音楽制作におけるミックスとは?基本的な7つの手順
音楽制作のプロセスでは、作曲から始まり、編曲、ミックス、マスタリングという流れが一般的です。ミックスは現在の音楽制作では必ず行われる工程の一つですが、これから始める方の場合、実際にどのような作業を行っているのかよく分からないという方も多いと思います。
そこで今回は、音楽制作におけるミックスの意味やその基本的な手順についてご紹介します。
ミックスとは?
音楽制作におけるミキシングとは、異なるオーディオトラックを最終的にステレオ、またはマルチチャンネルミックスとして一つにまとめる工程のことを指します。
ミキシングの目的は、ボーカル、ドラム、ギター、ベース、その他の楽器など、楽曲を構成するさまざまな要素の音量、音質のバランスをとり、まとまりのあるダイナミックなサウンドを作り出すことです。
ミックスの重要性
ミックスによって、最終的な音源の品質は大きく変化します。
楽曲の完成度を高めるには元となる音源品質はもちろんですが、ミックスを行う「ミキシングエンジニア」の腕にも掛かっています。
ただ楽器を混ぜ合わせただけでは、音量バランスがバラバラだったり、楽器と楽器がぶつかり合って、こもったようなサウンドになってしまう可能性があります。そこで、ミキシングエンジニアは各トラックのボリュームや音質、音の配置等を考えて、アーティストの意図する音源になるように近づけていくのです。
「ミキシングエンジニア」を専門としているプロフェッショナルは世界中に存在し、アーティスト側は自分達の理想とするサウンドを鳴らしてくれるエンジニアを見つけ出し、自分の作品は信頼のあるエンジニアにしか任せないという大物アーティストもたくさんいます。
ミックスのやり方
ミキシングの基本的なプロセスには、いくつかの工程があります。
エンジニアごとに独自の手法があったりもしますが、ここでは、ミックスで必ず行われる基礎となるいくつかの手順をご紹介します。
1. オーディオデータを整理する
まず、ミックスに使用するオーディオデータを整理し、ミキサーに配置してルーティングを設定し、テンポや拍子などのセッション設定を行います。
トラックの数が膨大になることもあるので、この段階で正しくオーディオデータを整理し、ミキサーに配置しておくことで、混乱を防ぎ、後の作業効率を大幅にアップさせることができます。
ほとんどの主要なDAWではミキサーの情報をプリセット保存できるので、自分なりのやりやすい「型」を決めてしまえば、次からはこのステップを省略することができます。
2. 音量のバランスを取る
適切に音量バランスをとることは、オーディオのミキシングにおいて基礎となる非常に重要な要素です。各楽器がバランスよく聴こえるようにし、全体としてまとまりのあるサウンドにすることを目的とします。
ミックス全体での調和をはかるようにミックス内の各トラックのレベルを調整し、楽器同士が他のパートを邪魔しないようにすることが大切です。
例えば、伴奏楽器がボーカルトラックを圧倒したりすることがないように、後に紹介するEQやコンプに頼る前に、ボリュームフェーダーで調整する必要があります。
3. パンニングで配置する
音楽制作におけるパンニングとは、左右のステレオフィールド内にオーディオ信号を配置することです。左右のスピーカーの間でオーディオ信号のバランスを調整し、ミックスに空間と奥行きを作り出します。
パンニングを適切に行うことで、より音像の広い壮大なサウンドステージから、よりフォーカスされたまとまりのあるミックスまで、さまざまな音場を生み出すことができます。
例えば、ギターリフを少し左に、キーボードのパートを少し右にパンニングすることで、2つの楽器の間に分離感が生まれ、ミックスの中で区別しやすくなります。
また、オートメーションをかけてパンニングを自由に動かすことで、音がステレオフィールドの片側からもう片側へ移動しているように聴こえたりと、ミックス内に動きを作り出すこともできます。
→ミキシングの3大要素【音量・定位・音質】について
4. EQとフィルターで音質を整える
各トラックにEQエフェクトを使ったイコライジングとフィルタリングを適用し、特定の周波数をブーストしたりカットしたり、不要な帯域をフィルターで除去することで、ミックスのトーンバランスを形成します。
イコライザーを使って低音、中音、高音などの異なる周波数帯域のレベルを調整することによって、各楽器を住み分けすることで、各要素をよりクリアに聴かせることができます。
イコライザーには、グラフィックイコライザー、パラメトリックイコライザー、シェルビングイコライザーなど様々なタイプのイコライザーがあり、それぞれに特徴や利点があります。イコライザーの使い方を理解することで、様々なリスニング環境に対応したバランスの良いミックスを実現することができます。
→イコライザー(EQ)の使い方を徹底解説【DTM】
5. コンプレッサーでダイナミクスを調整する
コンプレッサーはオーディオ信号のダイナミックレンジをコントロールするために使用されるエフェクトです。
ダイナミックレンジとは、オーディオ信号の最も音量の小さな部分と、大きな部分の差のことをいいます。コンプレッサーは、信号の最も大きな部分を圧縮することで、音量差を小さくすることができます。
コンプレッサーはダイナミックレンジをコントロールするだけでなく、音質を変化させる目的でも使用されます。例えば、遅めのアタックスピードと深めのレシオ値に設定して、信号のアタック部分を強調することで、よりパンチのある攻撃的なサウンドにすることも可能です。
また、ギターなどの楽器にサスティーンを加えたり、EDM系のジャンルではサイドチェインコンプレッションによる「ダッキング効果」を生み出すのにも使われています。
→コンプレッサーの基本的な使い方
6. 空間系エフェクトで雰囲気を出す
一般的に空間系エフェクトには、リバーブ、ディレイに加えて、モジュレーション系(コーラス、フランジャー、フェイザー)などがあり、特定の空間再現やミックスのステレオイメージを変化させるエフェクトです。
例えば、大ホールで演奏しているかのような壮大な反響音をシミュレートしたり、やまびこのような音の跳ね返りを生み出すことで、より奥行きと深みのあるサウンドを作ることができます。
自然界では「残響」のない場所はほとんどなく、必ず天井、地面、壁に反射した音も同時に耳に入ってきています。特にデジタル音楽の制作においてはより自然なサウンドを入手する為に必須のエフェクトの一つです。
→クリアで立体感のあるミックスの為の5つのリバーブテクニック
7. マスタリングで仕上げる
マスタリングはミキシング作業の後に行う、プロダクションにおける最終工程のことで、イコライジング、コンプレッション、リミッティング等のマスタリング用プラグインを使ってオーディオバランスを最適化します。
マスタリングでは、音質や音圧を調整して、すべての再生機器やメディアフォーマットでなるべく同じようなバランスで再生されるようステレオミックスを最適化することで、アーティストとリスナーとの音楽的なギャップを埋めることを目的としています。
最近ではミックスとマスタリングを分けることなく、同時に行うエンジニアも増えてきました。PC能力やDAWの進化、配信フォーマット先のノーマライゼーションの統一化が進むことで、本来マスタリングで行う作業もミキシング中に行うことが可能になってきています。
→マスタリングとは?基本的な5つのステップとヒント
まとめ
ミックスの目的と、基本的なミキシングの流れについてご紹介しました。
ミックスの基礎的な7つの手順は以下の通りです。
- オーディオデータを整理する
- 音量のバランスを取る
- パンニングで配置する
- EQとフィルターで音質を整える
- コンプレッサーでダイナミクスを調整する
- 空間系エフェクトで雰囲気を出す
- マスタリングで仕上げる
基礎的な内容ですが、ミキシングエンジニアによってはさらに独自のミックス方法があったりします。色々と実験しながら最適なミックス方法を探すのもミキシングの楽しみの一つです。
実際にミックスを行う時には、今回の内容を参考にしつつ、最終的には自分の耳で判断して修正を加えることを意識してみましょう。
以上、「音楽制作におけるミックスとは?基本的な7つの手順」でした。