が含まれているのでEQ(イコライザー)のハイパスフィルターを使用してカットします。100Hz周辺で左右に動かしていると急にスッキリするポイントがあるので、耳を使って必ず確認するようにします。→EQ(イコライザー)を使って不要な音をカットしよう
ギターを単体のみで使用するような状況では必ず行うべき処理ではないですが、バンドアンサンブルのような他の楽器も重なってくる場合は、低音をカットした方が全体で迫力あるギタートーンが手に入ります。
4. コンプで圧縮
手前に張り付くような迫力のあるギタートーンにしたい場合は、コンプレッサーを使ってダイナミクスレンジを圧縮するのが非常に効果的です。ダイナミクスレンジとは大きい音と小さい音との差のことで、エレキギターは人が演奏する楽器なので、音量の振り幅が大きくなりがちです。
特に歪み量の少ないクリーンギターや、オーバードライブぐらいの軽い歪みで演奏する場合は、大きい音をコンプレッサーで圧縮することで、音量に均一に保つことができます。
もちろんコンプレッサーを使った圧縮はデメリットも多いので、トラックに対して圧縮が必要かどうかは、エレキギターの役割を考えて慎重に判断する必要があります。
ちなみに激しく歪んだディストーションやファズのようなギターは、歪み自体が激しいコンプレッションによるものなので、さらに圧縮すると多くのトランジェント(エッジ感)が失われて、のべっとしたサウンドになってしまう可能性があります。
→コンプレッサーの基本的な使い方
5. 音質を整える
状況に応じてEQを使ってさらにサウンドを整えます。元々のギターの音質は、他の楽器との兼ね合いでEQの設定値は変化するので、一概には言えませんが
- ボーカルがいる場合は300~2kHz周辺をカットすることで、歌の為のスペースを確保。
- バンドアンサンブルの場合、3~5kHz辺りはギターが独占できる音域なので、他の楽器への干渉を最小限にしてブースト。
- 歪ませたギタートーンは2~4kHz辺りに耳に突き刺さるような高音が出ていることが多いのでノッチ処理でスッキリ。
これらは、一般的なエレキギターのEQ処理としてよく使用されている方法です。あくまで参考程度にしながら、他の楽器とのバランスを考えて適切な処理を施しましょう。
6. サチュレーションをかける
すでに歪ませているエレキギターであっても、サチュレーションによって倍音成分を付与することでよりパンチのあるサウンドに仕上げることができます。
サチュレーションはドライブ系エフェクターと動作原理は同じですが、元の信号に別の種類の倍音を加えることで、音に厚みや暖かみを付加する効果があります。これによって、ギターサウンドが埋もれにくくなり、迫力や奥行き感を与えることができます。
サチュレーションは、ある程度のコンプレッション効果も持ち合わせていることに注意しましょう。すでにコンプで圧縮している場合、過度な圧縮になりすぎないように両方のバランスをみながら調整します。
7. 空間系で壮大に
良質なリードトーン作成のために空間系エフェクトは重要な要素です。ディレイはやまびこのように音の反響を付与するエフェクトで、リードギターに残響効果を付与することで、寂しくなりがちな単音フレーズでも、大ホールで演奏しているかのような壮大さを与えることが可能です。
リバーブはディレイと同じく空間系エフェクトの一つで、特定の空間の音の跳ね返りを再現することができます。空間反響の無い音は先述の「片耳モノラルサウンド」と同じく、自然界に存在しない音なので少し不自然に聴こえてしまいます。
手前に張り付くようなバッキングトラックが欲しい場合や、バンドアンサンブルに混ざっている場合は、深くかけすぎると逆効果になることもあるので、注意が必要です。
ギターリバーブで壮大なミックスを手に入れる方法
まとめ
DTM環境でのエレキギター音作りは、奥深く、オーディオインターフェースやプラグインエフェクトの選択、録音レベルやノイズ対策、アンプシミュレーターやエフェクトプラグインの活用、さらには応用的なテクニックまで、様々な要素が絡み合って、最終的なギターサウンドは完成します。
これらの知識やテクニックをマスターすることで、DTMでのギター音作りは、より楽しく、よりクリエイティブなものになるでしょう。
以上、「DTM環境でエレキギターの音作りをする際の注意点やテクニック」でした。