個人ミュージシャンが自分で音楽をリリースするまでの流れ【ミックス&マスタリング編】
ここまで
・個人ミュージシャンが自分で音楽をリリースするまでの流れ【作曲準備編】
・個人ミュージシャンが自分で音楽をリリースするまでの流れ【作曲アイディア編】
・個人ミュージシャンが自分で音楽をリリースするまでの流れ【アレンジメント編】
とやってきて、今回で第4段目となります。
作曲、編曲の順にトラックを作成したので、次のステップは出来上がったトラックをミキシングとマスタリング工程を行います。
ミックスとマスタリングの正しいやり方というのは存在しません。トラックが必要とするミックスは、音楽ジャンル、使用した楽器やエフェクト、そしてどのようなサウンドを目指しているかによって異なります。
今回の内容はミックス&マスタリングについての基礎的なアドバイスと、汎用性の高い簡単なミキシングとマスタリングに役立つのヒントをご紹介します。
1. リファレンスを用意する
初回の作曲準備編と同じように、ミキシングの場合であってもプロの既存楽曲を参考にしながら作業を進めることは非常に重要となります。
自分の理想とするサウンドに近い音源を、DAWにドラッグして、ミックスしてマスターするときには音量のバランスや質感を見失わない為にも、常にリファレンストラック(参考音源)として聴ける状態にしておきます。
また、スペクトラムアナライザーを使用してリファレンストラックと自分の作品の周波数帯域とダイナミックレンジを比較することで、さらに細かい部分まで参照することができるのでおすすめです。
→綺麗にミキシングマスタリングされた高音質な音源5選【ジャンル別】
2. ゲイン入力に注意する
ミキシングを開始する前に、すべての楽器やバーチャルインストゥルメント、エフェクトの「ゲイン」について理解しておく必要があります。
ゲインとは電気回路の増幅器によって電気信号を増幅することで、実際にスピーカーから鳴る音量だけでなく、トーンの歪み具合を変化させることができます。
→歪み(オーバードライブ、ディストーション)が音楽に与える効果
→トラックにディストーション(歪み)を加えることで得られる5つのメリット
分かりやすくいうと入力信号の音量コントロールが「ゲイン」、出力信号の音量コントロールを「レベル」といった解釈で、例えば、プラグインエフェクトで考える場合には、エフェクトがかかる前と後の音量調整を分けて行える、ということになります。
例えばコンプレッサープラグインの場合、圧縮される前の信号を大きくするのと、圧縮された後の信号を大きくするのでは、最終的に出力されるトーンはまったく違ってきます。
このように、各トラックのフェーダーやマスターフェーダーは最終的な音量をコントロールしますが、ゲインダイヤルは各チャンネルの「感度コントロール」として機能します。ゲインを正しく理解していないとさまざまな要素が組み合わさって、クリップされたミックス出力が作成される可能性があります。
楽器の入力ゲイン量や、各プラグインのゲイン量をコントロールして、すべてのトラックレベルが最終的に6〜8dBになるように、ミックスにヘッドルームを残しておきましょう。
3. ミックス&マスタリング
ミックスとマスタリングはこれまでは別の作業として行うのが一般的でしたが、DAWを使った音楽制作では同時進行で行うクリエイターも増えてきました。
ミキシングは様々な楽器トラックをもとに、ミキサーを用いて音声トラックの音量バランス、音色、定位などを
修正・調整する工程で、マスタリングでは最終的なステレオミックスの音響要素をさらに微調整し、すべての音響システム、メディアフォーマットで最も効果的に鳴るようにします。
CDの時代のマスタリングでは様々な音素材、内容をCDなどの記録媒体に収録し、量産用プレスをする際のマスターを作成することも含まれていましたが、デジタル配信が主流になりそういった作業も無くなりつつあります。
→音楽制作に役立つ10のミックスヒント【DTM】
→マスタリングとは何か?基本的な5つのステップ
マスタリングプロセスは悪いミックスを良くするためのものでは無いので、マスタリングの段階で大きな修正が必要だと判断した場合は、ミックスに戻ってやり直すことをおすすめします。
4. パンニング
パンニングはステレオ空間の中のどのポジションに楽器を配置するのかを決めるためのパラメーターで、ボリュームフェーダーと並んで、ミキシングにおける3大要素の一つです。
各サウンドを正しくスペースに配置すると、ミックスに大きなメリットがあります。同じようにリバーブ、ディレイやオートパンニングエフェクトで楽器に音像幅を追加することで、プロのような広がりのあるミックスサウンドを手に入れることができます。
→ステレオ音像を大きく広げる為のミキシングテクニック
5. フィルター加工
イコライザーによる音質調整はミキシングでは必ずといっていいほど行われる工程の一つです。
特にハイパスフィルターと呼ばれる低音カットツールを使うことで、無駄なノイズや楽器同士のマスキングを回避することができるので、はじめてミックスをする方は最初にマスターしておきたいテクニックです。
例えば主役のボーカルトラックをミックス内の中心ポジションに正しく配置する為には、約100Hz以下のすべての周波数帯域が濁りの原因になる可能性があり、低音楽器とのマスキングを回避するためにもハイパスフィルターが用いられます。
他にも、ギターやピアノ、シンセサイザーといった音域の広い伴奏楽器の住み分けにも使用されます。
6. ダイナミクス処理
ダイナミクスは最大音量と最小音量の差のことで、主にボリュームオートメーションやコンプレッサーと呼ばれるエフェクトを用いて圧縮することで処理されます。
ダイナミクスを均一化することのメリットは多くありますが、ストリーミング時代になり各配信プラットフォームでは「音量制御システム」が働くため、これまでのように圧縮して音圧を上げることのメリットは薄れつつあります。
→音圧競争「ラウドネス戦争」が音楽に与えた影響
もちろんダイナミクス処理には音圧を稼ぐ以外にも、音量の揺らぎをなくしてミックス内でのポジションを固めたり、圧縮にある音質の変化を目的に使用したりと、ミックスに有利となる色々な使い方があるので、コンプレッサーの正しい使い方を理解することは非常に重要です。
→コンプレッサーの基本的な使い方
7. 歪みを使いこなす
2番目の「ゲイン入力に注意する」でも軽く触れましたが、ゲイン過多によって発生する「歪み」は正しく扱うことでミックス内で効果的に作用します。
一番わかりやすい歪み効果は、ロックギターの「ジャーン!」というディストーションサウンドがあり、あれは歪み効果を上手く利用したものです。
ディストーションほど極端な音質変化ではなくても、サチュレーションと呼ばれる微量な歪みを加えることはミキシング界では頻繁に行われています。
微妙な歪みはデジタル楽器にアナログ特有の暖かさを加えたり、複数のトラックをまとめる「接着剤」として使われたり、ドラムにパンチを加えたりと様々な役割を果たします。
プロの楽曲と比べて、自分のトラックがさみしく聴こえる場合には、トラックにサチュレーションを加えることで解決できるかもしれません。
→【2022年最新】高品質のサチュレーションプラグインおすすめ5選
まとめ
今回はミックスとマスタリングについてお話しました。
冒頭にもお話しましたが、ミックスとマスタリングの正しいやり方というのは存在しません。自分の音楽スタイル、ジャンル、そして目的としているサウンドによってやり方は大きく変化します。
通常であれば専門的な音楽知識が必要なため、ミキシング・マスタリングエンジニアに仕事を依頼するのですが、DTMを使った個人のクリエイターは、自分で作編曲と同時進行でミキシングを行う人も多いです。
作業量は増えますが、最終的な音源をイメージしながらすべての工程をリンクさせて進めることができるので、より自分の理想に近い音楽を作ることができます。
楽器ごとの詳しいやり方はミキシング欄を参考にしながら、自分に合った最適な方法を見つけてみてください。
以上、「個人ミュージシャンが自分で音楽をリリースするまでの流れ【ミックス&マスタリング編】」でした。